マネジメント

ダイエットに成功した一般人や芸能人を使った戦略的なPRによって、ハイペースで成長を続ける「RIZAP(ライザップ)」。開業3年で会員数は約3万人に達し、フィットネス業界に一大旋風を巻き起こしている。このライザップを傘下に持つ健康コーポレーションを率いるのが、社長の瀬戸健だ。2021年3月期に売上高3千億円を目標に掲げ、急成長する企業グループを率いる瀬戸とは何者なのか。その人物像に迫る。 文=本誌編集長/吉田浩 写真=幸田 森

 

「1番」への徹底的なこだわり

 瀬戸が起業したのは24歳の時。「一度しかない人生だから、普通とは違う社会に役立つことをしたい。その自己実現の手段が会社を興すことだったんです」と本人は言う。

 北九州市出身で現在37歳の若手起業家、さらにこの1年余りで急成長した会員制ボディメイクジム「ライザップ」の社長ということで、派手でアクの強い人物かと思いきや、屈託のない笑顔からはそうした雰囲気は感じられない。学校の成績はいわゆる「落ちこぼれ」だったが、小さなパン屋を営む実家の家庭環境はいたって平和。負けず嫌いだが、苦境をバネに成功したというタイプではない。「瀬戸はアホだと周りから思われていたが、それも自分の1つの個性として嫌いではありませんでした」。そんな言葉に人柄が滲み出る。

(せと・たけし)1978年生まれ。福岡県北九州市出身。2003年健康コーポレーションを設立。「豆乳クッキーダイエット」やどろ豆乳石けん「どろあわわ」などのヒット商品を開発・販売。06年、札幌証券取引所アンビシャス上場。12年に会員制ボディメイクジム「RIZAP(ライザップ)」をオープンし、全国的なブームを巻き起こす。

(せと・たけし)1978年生まれ。福岡県北九州市出身。2003年健康コーポレーションを設立。「豆乳クッキーダイエット」やどろ豆乳石けん「どろあわわ」などのヒット商品を開発・販売。06年、札幌証券取引所アンビシャス上場。12年に会員制ボディメイクジム「RIZAP(ライザップ)」をオープンし、全国的なブームを巻き起こす。

 ただ、「1番になること」へのこだわりは人一倍強かった。起業する前に取り組んだパソコン教材販売のアルバイトでは常にトップの成績。起業するにあたっても、世界一の会社にするにはどうすれば良いか、というところから考えた。そして、たどり着いたテーマが「健康」だった。

 「たくさんの人に商品を買ってもらえる会社とは、つまりたくさんの人に必要とされ、世の中の役に立てる会社。そう考えると、人間にとって本質的に最も価値があるのは健康じゃないかと。それを通して世界一になろうと」

 健康の分野に目が向いたのは、幸せな家庭環境の影響もあったと瀬戸は言う。愛情ある家庭で自由奔放に育った経験から多くを学んだ。その土台となった「健康でみんなが長生きすること」の価値を軸に、事業を行うことを決めた。

 起業して最初に手掛けたのは、大豆の栄養素を濃縮したサプリメントの販売だった。夫人と社員2人を雇って自信満々でスタート。新聞広告も打ち、テレビの通販番組にも出品した。だが放送当日、瀬戸を含めた社員全員で電話の前で注文を待ち続けるも、ついに1本の問い合わせすらかかってこなかった。最初の試みは大失敗に終わった。

 「今にして思えば商品も今ひとつだったが、PRも画面に静止画と文字が出るだけで、視聴者によく伝わらなかった」

 この経験を通じ、商品そのものの良さだけでなく、それがどう伝わるかも含めての「商品力」だということに瀬戸は気付く。

服を買うより服の会社を買うほうが楽しい

 商品は全く売れず、900万円の資本金はすぐに底を突き、預金残高は一時13万円にまで落ち込んだ。家賃が払えなくなって夫人の実家に住み込み、生活費は1カ月1万円、創業後に初めて夫婦喧嘩をした時の理由は、夫人が100円のおにぎりを買って「贅沢」したからだという。

 資金がないため派手なPRはできない。出店が無料のデパ地下の催事コーナーなどに商品を出したり、何種類ものチラシを作って自ら撒き、どのチラシが最も販売に結び付くか研究したりした。どうすれば売れるのか、地道な試行錯誤が続いた。

 そして、転機は意外なところから訪れる。サプリメントを買った顧客にプレゼントしていた豆乳クッキーが評判となり、サプリをしのぐ人気となったのだ。「豆乳クッキーダイエット」と称してPRを行った結果、ブームに火が点き、売上高は一気に100億円近くにまで伸長。2006年には、札幌証券取引所アンビシャスへの上場も果たした。 地獄から天国へ――大逆転を果たした瀬戸はしかし、精神的にはあまり変わることなく過ごした。傍目には悲惨に見えた創業直後の苦境も、PR活動にお金を回せないこと以外は辛さを感じなかった。当時の心境を、瀬戸は淡々と語る。

 「事業がうまく回り出してからも、Tシャツは100円ショップで買っていたし、家族で居酒屋に行って1300円しか使わないこともありました。お金を使うことに欲がないし、事業に使ったほうが面白い。服を買うより服の会社を買って人に喜んでもらうほうがよほど楽しいし、満足感が大きい」

 その後、リーマンショックの影響などで、またしても売り上げが急落。100億円近くまで増えた売り上げは、一時30億円まで激減した。すると今度は美顔器がヒットし、再び会社は持ち直した。こうした目の回るような激しいアップダウンをくぐり抜けてこられたのは、過去の成功や金銭に執着しない、瀬戸のメンタルの強さゆえなのかもしれない。

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