国際

中国経済の未来を語る 転換点となるのは李嘉誠の動向か?

 日本でも世界でも、一部のエコノミストは、依然、中国経済に”幻想”を抱いている。彼らは、短期的には中国経済には問題があるが、中・長期的にまだまだ“のびしろ”があると考えている。

 彼らは物事を経済的側面だけから見て、中国の社会構造―政治・社会状況―をほとんど考慮していない。経済の悪化が、政治や社会を崩壊させるという考えに至らないのである。だから、“希望的観測”に陥るのだろう。政治・経済・社会をトータルに見ないと、正確な中国分析はできない。

 さて、今年9月12日、新華社傘下のシンクタンク瞭望智庫が「李嘉誠を逃がすな」という興味深い一文を発表した。

 その内容とは、かいつまんで言えば、「現在、中国大陸は経済危機の微妙な時期にある。その時に、李嘉誠(香港最大の企業集団・長江実業グループ創設者兼会長)は中国大陸はおろか、香港からさえも去って行くとは信義にもとる。李嘉誠は今こそ中国に尽くすべきだ」となる。驚くべき中国共産党の論理である。率直に言って、これは中国共産党の”浪花節”的繰言にすぎないだろう。

 その4日前の9月8日、李嘉誠の長江基建(Cheung Kong Infrastructure Holdings Limited)と電能実業(Power Assets Holdings Limited)の株式交換形式の合併計画(116億米ドル)が持ち上がった。もし、その合併が成功すれば、李嘉誠の長和系企業登記地が香港を離れることを意味する。

 現在、香港は「一国二制度」(中国大陸と違った政治・経済システム)が作動している。だが、香港政治は共産党の思惑通りに動き始めた。だからこそ、2014年9月から12月にかけて、「雨傘革命」が起きたとも言えよう(2017年の香港行政長官選挙で、民主派候補者が立候補できないように共産党が法改正。それに対し、香港人が立ち上がる)。

  今後、香港で共産党によって経済活動が制限されるおそれがないとも言えない。今のうちから、徐々に自己の企業(資本)を他国や他地域へ移しておいた方が安全である。李嘉誠がそう考えても不思議ではない。

 よく知られているように、李嘉誠は広東省潮州市出身である。日中戦争時、両親と共に香港へ逃げ、その後、造花の「ホンコンフラワー」で儲け、長江実業を創立した。1989年6月の「天安門事件」で、中国から外資が撤退する中、逆に、李嘉誠は中国大陸に進出し、莫大な利益を得たと言われる。

 李嘉誠は、香港で最も成功を収めた大立者である。現在、長江和記実業と長江実業地産を率いている。恐らく、東アジアで最も裕福な華人の1人だろう。その総資産は294億米ドル(2014年3月末現在)にのぼるという。彼は一介のビジネスマンである。そのビジネスマンが、中国の将来に見切りをつけて、かつ、社会情勢が不安定になりつつある香港を離れる。そして、別の国・地域へビジネス展開するのは、道義的に何ら問題はないだろう。

 実際、9月13日、長江和記のスポークスマンが、「グループは資本撤退するのではない。また、株を売ったり買ったりするのは、正常なビジネス行為である」と反論している。

 仮に、李嘉誠が中国大陸でビジネスを続け、投資を失敗した暁に、中国共産党はその肩代わりをしてくれるのだろうか。それはあり得ないだろう。

 共産党が李嘉誠に道義的責任を問うこと自体”筋違い”である。共産党も語るに落ちたのではないか。

 それよりも、腐敗した党・政府・国有企業幹部が、汚職で得た大金を持って祖国を脱出し、欧米へ移住する方がよほど問題ではないだろうか。

 一説には、ここ5年間で118万人以上にも及ぶ中国高官、その伴侶、子どもたちが既に海外へ移住しているという。これらは、明らかに犯罪行為である。習近平政権は、すみやかに彼らを中国へ呼び戻す算段をしなければならない(ただし、「反腐敗運動」を展開している習近平や王岐山の一族も、他の高官一族と同じことをしている点が問題である)。

  実は、「海亀族」と呼ばれる優秀な海外留学生が、国家のために役立とうと中国へ帰還した。だが、習近平政権の下では重んじられず、やる気を失くした彼らは、再び海外へ流れている。これは、由々しき問題だろう。優秀な頭脳と資金が、中国から逃避しているからである。

 

あわせて読みたい
[連載] 変貌するアジア(第9回)下り坂の中国に対し果敢に挑む伊藤忠
[連載] 変貌するアジア(第6回)韓国経済の実態
[連載] 変貌するアジア(第24回)人民元を切り下げた中国
[連載] 変貌するアジア(第16回)中国経済の危機的状況
[連載] WORLD INSIGHT 中国株と人民元の乱高下は長期化する

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る