国際

世界経済の問題児になる可能性を拡大

ぎりぎりでデフォルトを回避したオバマ米大統領(写真:AFP=時事)

ぎりぎりでデフォルトを回避したオバマ米大統領(写真:AFP=時事)

 オバマ米大統領は10月16日夜、連邦債務上限を2月7日まで引き上げる法案に署名し、債務不履行(デフォルト)になる危機をぎりぎりで回避した。1月初旬までに執行できる暫定予算案も可決し、翌17日には、16日間、無給で自宅待機を強いられていた政府機関の職員らが職場に復帰した。

 政府機関の閉鎖、デフォルトのリスクという2つの異例な事態をくぐり抜けたことは、米国にとって、どんな影響があったのか、長期的な視点で考えてみたい。

 まずは、米経済への影響だ。

 2011年にデフォルトを回避した時のように景気減速の懸念はないが、依然として主な経済指標は弱い。政府機関の閉鎖で、雇用情勢や個人消費への悪影響は避けられない。一部金利への影響もあり、下半期の米経済が4~6月期ほどの勢いを維持できない見通しだ。成長維持は困難で、13年の成長率が12年の2・8%を下回るのは確実視されている。

 9月に開かれた連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が10月9日公開され、意外なことも分かった。9月にFOMCが債券買い取りによる量的緩和第3段の縮小を見送ったのは、市場にはサプライズだった。

 しかし、議事録は、9月の時点でホワイトハウスと連邦議会の財政交渉の難航を織り込み、「財政政策が成長を制約している」と指摘していた。FRBが、予算成立への動きを冷静に分析していたことが浮き彫りになった。

 こうした動きを受け、格付け会社フィッチ・レーティングスは、債務上限引き上げの期限を迎える前の15日、米国債の信用格付けを引き下げる方向で見直すと発表した。こうした動きは、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が11年、米国債の格付けを最上位から一段階引き下げたのに続いて、格付け会社では2社目だ。フィッチは、財政交渉がもつれれば、「米国への全幅の信頼と信用に影が落ちることで、卓越した世界準備通貨としてのドルの役割が損なわれる恐れがある」としている。

 07年から世界金融危機の震源地となった米国は、経済成長を加速させなければいけない局面で、また世界経済の問題児になる可能性を拡大してしまったことになる。

共和党のオバマケア人質戦略に世論は支持せず

 第2に、野党共和党が受けた大打撃だ。そして、打撃を受けながらも、共和党が依然として、ワシントンの政治運営で「台風の目」であり続けることを印象づけた。

 共和党は、財政赤字を縮小し、経済成長を加速させる必要がある財政交渉で、あろうことか、医療保険制度改革(オバマケア)を人質にとった。日本と異なり、国民皆保険制度がなく、国民の4800万人が無保険という米国で初めて、ユニバーサルな保険加入を義務づけた医療保険制度改革法は10年に成立し、14年1月から導入されるはずだった。

 共和党は、オバマケアは大きな政府の権化として大反対し、法律の廃止や予算の停止をこれまでに40回以上も試みたが失敗。しかも、法律廃止を公約にしたロムニー共和党候補が12年大統領選挙で敗れた。さらに12年、共和党州知事らがオバマケアは違憲とする訴えを、連邦最高裁が退け、オバマケアは合憲と決まった。

 それでも収まらない共和党保守強硬派のティー・パーティーは、14年度予算のほんの一部でしかないオバマケアに予算をつけないために、予算案全体に反対。10月1日から政府機関を閉鎖に追い込んでしまった。

 ぎりぎりの交渉で、オバマケア問題は暫定予算案の争点としないことで、与野党が合意し、共和党は大幅に譲歩した。それにもかかわらず、下院では144人もの共和党議員が予算案に反対票を投じた。予算案は賛成多数で可決したが、この144人は、政府機関の閉鎖を続け、前代未聞のデフォルトに陥ることさえ、いとわないという構えだ。

 しかし、世論はこのオバマケア人質戦略を支持してはいない。米紙ワシントン・ポストとABCテレビの世論調査によると、回答者の74%、つまり4分の3が、予算交渉における共和党の対応をよしとしなかった。政府閉鎖前の63%から大きく跳ね上がっている。また、市場や投資家も、共和党が党内の論理で、わずか数十人しかいないティー・パーティー議員にのせられてとった対応を問題視している。

 こうしたことから、暫定予算の期限を迎える来年1月に、共和党がオバマケアを再び人質にした瀬戸際戦略を取るのは不可能とみられる。しかし、14年中間選挙への影響は限定的とされ、現在と同じように、多数派は上院が民主党、下院が共和党という「ねじれ」が続く見通しだ。

 

津山恵子氏の記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る