政治・経済

HVのリコール問題やエアバッグ問題だけでなく、ここ最近は「売れる車を作れない」という深刻な状況に陥っている本田技研工業。6月に就任した八郷隆弘社長は、大企業病にかかってしまったホンダを復活させることができるのだろうか。 文=ジャーナリスト/山根亮一

新車開発でトヨタにお株を奪われる

 ホンダがミドルクラスのスポーツカー「S2000」を2017年にも復活させるべく開発を進めていることが分かった。09年に生産を中止したものの、根強い人気を誇るブランドイメージを牽引するクルマだっただけに、話題を呼びそうだ。

 このところ、ハイブリッド車(HV)のリコールやタカタのエアバック問題などマイナス面ばかりが先行していただけに、「4月発売の軽スポーツカー『S660』に次いでホンダらしさを体現してほしい」と社内の期待も高い。ただ、その一方で、スポーツHV「CR-Z」を廃止することもひそかに決定。会議を開けば、いまだに「コスト削減」の話題ばかりが先行しているという。「大企業病にかかった」とも揶揄されるホンダは浮上できるのだろうか。

 「トヨタに負けている」

 開発陣が上げてくる車に対する販売サイドのこの1年の印象は、この一言に尽きる。

 3代目フィットがハイブリッド技術の度重なる不具合により、ブランドイメージが失墜。2代目はモデル末期でも販売台数が上位に位置していたことを考えると、トップ10をギリギリ死守する現状に、かつての勢いは感じられない。セダン復活を誓い、万を持して投入した「グレイス」「アコード」の販売も鳴かず飛ばず。「ほとんどのクルマのデザインが縮こまって、売れる車種がない。販売店改革の一環で、新規投資したけれど割に合わない」(ホンダディーラー関係者)と怒りの声すら漏れ伝わる。

 対するトヨタ自動車は、クラウンやアルファードなどの、ど派手なデザインが「下品」と批判される一方、保守的なデザインからの脱却に成功。「かつての好みが分かれるやんちゃなホンダ車に感じが似ている。完全にお株を奪われた」とホンダ関係者は危機感をあらわにする。

 元凶は、伊東孝紳前社長にあるようだ。世界を日本、中国、北米、アジア・太平洋など6極に分け各地域で個別の生産体制を敷き、そこに伊東前社長が「16年度に世界販売600万台」という目標を掲げ、各地域に競い合わせた。膨大な資金が必要なF1の再参入に備えるため収益力を高めたかったと擁護する向きもあるが、「証券会社にそそのかされ、規模拡大と利益率を重視した経営に傾注していった」(幹部)ようで、開発スピードや効率化を追うあまり、「商品力が高ければ実用性は問わない」(全国紙経済部記者)のが魅力のホンダらしさが失われていったとの見方が多い。

 国内の販売現場でも、打倒トヨタに燃えることなく、国内2位の座を死守するという保守的な戦略に徹している。前体制は、いわば“ミニトヨタ”を目指していたといっても過言ではない。

自由が奪われ疲弊する研究所

 実は、今年4月発売のS660は「コストに見合わない」と伊東社長が当時反対したのを押し切り、開発を断行した経緯がある。3月の記者会見に伊東社長が出なかったのは、「社長交代が決まっていたこともあるが、バツが悪かったから」(専門紙記者)との見方がもっぱらだ。

 今年6月に就任した八郷隆弘新社長は、こうした規模を追う方針を白紙撤回し、「夢のあるクルマづくり」を目指すと7月の就任会見で述べた。八郷社長が「ホンダらしさ」の例にあえてS660を挙げたのもこうした社内の不満を察知した上で、トップダウン型の伊東色との違いを社内にアピールしたかったからともみてとれる。

 S2000の復活もこの一環とみられる。高価格のNSXに比べて、S2000はクルマファンに訴えられる価格帯での投入を目指しているもようで、販売の底上げにもつながるとの期待もかかっている。

 ただ、気掛かりなのは八郷社長が、伊東前社長との違いはあれど、依然として、効率生産に比重を置いている点だ。

 例えば、新車および部品の供給拠点として、稼働が低迷している日本と英国、タイの工場を使うことを表明。欧米で販売する「フィット」「ジャズ」などの一部を日本から輸出し始めた。また、英国産「シビック」は日米へ輸出、タイからはナイジェリアで生産する「アコード」向けの部品の供給も開始した。

 八郷社長がもともと、国内の調達部門や欧米、中国での駐在勤務などの経験を持っているからだが、「8月以降も、会議の中心はこうした効率化論ばかり」(ホンダ幹部)という。しかも、技術のホンダを象徴するCR-Zの生産をやめることが決定されたという。新分野開拓の象徴を担ってきたクルマの生産中止は、社内でも疑問の声が挙がっている。

 一体、ホンダらしさとは何か。「疲弊している研究所を元の姿に戻すこと」と、本田技術研究所のOBは断言する。

 「すべての国と地域の特性に合わせた専用車を作るようになってから、自由な研究開発がウリだったはずの研究所が破綻している」とまで、言い切る。

 八郷社長は、ホンダの歴代社長が通った本田技術研究所社長を経ずにトップに立った。衆知を集めるタイプともされるが、ホンダらしさを発揮できるかは不透明だ。課題が山積するホンダに残された時間は少ない。

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