マネジメント

企業経営とLGBTの現状

 

 「13人に1人が、性的マイノリティー(LGBT層)に属する」

 これを聞いて、衝撃を受ける人も多いのではないだろうか。LGBTとはレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字を取ったものである。

 電通ダイバーシティ・ラボがこの4月に全国6万9989人(20〜59歳の個人)を対象に行った調査では、「身体の性別」「心の性別」「好きになる相手、恋愛対象の相手の性別」の3つの組み合わせで分類した結果、いわゆるストレート(異性愛者で身体と心の性が一致している人)ではない人の比率が7・6%になったという。2012年の調査では5・2%、約20人に1人がLGBT層という結果だったが、LGBTを許容する雰囲気が社会に広がってきたことが背景にあるとみられる。

 とはいえ、LGBT層が周囲にそれだけいることを認識している人は恐らく稀だ。自らLGBTであることを周囲に告白(カミングアウト)することに対しては、相変わらず偏見や差別が残っている。LGBT層の相当数は、カミングアウトすることなく家庭や職場で日常生活を送っている。

今年で4回目を迎えたLGBTを支援するイベント「東京レインボープライド2015」

今年で4回目を迎えたLGBTを支援するイベント「東京レインボープライド2015」

 多くの企業で人材のダイバーシティ(多様性)の必要性が叫ばれる今、LGBTの問題は経営者にとっても他人事ではない。これまでは、女性、外国人、身体障がい者といったテーマでダイバーシティが語られることが多かったが、最近ではLGBTについても、その重要性が強調されるようになってきた。

 だが、他のテーマと違うのは、セクシュアリティという繊細かつプライベートな問題がかかわること、そして当事者が自らカミングアウトしなければ周囲に認識されにくいという現実があることだ。カミングアウトを強制することになりかねないため、女性の登用のケースのように、数値目標を掲げて従業員の何%はLGBTの人材を雇うと決めるわけにもいかない。

 

企業が「LGBTと向き合わない」リスク

 

 多くの場合、LGBTの当事者には、カミングアウトすることによって、「同僚や上司、取引先などから奇異な目で見られるのではないか」という恐れがつきまとう。カミングアウトする人間が少数であるため、そうした問題は「存在しないもの」とされ、企業も取り立てて手を打とうとはしてこなかった。

 だが一方で、何もしないことがLGBTの従業員のモチベーションを低下させたり、取引先にLGBTの社員がいることに気付かずに差別的な発言をして、嫌悪感を抱かれたりといったリスクも存在する。「13人に1人」という数字を考えれば、素通りして良い問題ではないだろう。

 「LGBTフレンドリーではない」というイメージを持たれることによって、優秀な人材を採用し損ねる可能性もある。電通社員で自らゲイであることを公表し、LGBTを支援する認定NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」の代表を務める松中権氏はこう語る。

 「LGBTだから特に優秀な人材だとは限りませんが、その中にいる優秀な人材が会社で能力を生かし切れない、またはすぐに会社を辞めてしまう可能性もあります。例えば私は就職の時に銀行や商社を受けていません。結婚しないと出世できないとか海外赴任できないというイメージがあったからです」

 例えば、異性のカップルと子ども世帯を前提に設計された保険商品などの分野で、LGBTフレンドリーな商品が出れば新たな商機につながるかもしれない、とも松中氏は言う。これからは「何もしないリスク」を企業がどうとらえるかが1つの鍵となりそうだ。

 

LGBT支援は「制度」と「意識」の両輪で

 

 ただし、現段階では「LGBTへの取り組みの必要性は分かるが、何が問題なのか、会社として何に取り組めばいいのか」について、迷っている企業がほとんどのようだ。松中氏は言う。

グッド・エイジング・エールズ代表の松中権氏

グッド・エイジング・エールズ代表の松中権氏

 「いろんな方が自分らしく暮らしていくためには制度の部分も大事ですが、差別や偏見は知識がないから生まれるものなので、制度と意識の両輪で変えていく必要があると思います。会社自体が問題に向き合っているかいないか、トップが何か発言するだけでも違うと思います」

 制度づくりと意識改革の両立の重要性を示す一例として、最近話題になった渋谷区の同性パートナー証明書の話を松中氏は挙げる。メディア報道などでは、同性カップルを結婚に相当する関係として認めるという「制度」の面ばかりに目が行きがちだが、同区の「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」には、LGBTの人が周囲にいるかもしれないということをきちんと理解し、知らない人がいたら教育していく、問題があれば相談窓口のような場所を作っていく、という方向性が盛り込まれていることがポイントだと松中氏は指摘する。

 制度だけ拡充しても偏見が残ってしまえば意味がないが、一方で制度がなければカミングアウトする人が増えず偏見につながる、という見方もできる。少なくとも、家族を築きたい、パートナーを持ちたいといった願望があるLGBTの人々に対して、選択肢を増やしたという意味で、注目される動きと言えよう。

 

LGBTに関する知識不足が企業のネックに

 

 LGBTの問題に関しては、欧米系企業の取り組みが先行している。社内における具体的な支援制度構築は今後の課題というところがほとんどだが、少なくとも意識の面では日本企業は大きく立ち遅れている。

 アップルCEOのティム・クック氏が14年に自らがゲイであることを公表してニュースとなったが、日本の大企業経営者が同じことをするのは、今の日本社会では相当ハードルが高いのが現実だ。しかし、産業界に限らず、あらゆる分野でLGBTであることをカミングアウトするロールモデルが増えれば、社会の雰囲気はさらに変わるかもしれない。

 また、成功した起業家や芸能人でなくても、社会の雰囲気を変えることは可能だ。LGBTに理解があり、支援したいと考えている人は「アライ(アライアンスの意)」と呼ばれている。1人でも多くのアライを増やすためには、正しい知識を個人レベルでも企業レベルでも浸透させることが必要となる。

 「東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年に向けて、さまざまな国の人たちが日本を訪れる中、グローバル企業としてLGBTの問題を知らないことがネックとなり得ます。LGBTについて考えることが、セクシュアリティに限らず、人々の違った部分を生かそうというインクルージョン型の経営を目指すきっかけになるのではないでしょうか」と、松中氏は語る。

(文=本誌編集長/吉田 浩 写真=佐藤元樹)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る