政治・経済

経団連が新卒選考時期の見直しを検討?

経団連の榊原定征会長は、9月7日の定例記者会見で2016年度入社の新卒採用選考解禁日のスケジュール変更(4月から8月に後ろ倒し)について、大学側、企業側、学生側から批判が多く出ており、今後の実態調査を経たうえで見直すこともあり得るとの発言した。「既に来年の準備が進む中で抜本的に指針を変えることは難しいかもしれないが、問題が大きければ来年といえども改善はできるのではないか」としている。[提供:経営プロ]

「指針」が守られなくなることはほぼ予想できた

 そもそもこの日程変更は、2013年に政府が提言の形で経団連および多くの経済団体に求めたものであり、採用活動時期について影響力の強い経団連がそれにどう対応するかが当時注目された。実は当初は否定的だった経団連だったが、安倍首相が当時の米倉会長に直談判することで押し切られ、結局この日程変更を受け入れることになった(正確には、政府提言で4月採用広報解禁案だったのを、経団連は3月に1か月早めている。選考解禁日は政府案通り8月解禁)。

 しかし、それまでは経団連傘下の企業が「倫理憲章」という名称で自主的に決め、なおかつ共同宣言という形で企業名まで出していたルールが、「指針」という緩い名称となり、共同宣言も無くなった時点で、新しいルールは守られなくなることはほぼ予想されていた。経団連の態度は明らかに後ろ向きだったからである。

 ただ、それは仕方なかったと言えるだろう。他の経済団体、例えば新経済連の三木谷浩史会長などは、採用は企業の自由競争であり、政府提言を受けて傘下の企業に要請などしないと明言したし、規制を受けない大多数の企業は前年通りのスケジュールでやることが予想される中で、経団連の言うことを聞いて真面目に守った企業が採用に失敗しても、その責任を経団連は持てないということだろう。だからこそ指針は出すが、後は企業の自主的な判断でやってください、ということになったと思われる。

混乱したのは学生、採用に苦労する中堅中小企業

 2016年度新卒採用は当初より混乱が予想された。企業側から見ると大多数が守られると思っていない採用スケジュールだったが、学生から見ると守られるルールだと思われていたからだ。採用、育成、人事関連の調査を行うHR総研によると、2014年11月に実施した就活学生向け調査では、「多くの企業が守ると思う」15%、「大手企業は守ると思う」43%という回答だった。半数以上の学生が大手企業中心に選考は8月からだと思っていたわけだ。しかし、実際は3月、4月からでも多くの大手企業は採用活動を行っている。恐らく8月まで正直に選考を全くしなかった企業はほぼ皆無だろう。

 マスメディアの多くは、経団連の「指針」が、あたかもすべての企業に当てはめられるルールのように報道したことで、そのまま信じた学生も少なくない。大学のキャリアセンターは企業側の活動実態を知っているので、学生には早くから就職活動を開始するように指導した。しかし、学生すべてがキャリアセンターを訪れるわけではない。実態を把握できない学生が少なくなく、「選考解禁の8月前に面接を行う企業は、社会ルールを守らないブラック企業ではないか」という疑念を企業に対して持ったという話も聞かれた。中堅中小企業は、8月以前に活動をしないと学生を集められないので懸命に活動するが、大手企業の採用によって学生の多くが7、8月以降に大量に内定辞退をしてくる。長期間の採用活動で疲弊している採用担当者は少なくない。労力、費用的な負担増も大きいだろう。

img_00265

 2017年度新卒採用の予測については、2016年度より一層早期化することが予測されていたが、今回の会見で経団連の榊原会長は、「4月に選考解禁日を戻すことも選択肢としてはあり得る」と話している。それが最もすっきりとした答えだろうし混乱も最小限で済むと思われるが、10月以降の調査結果を見ての検討で、どこまで変えることができるか。今後の経団連の動きに注目したい。

 

keieipro_logo_R

<関連リンク>
・【新卒採用】学歴フィルターは悪か
・「オワハラ問題」~企業も被害者~
・「オヤカク」の相手は、父親ではなく母親?
・理系学生はブラック企業に甘い?
・【2016年卒新卒採用 8月調査】大企業も中堅・中小企業も「新スケジュール」に苦心。既に活動終了する企業は22%

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界8月号
[特集]
会社が変わる時

  • ・伊藤秀二(カルビー社長兼COO)
  • ・星野佳路(星野リゾート代表)
  • ・森山 透(三菱食品社長)
  • ・笠原健生(クアーズテック社長)
  • ・駒村純一(森下仁丹社長)
  • ・小渕宏二(クルーズ社長)
  • ・大山健太郎(アイリスオーヤマ社長)
  • ・秋本英樹(リンガーハット社長)

[Interview]

 糸井重里(ほぼ日社長)

 クリエーターの僕が経営者になった日

[NEWS REPORT]

◆誕生10年! iPhoneは世界をこう変えた

◆インディ500とル・マンにF1 モータースポーツの経済効果

◆Jリーグ放送権喪失後の展開 スカパー! はどうなるか

◆売り手市場の就職戦線に笑うものなし

[政知巡礼]

 下村博文(衆議院議員)

 「教育立国こそが、国家として目指す道」

ページ上部へ戻る