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コーポレートガバナンスを語りつくす――鈴木茂晴×牛島 信[前編]

鈴木茂晴氏(左)と牛島 信氏(右)

 金融庁と東京証券取引所の主導でコーポレートガバナンス・コードが策定され、6月1日から適用が始まった。上場企業の多くは、2015年末までに同コードへの対応を記載した報告書を東証に提出することが求められることになった。

 グローバル市場における日本企業の評価向上につながる動きだけに、各社の対応が注目されるが、課題も多い。弁護士として数多くの企業法務案件を手掛け、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)の理事長も務める牛島信氏が対談ホストを務め、日本を代表する企業経営者たちに、コーポレートガバナンスに対する考えを探る。 構成=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森

 

社員のロイヤリティ向上のため鈴木茂晴氏が行ったこと

 

(すずき・しげはる)1947年生まれ。京都府出身。慶応義塾大学卒業後、71年大和証券入社。本店営業部からキャリアをスタートし、秘書室、人事部、経営企画室などを経て、2001年専務取締役。04年6月大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長に就任。女性が活躍できる職場環境や社内の制度にいち早く取り組み、大きな成果を上げる。11年より現職。

(すずき・しげはる)1947年生まれ。京都府出身。慶応義塾大学卒業後、71年大和証券入社。本店営業部からキャリアをスタートし、秘書室、人事部、経営企画室などを経て、2001年専務取締役。04年6月大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長に就任。女性が活躍できる職場環境や社内の制度にいち早く取り組み、大きな成果を上げる。11年より現職。

牛島 鈴木会長が大和証券の社長になった時、最初に手を付けたのがオフィスの設備だったと聞きました。特に、トイレを奇麗にしたという話は有名です。

鈴木 会社の活力というものは、従業員のロイヤリティから生まれてくると思っています。そう考えると、現場を見れば会社が分かるはずなんです。そこで、社長に就任した時、できるだけ多くの支店を見て回ろうと思いました。

 当時、支店は120店舗くらいあったのですが、すべてとはいかなくても、できるだけ回ろうと。そこで驚いたのは、私の入社直後よりも、支店の環境が悪くなっていることでした。お客さまの目が届くところは奇麗なのですが、そうではないところ、バックヤードなどは全く手入れをしていないので、汚いままになっていました。私が支店にいた頃は新しかったけれど、そのまま古くなってしまっている。きっと新入社員の親御さんが見たら「そんな会社に入るのはやめなさい」と言うだろうと思いました。

 もともと証券業界は男性社会でしたから、例えばトイレ1つ取っても、男性用トイレのほうが広い。実際にはトイレを使う時間は女性のほうが長いのにもかかわらず、です。

牛島 それを変えていこうと考えられたわけですね。

鈴木 当時、本社が手狭になって移転を検討していたのです。そうなると本社は奇麗になる。本社が奇麗で支店は汚いままというのは、現場で働く人たちにどう映るだろうと考えたのです。そこで、本社移転の準備をしている間に、支店を奇麗にしていこうとしたわけです。全部で200億円くらい掛かったと思います。

 最初に東京の蒲田支店を改良したのですが、私は視察に行けなかった。そこで写真を撮らせたのですが、店頭をはじめ、お客さまの目に触れるところばかり撮ってくる。そういうことではないと、社員が働くオフィスやトイレの写真を撮り直させたことを覚えています。

牛島 鈴木さんの経営論の中には「従業員が一番大事」というものがあります。今世間で言われているダイバーシティの話も、女性従業員が奇麗なトイレを使うことができるという話につながります。鈴木さんは従業員中心の考えとともに、女性にも社会的責任を負って頑張ってほしいというメッセージも発信されています。

鈴木 証券会社として、一番大事なのは株主ではなく従業員だと発言することはちょっと語弊があるかもしれません。ですが、突き詰めて考えると、一番大切なのはお客さまなのです。そのお客さまを大切にするには、従業員が頑張らなければならない。そのためには、会社が従業員に何かを提供しなければならない。そういったものがつながっていくことで、会社に利益が出ると株主にも貢献できる。

 私が店頭で働く女性従業員に語るのは「あなたが大和証券だ」ということです。あなたがお客さまに嫌な態度を少しでも見せたら、お客さまは二度と来てくれない。口コミで悪い評判も広まる。あなたが大和証券を代表してお客さまに接しているのだということです。

牛島 「あなたが大和証券だ」という言葉は重いですね。

鈴木 そのことは徹底して伝えるようにしています。会社のトップは、実際には店頭に立つことはできません。支店の雰囲気というのは非常に重要で、お客さまはそれを敏感に感じ取る。だからこそ、誰もが誇りを持って、気分よく働ける職場にしなければならないのです。

 

将たる器とは何かを考えることがコーポレートガバナンスにつながる

 

牛島 経営者は最終的には自分では何もできない。だからこそ、社内に「経営者や上司への信頼」「仕事へのプライド」「従業員同士の連帯感」がなければならないともおっしゃっていました。

鈴木 それは、私がどうして大和証券の社長になれたのかということにつながります。大半は運が良かったということなのですが、私よりも営業成績が良かった人も、私よりも頭が良い人もたくさんいました。しかし、「自分1人では何もできない」と分かっている人は案外いなかったのだと思います。自分がトップ営業マンだとしても、部下に頑張ってもらって業績を残すことができるかは別の問題です。

 私自身の経験ですが、一時期、ファイナンスを指導する部署の部長になった時期がありました。その部署では、ファイナンスのプロが部長を歴任していたのですが、私はほかの部署からの異動で、部下のほうが業務に精通していました。しかも、その仕事は非常に地味で大変なものでした。その中でどうやって頑張ってもらうか。重要な仕事を任されている部下たちですから、みんな優秀なんです。

 そこで部下には「ここで3年頑張ってくれたら、好きな部署に異動させる」と話しました。3年間の時間の猶与ができたので、異動先候補の責任者に話をとおし、口説いていきました。加えて、現在の仕事の重要性を説くことで、自らの仕事に誇りややりがいを見いだしてもらうように心掛けました。自分にはできないからこそ、どうやって部下にやる気を出してもらうかを考えたのです。

牛島 何だか前漢の劉邦の話を思い出します。将に将たる器と兵に将たる器は違うという話ですが、それは今のコーポレートガバナンス論につながると思うのです。コーポレートガバナンスというのは、将に将たる器とは何かを考えて、どういう人にやってもらうかという話なんです。そこから従業員がいかに大切か、長期雇用が重要かという話につながってくる。

 今や日本企業も長期雇用にこだわらなくなっていて、雇用の流動性が増しています。ただ、このまま流動化が進むと、雇用が海外に流出してしまうのではないかという危惧があるわけです。ロバート・ライシュは『格差と民主主義』という本の中で、一国の経済とは居住する国民のためにあるとまで断言しています。

鈴木 企業が果たすべき役割として、雇用がある。次に大切なのが利益を上げて税金を納めることだと思います。だから利益を出さないとダメなんです。それでもあえて言えば、企業の最大の役割は雇用だと思います。

 ある会社が経営に苦しむ会社を買った。そして大幅なリストラを行って再建した、良い会社になりましたといって、本当にそれで良いのかと考えます。会社を生き残らせるためにやむなく規模を縮小することはあっても、利益を出すために雇用を縮小するのはおかしい。米国は雇用にドライだという印象がありますが、成長している会社はなかなか人を切らない。むしろ、従業員のロイヤリティを重視しています。ロイヤリティが高い人はコーポレートガバナンスを考えるときにも重要で、会社に問題があれば指摘してくれる。これに勝るコーポレートガバナンスはありません。

牛島 私も同じ考えで、会社の中心には雇用があると思っています。しかし雇用は単純に保護できません。そのためには会社は利益を出さなければならない。雇用というものは、働く個々人に誇り、生きがいを与えるものだと思います。誰かリーダーがいて、そこで働く。すると給料がもらえる。それを通じて、自分が社会で必要されていることを実感する。自分は社会に必要とされているという実感は自立心を生むし、プライドにもつながる。だからこそ、雇用を生み出す会社、そして経営者は責任が重大なのです。

後編に続く

 
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