政治・経済

東芝の不適切会計の問題は、第三者委員会が部分的に「不正」を認定。9月下旬の臨時株主総会後に発足する新体制では、資生堂で2度社長を務めた前田新造氏や、アサヒビールで社長、会長を歴任した池田弘一氏を社外取締役に招聘し、経営の立て直しをはかる。 文=ジャーナリスト/小川 竜

 

大物OBの説得で室町氏が残留

 東芝の新体制については、問題発覚前の社外取締役4人らで構成する「経営刷新委員会」(委員長=伊丹敬之東京理科大学教授)が設置され、少なくとも表向きには、この委員会で議論されるようになった。

 しかし、関係者によると、この委員会では、委員会設置会社に置かれる3委員会(指名、報酬、監査)の人数や社内外の内訳、再発防止策などの議論がほとんど。実際の人事を行ったのは東芝の元社長で相談役の西室泰三・日本郵政社長や室町正志会長兼社長らだったようだ。

 人事については当然、経営の舵取りをする社長を誰に任せるかが最大の焦点になる。だが、これに関しては田中久雄・前社長の辞任前から、レールが敷かれていた。田中氏らとともに辞めようとした室町氏だが慰留された。西室氏は会見で「残るほうがつらいかもしれないが、絶対に辞めないでくれ」と口説いたことを明らかにしている。大物OBの説得で室町氏は翻意し、田中氏は第三者委員会からの報告書受領の際、「室町会長を中心に再発防止に取り組む」と説明した。このため、田中氏の辞任を受け、暫定的に会長兼社長を務めている室町氏はその後、9月下旬以降の新体制でも社長を続投することになった。室町氏が最初に取締役になったのは2008年。12年にいったん常任顧問に就くが、13年には再び取締役に返り咲き、14年から会長。今回、不正会計が認定されたのは09年3月期から14年4〜12月期までで、この間、直接はかかわっていなかったとしても、一定の監督責任があったことになる。

 このため、「室町体制」がある程度、批判されるのは避けられない。株主総会で株主の賛成を得るためにも、ネームバリューのある社外取締役をそろえ、チェック機能の強化をアピールしたい。しかし、「火中の栗」を拾うことになる社外取締役の就任には、二の足を踏む経営経験者が多く、人選は難航した。

 東芝がまず、白羽の矢を立てたのは、現職の財界主要団体トップで、論客として知られる小林喜光・経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)だった。小林氏は東芝を「日本にとって大事な会社」と高く評価しており、刷新委のオブザーバーへの就任は快諾したが、「社外」就任に関しては「忙しい」と難色を示した。8月初旬には、東芝の人事は停滞。「このままでは株主の理解を得られない」(関係者)との悲観論が社内を支配した時期もあったようだ。

 しかし、東芝は親密企業の社長経験者を中心に、粘り強く人選を続けた。三井財閥の企業として出発した東芝にとって、旧住友銀行(現三井住友銀行)の支援を受けて成長してきたアサヒグループホールディングスは関係が近く、取引もある。資生堂も、グループを通して業務支援システムを納入している。

 何より、西室会長時代、池田、前田両氏は東芝の「経営諮問委員会」に名を連ねており、適任と判断。説得には財界の大先輩である西室氏の存在が物を言ったようだ。小林氏も最終的には就任を受諾し、経営の経験が豊富な財界関係者3人が社外取締役に名を連ねることになった。

「長老支配」との批判を跳ね返せるか

 一方で問題発覚前の社外取締役4人をどうするかも焦点だった。元外務官僚や大学教授らで、「経営が分かっていない」(関係者)という意見もあり、全員を交代させる方向だったようだ。しかし、取締役会議長について、要請していた小林氏が首を縦に振らなかったため、伊丹氏を充てる案が浮上。刷新委の会合では、事実上、辞めさせられる社外取締役の1人から「伊丹さんも辞めるべきだ」との意見が出て紛糾する場面もあったが、東芝は〝お家の事情〟で振り切った。

 東芝は8月18日、新体制は取締役の社外7人、社内4人とし、3委員会のメンバーすべてを社外取締役とするほか、社長の信任投票制などの再発防止策も発表した。「外部の眼」を導入し、先進的な形を作り上げたとも言えるが、本社に集まった記者やアナリストの反応は厳しいものだった。「この体制で『東芝は変わる』とアピールできるのか」という質問に対し、室町氏は「批判は承知しているが、結果を見ていただきたい。危機的状況を乗り切ったら後進に道を譲りたい」と答えるのが精いっぱいだった。

 その後、議長については資生堂の前田氏が就任する方向になり、紆余曲折の末の新体制がほぼ、まとまった。副社長4人ら、次のトップ候補者の多くが辞任したという人材不足という事情もあるが、株主総会では、議長を務めるであろう室町氏に厳しい意見や質問が飛ぶのは必至だ。

 続投批判に加え、新体制構築について西室氏に頼らざるを得なかったというプロセスに「長老支配」との見方も強まる。

 これらの批判を封じ込めるには、室町氏が自身で言ったように結果を出すしかない。韓国サムスン電子と世界トップを争うフラッシュメモリなど半導体の分野で積極投資を続ける必要がある一方、同分野に依存する収益構造からの脱却も課題だ。室町氏は家電などの不採算事業についても「徹底的に改善する」と話しており、こうした改革を断行できるか、新体制の実力が問われる。

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