政治・経済

「復活への手応えを感じている」。キリンビールの布施孝之社長は7月10日、2015年上半期のシェアが6年ぶりにプラスとなったことが判明したことを受け、力強くコメントした。

 上半期のビール類の全体市場は前年同期比0・6%減の1億9575万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と、上期としては3年連続で過去最低を更新。その中でキリンの出荷数量は同2・2%増の6659万ケースとなり、大手5社中で唯一プラスを確保した。シェアも同0・9ポイント増の34・0%と、09年上半期以来6年ぶりにプラスに転じた。

 反転のカギとなったのが「一番搾りの徹底的な強化に取り組んだ」(布施社長)ことだ。キリンは、ビールは「一番搾り」、発泡酒「淡麗」、第3のビール「のどごし生」という各ジャンルごとに強いブランドを持つ。販売比率もビールが35・2%、発泡酒が28・7%、第3のビールが36・1%と、各3割前後という構成だ。各ジャンルに強いブランドを持つことで、それぞれのブランドに投資が分散し、消費者や飲食店にとっても、何が主力なのか見えにくく、それにより他社に隙を与えていた。

 そこで今年1月に就任した布施社長は、分散投資を改め、一番搾りブランドへの特化を決めた。背中を押したのがビール類の酒税の改正だ。政府・与党は今後数年かけてジャンルごとに異なる税率を55円に1本化する方針。ビールの酒税は現在は77円だが、22円安くなり、その分、販売価格が下がり、逆に増税となり値段が上がる第3のビールや発泡酒を愛飲していた消費者のビール回帰が予想される。

 このため、将来を考えればビール特化戦略が不可欠で、酒税改正の方向性が、キリンに一番搾りへ広告や販促費を集中的に投下することを決断させたというわけだ。

 キリンは今年、販促費を100億円積み増す計画だが、そのうちの多くを一番搾りの飲食店の新規開拓費用に充てる。これまでは、飲食店向けの開拓費用には、利益との見合いで上限が設けられていたが、この水準を大幅に引き上げ、今年上半期は飲食店向けの新規開拓件数が8割も伸びた。人気アイドルグループ「嵐」を使った広告も集中的に投下し、嵐ファンの心もつかんで、上半期の一番搾りの販売数量は5・7%の増加となった。

 ただビール類の出荷が最も増える最盛期の夏場、忘年会シーズンの12月の商戦が控える下半期に向けて、競争の激化は必至だ。今年9月にはビール業界3位のサントリービールが、一番搾りと同じ麦芽100%で、参考小売価格で220円と同価格帯のビール「ザ・モルツ」を投入する。サントリービールの水谷徹社長は「新たな商品提案で20年にシェア20%(今年上半期は15・5%)目指して品ぞろえを強化する」という。

 アサヒビールも、上半期に苦戦した主力のビール「スーパードライ」の限定ラベル缶を秋商戦向けに発売したり、テレビCMと売り場を連動させた販促策などで下半期のプラス着地を狙っている。

 こうした中、キリンは「下半期も戦略をぶらさず、年間での前年プラスとシェアアップで勝利の年としたい」(布施社長)と意気込みを示す。下半期も飲食店向けの開拓費用を積み増すほか、生産する9工場ごとに味わいが異なる「一番搾り」を発売することなどで、6年ぶりのシェアアップを目指す構えだ。

 キリンは今年の反転攻勢を21年のビール類トップシェア奪還に向けたV字回復“元年”と位置付ける。ただ、09年以来のトップ奪還に向けた道のりはなおも険しい。アサヒとのシェア差は上半期で4・1%で、数量にすると約800万ケースもの差が付いている。キリンの「淡麗」ブランド(887万ケース)丸ごと1つ分の差で、追いつくのは容易ではない。

 ただ、布施社長はトップシェア奪還について「チャレンジしがいがある」と言い切る。市場は、少子高齢化に加え、若者のビール離れもあり、毎年少しずつ減少するのは避けられない。

 しかし、市場が縮小する中でも一番搾りへの集中投資戦略と、原料や製法にこだわって少量生産するクラフトビールなど新たな顧客開拓策を続けることで、前年並みを続けていけば、6年かけて「トップシェアは奪還できる」(布施社長)と見る。ビール類市場で逃げるアサヒと、追うキリン。両雄の勝負の行方はまだ泡の中だ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る