マネジメント

川淵案が消え、鈴木大地がスポーツ庁長官に内定

 

 初代スポーツ庁長官に、1988年ソウル五輪競泳金メダリストで日本水泳連盟会長の鈴木大地氏が就くことが内定した。

 これまでスポーツ行政は選手強化は文部科学省、施設整備は国土交通省、国際交流は外務省といったように複数の省庁にまたがっていた。

 これを文科省スポーツ・青少年局を母体に一元化し、同省の外局として121人体制でスタートする。

 当初は92年アルベールビル冬季五輪スピードスケート女子1500メートル銅メダリストで日本スケート連盟会長の橋本聖子参院議員の就任が有力視されていた。だが、週刊誌に醜聞が報じられたことで、この話は立ち消えになった。

 五輪のメダリストとしては、84年ロサンゼルス大会柔道の金メダリストで国民栄誉賞も受賞している全日本柔道連盟副会長の山下泰裕氏の起用も検討されたが、女子柔道強化選手による暴力告発問題で全柔連はまだ改革途上の段階。「今はその時期ではない」(文科省関係者)という理由で見送られた。

 最後まで有力候補として残っていたのが日本サッカー協会最高顧問で日本バスケットボール協会会長の川淵三郎氏だ。スポーツ界きっての剛腕として知られる。

 実は川淵氏はこの春、「初代長官を引き受けてほしい」と打診を受けていた。本人は「好きなゴルフができなくなる」と難色を示していたが、一方で「最後のご奉公」との思いもあったようだ。

 なぜ川淵案は消えたのか。

 「川淵さんを推していたのは元首相で五輪・パラ組織委員会会長の森喜朗氏。ところが新国立問題、エンブレム問題の対応のまずさが問われ、官邸から“森さんで大丈夫か?”との声が出ていた。

 そこで78歳という高齢を理由に川淵氏に断りを入れ、48歳の鈴木氏に一本化した。鈴木氏が金メダリストであることに加え、清新さに期待しようという声が強くなり、最後は菅義偉官房長官が了承したと聞いています」(現組織委関係者)

 さらには、こういう指摘も。

 「文科省には川淵氏の剛腕に対するアレルギーが少なからず存在した。あれだけの大物がくると、簡単にはコントロールできない。Jリーグ発足の際、彼の理念に理解を示したのは、文科省よりも通産省(現経済産業省)だったという経緯もある。川淵氏に好きなようにやられては困る、という思いも、背景にはあったはずです」(同前)

 

オリンピックで見せた鈴木大地の勝負師の顔

 

 さて鈴木氏の手腕は。それを論じる前にソウルでの金メダルを振り返ろう。

 男子100メートル背泳ぎで表彰台の真ん中に立った背景には勝負師としての決断があった。

 予選でライバルのデビッド・バーコフ(米国)が世界新記録を出したことで、陣営は作戦変更を迫られる。

 その時の鈴木陽二コーチとのやり取りは、こういうものだった。

陽二「大地、オレたちが狙っているのは、ただのメダルじゃない。金メダルだ。そうだろ」

大地「もちろんです」

陽二「21回のバサロを25回にしないか。そうすれば(バサロの距離が)5メートルは伸びる」

大地「いや、27回で行きましょう。勝負するしかないでしょう」

 バーコフはプレッシャーに弱い。水面に浮上した時、ぴったりと横にくっついていれば泳ぎが乱れるのではないか︱︱。

 ラスト25メートルまでついていけば、きっとゴール寸前で逆転できる。鈴木氏は、そう読んで、勝負に出た。

 感動の金メダルの背景には、こういうドラマがあったのだ。

 

鈴木大地・スポーツ庁長官に期待される攻めの行政

 

 ところで国は2020年東京五輪での金メダル数で、世界3位を目指すと公言している。その意味で“金メダリスト長官”はうってつけの人事と言えるかもしれない。

 しかし、金メダリストを誕生させることだけがスポーツ庁の仕事ではない。前回の東京五輪ではわずか6%にすぎなかった高齢化率が20年には30%近くに達すると見られている。

 超高齢社会を迎えるにあたり、スポーツはどんな役割を果たせるのか。

 折も折、医療費(14年度)は前年度より約7千億円増え、約40兆円に達していたことが報じられた。

 また、20年東京五輪パラリンピックの決定を受け、東京への一極集中化はさらに拍車が掛かっている。スポーツの世界も、選手強化を旗印に「地方から中央へ」の流れが加速しているが、果たしてこれでいいのか。

 難しいかじ取りを迫られるなか、ソウルでの大勝負を彷彿とさせるような“攻めの行政”に期待したい。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る