政治・経済

「不適切会計」が問題となっていた東芝だが、利益の過大計上が過去5年で1562億円に上ることが判明した。その原因として利益至上主義や企業風土が指摘されている。そして経営責任を取る形で、田中久雄社長をはじめ7人の取締役が辞任する異常事態となった。 文=本誌/村田晋一郎

自ら説明を避けた煮え切らぬ会見の東芝経営陣

 東芝の「不適切会計」について調査を進めていた第三者委員会は7月20日、調査報告書を東芝に提出。その内容を受けて、翌21日、東芝では田中久雄社長、佐々木則夫副会長ら7人の取締役と西田厚聰相談役が辞任した。

 調査報告書によると、2009年3月期から14年4〜12月期までの累計で、利益の過大計上が1562億円に上った。そして経営トップの関与に基づき、組織的に「不適切会計」が実行・継続されたという。組織的な不正については、西田氏、佐々木氏、田中氏ら3代の経営トップが高い収益目標を達成するため、「社長月例」と呼ばれる定例会議で、「チャレンジ」と称して目標実現を事業部門に強く迫ったためであると指摘。歴代社長の利益至上主義のもと、事業部門は目標必達のプレッシャーを強く受けていた結果、不正が横行するようになった。

2013年2月の田中久雄氏の社長就任会見。この時、東芝経営陣の暴走は加速していた

2013年2月の田中久雄氏の社長就任会見。この時、東芝経営陣の暴走は加速していた

 7月21日には東芝と第三者委員会がそれぞれ記者会見を開催。第三者委員会の上田廣一委員長は「日本を代表する大手企業がこのようなことを組織的に行っていたことに衝撃を受けた」と語った。

 一方、東芝の会見で、田中氏は、「不正を指示した認識はない」としながらも、個々の案件については「調査報告書のとおり」とし、自らの言葉で説明することを避けた。それは一蓮托生となった西田氏、佐々木氏への配慮か、それとも不正の認識が本当にないのか。いずれにしても煮え切らない会見となったが、結果的には、自らを含め経営陣が軒並み辞任することで、調査報告書の内容は認めた格好だ。

 社長、副会長、4人の副社長が辞任する異常な事態となったが、当面は室町正志会長が社長を兼務し、事態の収拾にあたる。経営刷新委員会を組織し、今後の経営体制やガバナンス体制について検討。8月中旬には新経営陣を公表し、当初の予定どおり、8月末までに有価証券報告書の提出と14年度の決算発表を行う。そして9月に15年度第1四半期決算を発表し、9月下旬に臨時株主総会を開催し、再生を進めることになる。

西田氏のメンツのために事業をたらい回し

 第三者委員会は、一連の不正会計を経営陣の利益至上主義と、上司に逆らえない企業風土に原因があるとしたが、こうした状況はいつから始まったのか。

 そもそも会計処理で見かけ上の利益を上げる手法は恒常的に行われていたと見る向きがある。その起源は西田氏の出身母体のPC事業にあると考えられる。

 PC事業は02年以降、その時々の組織再編で、デジタルメディアネットワーク社(DM社)、PC&ネットワーク社(PC社)、デジタルプロダクツ&ネットワーク社、デジタルプロダクツ&サービス社、パーソナル&クライアントソリューション社と、社内カンパニーをたらい回しにされた感がある。

 最初のDM社からPC社への移行は04年4月、赤字のPC事業を立て直すために分離・独立させたもの。この立て直しをプロジェクトマネージャーとして指揮したのが西田氏で、外部生産の拡大や固定費の削減、調達改革を進めた。そして調達改革を担当した田中氏が、「Buy-Sell取引」を導入した。Buy-Sell取引とは、PCの主要部品を自ら調達し、アジアの製造委託先に売り、完成品を買い取る取引。部品を一括調達することでコストを削減できる。

 この時の立て直しは大成功し、西田氏の社長就任につながった。そして西田氏は社長就任以降、大胆な経営改革を実行。その成果により東芝内での権力基盤を強固なものにしていった。その後は、西田氏の権力基盤を維持・拡大する方向に動いていく。

 西田氏にとっては、会長時代に経団連副会長を務め、当時の御手洗冨士夫会長の次の会長の座が視野に入っていた。それだけに、東芝の業績、特に自身の出身母体であるPC事業の悪化は避けなければいけなかった。

 西田氏の社長就任以降も、PC事業は事業のテコ入れを図る形で、各カンパニーを転々としていくが、結果的にはPC事業の業績悪化を見えにくくする効果があったとの指摘がある。また、PC事業立て直しで導入したBuy-Sell取引自体はPC業界では一般的な手法だが、東芝では調達部品を製造委託先に販売する際に利益をかさ上げする「押し込み販売」が08年頃から横行するようになった。これが恒常的となり、不正を不正と認識できずに不正な会計を積み重ねていった。

 始まりは西田氏のメンツのためだったが、現在指摘されている不正会計は、その後、映像事業やインフラ事業へと全事業に蔓延していった格好だ。それを加速したのは、次の社長を務めた佐々木氏。佐々木氏は当初は西田氏のメンツを守るため、西田氏との確執が生じてからは対抗上、自分のメンツのため、利益のかさ上げを拡大。リーマンショックや東日本大震災で経営環境が悪化する中、前任者以上の結果を出す必要があり、各事業部への圧力を強めていった。そして、西田氏から成長への転換を期待された田中氏も続いた。

 すべては西田氏が絶大な権力を手にしたことから暴走が始まったと言える。そのツケはあまりに大きい。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る