マネジメント

東京証券取引所と大阪証券取引所(現大阪取引所)が統合し、2013年発足した日本取引所グループ(JPX)。初代グループ最高経営責任者(CEO)を務めた斉藤惇氏から6月16日付でバトンを引き継いだ清田瞭氏。中期経営計画の初年度に経営のテーマとして掲げた「アジアで最も選ばれる取引所」を目指す。 聞き手=本誌/榎本正義 写真=西畑孝則

清田 瞭・日本取引所グループCEOプロフィール

清田瞭氏

(きよた・あきら)1945年福岡県出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、69年大和証券(現大和証券グループ本社)入社。副会長、会長などを経て、2013年6月日本取引所グループ傘下の東京証券取引所社長。15年6月日本取引所グループ取締役兼代表執行役CEO就任。

 

日本取引所グループの競争力強化に向けた清田瞭CEOの考えとは

 

マーケット機能競争で取引所の国際化が進む

―― 証券界を代表する国際派のおひとりとして、今後の国際戦略はどうしていかれますか。

清田 証券取引所も、かつてと違いグローバルな商品を扱うようになり、海外と無縁ではいられません。とはいえ、米国や欧州で起きたような国境を跨ぐ取引所の買収などは、今後は起きる可能性が少ないと思います。

―― 取引所間の競争激化で、世界の大手取引所は合従連衡により、最終的には片手ほどの大きな取引所グループに収れんされると見る向きもあります。

清田 米国には多数の取引所があり、ニューヨーク証券取引所(NYSE)ですら現物株式の2〜3割のシェアしかないので、複数の取引所が統合されることは起きるかもしれません。欧州は多数の国が集まってEU経済圏を形成しているので、ドイツ取引所が他国の取引所を傘下に収めるといったことはあるかもしれません。

 しかし、例えば、日本がシンガポール取引所を傘下に収めるとか、中国が日本のJPXを傘下に収めるといったことは相当ハードルが高いでしょう。取引所は国の重要インフラであり、主要な取引所が1つしかない国では起きにくいと思います。国際化という面で言うと、取扱商品の広がりとかマーケットの流動性、安定性など、マーケット機能の競争という形で起きると思います。

―― アジアでの存在感を高めるとのことですが。

清田 まずはアジアでの存在感を高めていこうという観点で、ミャンマーのヤンゴン証券取引所の開業支援をしています。これは財務省、金融庁、大和総研と国営ミャンマー経済銀行による協力の一環です。

 将来は、成長著しいASEAN地域や中国という巨大な経済と連携していきたい。アジアでは株式だけでなく、いろいろな取扱商品があり、JPXでも手掛けていきたいし、こちらの取扱商品も海外の市場で上場させるといった展開も考えています。アジアで最も選ばれる取引所を目指すという中計で掲げたテーマの実現に取り組んでいきます。そのため、日本株市場に加え、先物取引などの金融派生商品(デリバティブ)市場の拡大を図っていきます。

―― 日本市場は株式の時価総額ではNYSE、ナスダックに次いで第3位。アジアで上海市場とトップを競い、世界の上位クラスです。デリバティブ取引高では15位に甘んじています。

清田 世界の取引所を見ると、NYSEを傘下に置くインターコンチネンタル取引所(ICE)、CMEグループ(シカゴマーカンタイル取引所などの先物取引所の親会社)、ドイツ取引所など、デリバティブの取り扱いが多いところが上位に付けています。

 日本では証券関係のデリバティブを中心に行っていますが、海外では有価証券から金、原油、農産物など非常に幅広い商品を扱っており、広がりが大きい。将来、日本の市場を大きくしようと思えば、金融デリバティブ以外の分野に広げることが必要で、ここに魅力的な商品を上場していけば、成長の余力は非常に高いと思います。

取引時間の延長は世界で戦うために必要

―― 東京商品取引所(TOCOM)との統合による総合取引所構想については。

清田 第1次安倍内閣の時に閣議決定されたものの、内閣が退陣した結果、立ち消えとなりました。第2次安倍内閣が発足してから再度閣議決定され、総合取引所そのものについてはやるべしとの結論を頂いたのですが、TOCOMは経済産業省、農林水産省が監督官庁で、JPXは金融庁傘下にあります。

 JPXとしては、総合取引所の必要性は認識しているものの、経済産業省等の同意なくして一方的には進められません。他方、TOCOMの取引市場が縮小してしまっており、今後その傾向が続いて、あまりに市場が弱体化した後では、統合効果の発揮も厳しくなりますし、上場会社としてのJPXは株主の理解も意識しないといけません。

―― 昨年は現在5時間の取引時間の延長を議論する旗振り役を務めましたが、証券会社などの反対で断念しましたね。

清田 世界の主要市場で最初にマーケットが開くのは東京ですが、いち早く取引が終了するのも東京です。そのため海外で起きたさまざまな事象、例えば昨今のギリシャの問題、あるいはかつてのリーマンショック、9・11と同じようなインパクトのある出来事が起きてしまった場合、欧米で取引されて相場に織り込まれた後に日本市場が翌朝9時に開く。さまざまなニュースに接して、自分が持っている株を売り買いしたいと思っても、動きが取れない状況にあるのです。

 欧米の経済活動が活発な時間帯をカバーできる形にするべきだと考えて取引時間の延長をしようと旗振りをしたのですが、賛同したのはネット証券でした。対面取引しか行っていない証券会社は、夜間に窓口を開設するのは体力的にきついということで反対。大手証券会社は自社のネット取引だけならいいが、対面取引のほうは対応しないということでした。ただ、取引の機会を確保するため、世界の取引所と競争するために必要だという考えは変わっていません。

 

清田瞭CEOとJPXが目指すこと

 

コーポレートガバナンス強化で企業経営が変わる

―― 「ネバーストップ、取引も挑戦も」をスローガンに東証の株式売買システム「アローヘッド」が約5年ぶりに刷新されます。

清田 9月24日からのシステム刷新を予定しています。初代アローヘッドと比べて処理能力は約2倍になり、注文応答にかかる時間は半分に縮みます。ただし、このプロジェクトのスローガンは「ネバーストップ、取引も挑戦も」であり、安定性の確保に重きを置いています。稼働率で業界最高水準を意味する「99・999%(ファイブナイン)」を目指しています。

 売買システムが止まるということは、取引所機能を放棄したことと同じです。初代のアローヘッドを導入した段階で、スピードアップに関しては問題ない水準に達しました。そこで今回の刷新では、取引における利便性向上、安定的に取引ができる仕組みの構築と、リスク管理機能の導入による信頼性向上の3つが大きなポイントになっています。

―― コーポレートガバナンス・コードを6月から市場1部、2部、マザーズ、ジャスダックの上場企業に適用しました。

清田 斉藤前CEOがライフワークとおっしゃっていたもので、やっと実現に至りました。これは安倍政権の経済活性化策として、政府の成長戦略の中に位置付けられており、非常に大事なテーマです。昨年2月に導入された日本版スチュワードシップ・コードとセットとして位置付けられたものです。経営者は企業経営というものは何かということを、考えながら経営していくこと。そのためには企業価値の向上という形で株主にきちんと報いましょうと。

 ガバナンスのためには外部の目や、取締役会の独立性を担保し、経営側は独善的にならずに株主と建設的な対話を通じて企業価値向上という共通の目標に向かってやっていきましょう、というものです。バブル期あたりまでは、一定の利益を上げていれば、ROE(株主資本利益率)は関係ないとか、配当も額面50円の株で1割の5円で十分といった考え方を持つ経営者も多かった。それが昨今は、ROEを意識した経営へと大きな変化が見られます。

新規公開株への不信感を取り払う

―― 日本の経営者は変わったとのことですが、新規公開株への不信感の広がりがあります。

20150908_SI_P02清田 問題は3つあり、ひとつは上場企業のオーナー経営者が関与する不適切な取引、2つ目は安易に上場直後に業績予想を大幅に下方修正する動き、3つ目に上場時期の集中の問題です。

 1と2については、3月31日に「最近の新規公開を巡る問題と対応について」という声明を発表し、私どもの対応を強化することを前提に、引受証券会社と監査法人にも、自主規制法人の佐藤隆文理事長と、当時東証の社長だった私との連名で要請文を出し、協力をお願いしました。3の問題は、できるだけ分散を図るべく、対応をお願いしています。一気には進まないかもしれませんが、業績予想において、その前提条件を開示するなど、変わってきています。

―― 上場審査が厳しくなったとはいえ、今年も相当数の上場がありそうです。

清田 ピークだった2000年の204社には届かないでしょうが、8月4日までで56社で、年末までには、期待を込めて、90社前後になるかと思っています。かつては証券会社の引受審査も不十分で、見切り発車で上場させてしまったケースもあったかと思います。現在では厳しくチェックするようになっており、上場したものの、その後に潰れていくといった企業が出ないようにしていっていただきたい。

 その上で、JPXとしては、安心して取引できるインフラの整備と商品の拡充で、世界との競争力を高めていきます。

 
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