国際

 

  今年8月中旬、中国が人民元を連続3日切り下げるという挙に出た。そのため、中国の景気後退が再確認されたのである。

  以前からわれわれが主張しているように、「中国版公定歩合」(預金・貸出金利。今年6月28日、1年~5年モノ貸出金利5.25%に下がった。その数字は1996年以降、最低である)を見れば、景気動向は一目瞭然である。すでに中国経済は「リーマン・ショック」後の最悪期よりも更に悪化していた。

 今年6月12以降、株価騰落を受け、習近平政権は株式相場で政府が株価を支えるという”禁じ手”を使った(それ以前、官製メディアが個人投資家に株を買うよう煽っている)。そのせいか、株価は何とか4000ポイント弱(8月14日現在の終値)で止まっている。 しかし、元来、中国株式相場は昨春頃の2000ポイント前後がその実態だと思われる。おそらく、この4000ポイントという数値でもバブル気味ではないだろうか。そのため、いつ株バブルがはじけて、株価が暴落しても不思議ではない。

 さて、 「リーマン・ショック」後の2009年を除き、近年、中国の貿易総額は2桁成長から1桁成長(2012年・13年・14年)へと減速していた。今年の同国の貿易総額は、上半期(1~6月)は伸び悩み、2015年全体でマイナス成長(前年比マイナス10~20%)となることはほぼ間違いない。

中国の貿易総額の推移

  そこで、北京は景気を下支え(輸出を促進)するため、いきなり為替相場で人民元の切り下げという”禁じ手”を使ったのである。

 8月11日、中国人民銀行(中央銀行)は人民元(対米ドルレート)の1.9%切り下げに踏み切った。翌12日、人民銀行は1.6%切り下げ、さらに13日、1.1%切り下げと3日連続の切り下げを実施している。ただし、翌14日になると、なぜか人民元を0.05%切り上げた。そこで、1米ドル=6.3975元の基準値となっている(同日現在)。

  よく知られているように、人民元はドルにペッグされ、管理変動相場制(管理フロート制)と呼ばれる。変動相場制ならば、通貨切り下げは金融政策の一環とみなされよう。  ところが、固定相場制や管理変動相場制を採る国の場合、勝手に自国通貨を切り下げると“為替操作”となり、「為替操作国」と非難されても仕方ない。 ただ、中国当局が人民元を切り下げても、この程度では輸出競争力は戻らない公算が大きい。だからと言って、習近平政権としては、このまま手をこまねいていることはできなかっただろう。  実は、習政権はIMF(国際通貨基金)に対し、2016年1月から人民元をSDR(特別引出権)の構成通貨になるよう求めていた。北京は、人民元の“国際化”をねらっていたのである。  だが、今年8月上旬、IMFは2016年10月まで人民元のSDRを留保した。結果的に、適切な措置だったかもしれない。共産党の株式相場に続く為替相場への介入で、人民元の信用は地に墜ちている。人民元の“国際化”はしばらく遠のいたと見るべきだろう。

  ところで、今年9月後半、習近平国家主席が訪米する予定である。その前に、北京が“為替操作”を行うこと自体、常識的には考えにくかった。ホワイトハウス(と米議会)に対中攻撃材料を与えるからである。  世界は、今年9月、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が、アメリカの利上げを発表すると見ている。米国が金利を上げれば、他通貨の切り下げと同じ効果になるだろう。もしそうなれば、中国にとっては人民元のさらなる引き下げとなり、中国経済は一息つけるかもしれない。  韓国の場合、2013年、朴槿恵政権が誕生して以来、「中国一辺倒」に傾いた。そのため、中国の経済減速の影響をもろに受けている。日本のような高度な技術力を持たない韓国は、技術力においても、中国に追い上げられた。そのため、韓国は日中のはざまでもがき苦しんでいる。

  とりわけ、最近、韓国経済の屋台骨であるサムスンの勢いに翳りが見られる。また、韓国国内でMERS(中東呼吸器症候群)が流行し、観光業がふるわず、景気の鈍化が著しい。  結局、習近平政権が人民元を切り下げたので、今後、韓国・台湾や東南アジア諸国は、各国ともに通貨の切り下げを実施しないとも限らない。中国の輸出に対抗するためである。もしかすると、北京による人民元切り下げが、まもなく「アジア通貨戦争」に発展するかもしれない。日本も、その「アジア通貨戦争」に巻き込まれる可能性が十分ある。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る