政治・経済

低投票率で自民党が敗れた地方選挙

 この夏、安保関連法案の審議や安倍首相の戦後70年談話といった大きな政治ニュースが報じられてきたが、その陰にかくれたローカルニュースを取り上げてみたい。

 それは「地方選挙」だ。実は8月の上旬に、今後の安倍政権と自民党にとって暗たんたる前途を示すような、極めて深刻な結果を出した地方選挙が相次いだ。

 まず、8月9日に投開票されたのが東京の立川市議会議員補欠選挙。たった1議席の欠員を埋める地方選挙だが、ここで民主党と維新の党の野党連合候補が自民党候補を破ったのである。

 単なる勝ち負けだけではなく、地元の自民党関係者が大きな衝撃を受けたのは、投票率が29・20%と極めて低かったにもかかわらず敗れたことだ。

 これまで全国の地方選挙では「20%とか30%とかの低い投票率の場合は、自民党の組織票対共産党などの組織票対決になりほとんど自民党が勝つ」(同関係者)傾向にあったのだが、立川の場合はそうした低投票率で敗れてしまったのだ。

 さらにその前週の8月2日に投開票されたのは宮城県の仙台市議選。過去、仙台市内の5つの選挙区のトップ当選の座は自民党の指定席だった。しかし、今回はトップがゼロ。しかも5つのうち3選挙区でなんと共産党がトップ当選を果たしたのだった。自民党は2候補が落選した。

 そして、仙台もまた前回を下回る低投票率だったが、立川市議補選同様、苦戦を強いられたのだ。

イラストレーター/のり

イラストレーター/のり

 私は、立川市や仙台市の自民党地方議員や都連、県連などに話を聞いた。

 「投票率が低いのに負けているのは、自民党支持者ですらいまの安保関連法案や政権運営に嫌気がさして反自民候補に投票している。地方で苦労して選挙しているのに、安保法案や若手議員の暴言など中央が足を引っ張っている」(自民党立川市議)

 「怖いのは来年の参院選だ。うち(宮城県)は選挙制度改革で定数が減り改選は1議席、つまり1人区だが、都市部の仙台で今回のように反自民が勢いづいている上に野党が候補を一本化してきたら厳しい」(自民党宮城県連幹部県議)

 「東京は全国一の無党派の集積地。安保法案で支持政党なしが増えている。参院選で東京選挙区は2人当選が命題だが、公明党も候補が出てうち(自民)が単独で票を出さないといけない。無党派にそっぽを向かれたら厳しい」(自民党東京都議団幹部)

地方選挙の結果はそのまま来年の参院選に直結

 地方選挙では、岩手県知事選挙の不戦敗もあった。「自民党の選挙史に傷がついた」(岩手県連幹部)というこの騒動は、自民党が推す平野達男参議院議員が、告示2週間前になって、突然出馬を取りやめたもの。真相はズバリ「勝ち目がない上に、政権に数々の悪影響が出るから降りた」のだ。

 岩手は言わずと知れた生活の党の小沢一郎共同代表の地元。現職で3選を目指す達増拓也知事は小沢系だが、「小沢さんは、今回の知事選を野党再編につなげるために既に年明けから動き、民主党は幹部の1人が夏前から岩手に入り、維新も執行部が小沢氏と度々接触。また、共産党もなんと小沢・志位委員長会談が実現して連携に合意した」(民主党幹部)のである。

 一方の自民党は元小沢氏側近でその後袂を分かった二階俊博総務会長が、「小沢王国を潰す」と怨念のように平野氏を推していた。しかし、安保関連法案や自民党の相次ぐ失言・暴言などで、内閣支持率は急落。「中央の政治状況をそのまま反映し、地元のマスコミの世論調査で、達増氏がダブルスコアのリードにまでなった」(前出・民主党幹部)ことから、官邸内部で7月上旬くらいから出馬取りやめが検討されたのだという。

 「平野さんが惨敗すれば同時期の安保法案採決にも影響が出る。最後は、安倍首相と二階さんで『ここは負けるが勝ち』と降ろした」(自民党中堅議員)

 ただ、臨戦態勢でやってきた最前線の岩手の自民党地方組織は、中央は戦い方を間違っていると話す。

 「支持率が下がっているときこそ戦って結束すべき。逆に県民や地元財界から逃げたという批判が殺到している。かつて民主党政権時代に、民主党が敗戦濃厚の知事選挙で候補を見送ることがあった。その時にわが党は『不戦敗とは政権与党のやることか!』と批判したが、いまそれがブーメランのように返ってきている。地元ではむしろ来年の参院選でお願いなんかできなくなった」(前出・岩手県連幹部)

 この夏、数々の地方選挙の結果はそのまま来年の参院選に直結し、1人区は苦戦。参院選に敗北となれば、安倍首相の目指す憲法改正も遠のき、政権運営も迷走、崩壊は現実になる。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

入学試験や資格取得のための勉強法については、さまざまなハウツーコンテンツが世にあふれている。そんな中、独自の学習理論で注目されているのが、サイトビジット社長の鬼頭政人氏。勉強法という個人的な問題を解決するためのサービスを、「働き方改革」を推進する法人向けにも展開している。(取材・文=吉田浩) …

鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年2月号
[第45回経済界大賞]
  • ・[大賞]新浪剛史(サントリーホールディングス社長)
  • ・[特別賞]小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)
  • ・[優秀経営者賞]水田正道(パーソルホールディングス社長CEO)
  • ・[優秀経営者賞]青野慶久(サイボウズ社長)
  • ・[ベンチャー経営者賞]及川智正(農業総合研究所会長CEO)
  • ・[ベンチャー経営者賞]山本正喜(ChatworkCEO兼CTO)
  • ・[グローバル賞]ハロルド・ジョージ・メイ(新日本プロレスリング社長兼CEO)
  • ・[100年企業賞]高松建設(高松孝年社長)
[Special Interview]

 新浪剛史(サントリーホールディングス社長)

 創業精神の共有から始めた米ビーム社との統合作業

[NEWS REPORT]

◆海外メーカーを次々と買収 キリンがクラフトにこだわる理由

◆売上高は前期比3割増 止まらぬワークマンの快進撃

◆第3の都市はどこに? 「スタートアップ拠点」争奪戦

◆寿司屋の大将は3Dプリンター? 電通が画策する未来の飲食

[特集]

 もっと眠りたい

 明日のパフォーマンスを劇的に高める

 一流の睡眠術

ページ上部へ戻る