政治・経済

総務省の次期事務次官に桜井俊・総務審議官(61歳)が昇格した。旧郵政省出身者の次官就任は約3年ぶり。桜井氏はNTTグループ再編や放送のデジタル化に伴う電波の再割り当てなどを推進。早くから次官候補として本命視されてきた。 文=ジャーナリスト/百合野さき丸

 

「嵐」のメンバーの櫻井翔パパは、敵が少ない政策提案型の人物

 桜井俊氏の長男は、人気タレントグループ「嵐」のメンバーの櫻井翔くん。それだけに一般の注目度も高い。

 昨年総務事務次官への昇格が見送られた際は、翔くんが日本テレビ系の番組でキャスターを務めるとともに妹の舞さんも日テレの社員であることが、電波行政を司る総務省の事務方トップとなるのに足かせになった、との観測も出ていた。

 昨年の次官人事では、旧自治省出身の大石利雄氏が起用され、2代続けて消防庁長官からの横滑りとなった。大石氏と前任の岡崎浩巳氏、さらにその前任で旧郵政省出身の小笠原倫明氏の3人はそろって1976年入省だった。このため、77年入省の桜井氏にとっては、今年が次官昇格のラストチャンスと目されていた。

 こうした経緯や過去の一部観測からすると、今回の人事の裏には何らかのドラマがあったのではないかと勘ぐりたくもなる。しかし、残念ながら、同省内外の関係者は、桜井氏の昇格については至極当然で、翔くんらの動向とは全く無関係だと口を揃える。

 桜井氏は群馬県出身。東大法学部を卒業して旧郵政省に入省した。97年には電気通信事業部の事業政策課長となり、99年に実施されたNTT分割で手腕を発揮した。2004年6月から1年あまり経済産業省の官房審議官(IT戦略担当)となったことを除けば、旧郵政省と総務省(01年発足)にとどまり続けてきた。

 11年には総合通信基盤局長として、放送のデジタル化で使われなくなった電波の周波数帯を、データ流通の増大に見舞われた携帯電話会社向けに再配分する作業を進めた。その際に持ち上がった欧米流の電波オークション導入論議にも対応するなど、一貫して通信・放送行政に携わってきた。

 総務省幹部は桜井氏について、バランス感覚に富み、他人に対する受け答えも柔軟だとして、「敵が少ない。若手も含めて『一度酒を飲みたい』との声が非常に多い」と評する。さらに「利害調整型」だった過去の大物と違い、「政策提案型」である桜井氏がトップに立つことによる効果が期待できるとして歓迎の意を示している。

 霞が関取材の経験が長い大手紙の記者も「菅義偉氏が官房長官に就任した時点で、桜井氏の次官昇格は決まっていた。予定調和の産物というべきであり、全く驚くには当たらない」と言い切る。菅氏が06〜07年に第1次安倍内閣の総務相を務めた際、桜井氏は同氏との関係構築に務め、多大な信認を得ていた、という。

 昨年の次官人事について同記者は、「統一地方選が終わるまでは旧自治省出身者を総務事務次官に据えておく必要があっただけ。あくまでタイミングの問題であり、桜井氏の次官昇格自体は全く揺るがなかった」と解説している。

 さらに翔くんが日テレ系ニュース番組のキャスターに起用されたのが06年、舞さんの日テレ入社が09年だったとして、「家族絡みの話は古いネタで、ここ数年の次官人事とは何の関係もない」と一笑に伏した。ちなみに今年は、日本郵政が株式を上場する予定で、官邸からすれば旧郵政出身者の次官が望ましい面もある。

桜井俊総務事務次官の通信各社との等距離外交とNTT

 「通信業界全体からすれば最適。ベストシナリオだ」。KDDI関係者は今回の人事について、ひとまず歓迎の姿勢を示す。「桜井氏には調整手腕があり、何をするにも用意周到。(菅氏の2代前の総務相だった)麻生太郎副総理の支持も得ている」ためだという。

 ただし、個別企業の立場からすると「桜井氏の姿勢は数年前からNTT寄りに変わってきており、鵜浦博夫・NTT社長との相性も良いようだ」との懸念も漏らす。次官昇格で責任が増すことによって、こうしたスタンスが変わるかどうか注目したいと語る。

 同関係者がスタンス変更の節目として挙げるのは、12年にNTTグループ各社の料金請求一本化を可能にした点。旧国営で圧倒的に有利なNTTを99年に地域会社のNTT東日本、西日本と長距離通信会社NTTコミュニケーションズに分割することによって、業界の競争環境を強化したのに逆行する動きだというわけだ。

 東西会社の光ファイバー網を有効活用するため他社への卸売を促進するサービスについても、昨年来の具体化論議で総務省がNTT側に配慮したのではないかと主張する。

 これに対して前出の同省幹部は、「グローバル化を背景に政策がニュートラルになったことで、冷たくなったように見えるだけ」と語る。過去の政策では、競争促進の観点から「アンチNTT」の色彩が強かったが、米国のグーグルやアップルがコンテンツ提供を仕切り収益の多くを吸い上げるようになったため、インフラを提供する通信事業者を公平に取り扱う必要性が増した、との見方だ。

 その上で「桜井次官」が今後も、通信各社との「等距離外交」を続けるのではないかとの認識を示している。

 

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