政治・経済

東京商工リサーチでは「役員報酬1億円以上開示企業」調査(2015年3月期決算)を集計している。そこにランクインした役員は411人で、昨年より50人増加、社数も20社増加している。中には赤字決算の企業や、株主には無配当の企業もあり、総会で批判の声もあった。文=ジャーナリスト/横山渉

 

客観的な見極めが難しい役員報酬の適正額

 

 役員報酬総額のトップは、54億7千万円の宮内義彦・オリックス元会長で、個別開示制度が始まった10年3月期決算以降の報酬額最高記録を塗り替えた。2位はパチンコ・パチスロメーカー三共(SANKYO)の毒島秀行会長で21億7600万円。このトップ2人の報酬の大半は長年の実績に対する退職慰労金で、昨年もトップ3人は退職慰労金による躍進だった。

 役員報酬の内訳は「基本報酬」「賞与」「ストックオプション」「退職慰労金」の4つに大きく分けられる。現役時代の報酬を毎年積み立てる形で退職時に支払われるのが退職慰労金だ。ただし、近年は上場会社を中心にこの制度を廃止する企業が増えている。

 近年は外国人役員が増えているが、必ずしも社長とは限らない。例えば、3位ソフトバンクのロナルド・フィッシャー氏、7位武田薬品工業の山田忠孝氏(日系米国人医師)、8位フランク・モリッヒ氏などトップ10だけでも3人いる。組織・人事マネジメントコンサルティング会社、マーサー ジャパンのコンサルタント、野村有司氏はこう話す。

 「重要な地位を占める外国人が増えており、報酬の多い人はもっとたくさんいます。取締役や執行役でないと開示義務がないため、ランキングには出ません。グローバルに事業展開しようとすれば、現地の人やその地域で経験のある外国人を雇わざるを得ません。現地でマネジメントできる日本人社員が少ないからです」

 退職慰労金が多いと、その年だけ突発的に上位にランクされる傾向が強いので、基本報酬だけで比較したほうが、役員年収の実態を表しているのかもしれない。

 

役員報酬1位はカルロス・ゴーン

 

 「基本報酬ランキング」1位は日産自動車のカルロス・ゴーン社長で、10億3500万円だった。個別報酬の開示は6年連続で、初めて10億円を突破した。

 日産の株主総会の質疑応答では、株主から「ルノーと日産のトップを兼務し、日産に費やした時間は半分なのに10億円。トヨタのトップは2億円台なのに」との不満が飛び出したと経済紙が報じている。ゴーン社長の就任当初から数年は、株主も「会社を立て直したのだから高額でも当然」との評価だったが、ここ数年は、もらい過ぎという評価に流れが変わってきた。

 経営者の報酬が多いか少ないか、客観的に見極めるのは非常に難しい。東芝は不適切会計で決算発表が大幅に遅れているが、役員報酬額はそれほど高くない。

 昨年は佐々木則夫元社長が335位に、13年には西田厚聰元会長がランクインしている。不適切会計は全社的に行われていた可能性が高いが、ほとんどガバナンスが効いていない状態だ。報酬が安くても経営者のレベルが低ければ、結果として会社の業績は落ちる。“安かろう悪かろう”でも困るのだ。

 

赤字決算や無配当でも役員報酬1億円以上の会社は?

 

 役員報酬を開示した企業の中には赤字決算や無配当のところもある。単独、連結ともに赤字だったのは、出光興産、ベネッセHD、ゼンショーHDの3社。無配なのは、ソニー、日本板硝子、ルネサス エレクトロニクス、ゼンショーHD、日本通信、シャクリー・グローバル・グループの6社だ。

 ソニーは単独では黒字決算に回復したが、連結では2期連続の赤字だ。株主総会では、会社提案議案として執行役や従業員へのストック・オプションが出されると、株主から「株主は無配なのに、役員にストック・オプションは納得いかない」という不満が出た。

 役員報酬の高額化が進み、役員と一般社員、正社員と非正規など、企業内の「格差」がクローズアップされている。中流志向の強い日本では、賃金は薄く広く支払うべきという考え方もある。だが、こうした社内格差が、問題になっているのは日本だけではない。

 「米国では最高経営責任者(CEO)の報酬が社員給与の何倍か開示するよう義務付ける方向で議論が進んでいます。否決されましたが、スイスでも最高報酬額を従業員の最低給与の12倍までに抑える国民投票が実施されるなど企業幹部と一般従業員の報酬格差に対する目は厳しくなっています」(野村氏)

 最後に1億円プレーヤーの多い会社を見ると、昨年に引き続き三菱電機が23人でトップ。しかも、昨年の18人から5人も増えている。輸出型産業全般に通じることだが、円安効果で業績が良くなっている点が大きい。

 同社の特徴は、内部昇格が多いこと、そして23人の1億円プレーヤーのほとんどが、200位以降の下位にランクインしていることだ。255位には7人が固まって入っている。格差が少ないと見るべきか、横並び体質と見るべきか。会社経営は結果責任だ。業績次第で見方は変わってくる。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る