国際

 2015年9月3日、中国・北京では「抗日戦勝70周年」記念行事が行われた。だが、西側の首脳は、皆、参加を見送った。習近平が行う「抗日戦勝70周年」(中国共産党はほとんど真正面から抗日戦を戦うことはなかった)の怪しさを感じ取っているからだろう。

 ウクライナでの問題を抱えるロシアのプーチン大統領は式典に参加している。中国とロシアは「現状維持」(=平和)勢力ではなく、力による「現状維持」の変更を試みる「現状打破」勢力かもしれない。だからと言って、中国とロシアが“蜜月関係”にあるかと言えば、はなはだ疑問である。中ロは互いに不信感を抱きつつ、“友好”を演出しているだけではないのか。

 一方、韓国の朴槿恵大統領が行事に臨席している。オバマ政権があれほど式典参加を見送るよう警告したにもかかわらず、朴大統領はそれを押し切り参列した。韓国は安全保障で依拠している米国よりも、経済的に依存している中国を優先したのである。韓国は伝統的「中国的世界秩序」(ジョン・K・フェアバンク教授)へ回帰したとも言えよう。

 北朝鮮の金正恩第一書記は、「9・3大閲兵」式には不参加だった。そのためか、行事での記念写真では、金書記の代理、崔竜海(チェ・リョンヘ)は一番端におさまっている。習近平政権が北朝鮮を冷遇した証だろう。

 さて、多くの人は、しばしば人民解放軍は一枚岩である、また、共産党は解放軍をしっかり掌握しているという “思い込み”を持つ。だが、以下の仮説は有力かもしれない。

 人民解放軍瀋陽軍区(江沢民の「上海閥」系。かつての制服組トップ、「東北の虎」と呼ばれた徐才厚<今年3月死亡>が事実上支配)は北京政府と対立している。

 瀋陽軍区は兵士に朝鮮族が多く、北朝鮮に親近感を持つ。そして、(ロシア・モンゴル・北朝鮮に国境を接するため)解放軍の精鋭機械化5部隊のうち4部隊を持つが、核は保有していない。そこで、瀋陽軍区が北朝鮮に核製造のための情報を流し、金正日に核兵器を創らせたという(いざとなれば、瀋陽軍区は北の核を北京へ打ち込む算段かもしれない)。

 北朝鮮は、人民解放軍瀋陽軍区に依存している。ある意味、両者は一体化している(軍事評論家、鍛冶俊樹氏)。もし、中国が北朝鮮を苛めるつもりならば、北に対し食糧・エネルギー等を止めればよい。金王朝は1週間と保たないだろう。しかし、共産党が北朝鮮にそれらを止めたという話は寡聞にして知らない。

 恐らく習近平は金正恩が嫌いなはずである。2013年3月、習近平政権が名実ともに誕生した。本来ならば、金正恩第一書記は、すぐさま北京へ挨拶に行かねばならないだろう。ところが、今もって、金正恩はその気配すら見せていない(一方、朴槿恵大統領は、早速、同年6月、訪中している)。

 また、金正恩は、2013年2月(胡政権から習政権移行中)、第3回目の核実験を行っている。さらに、同年暮れ、正恩は北京政府と太いつながりを持っていた叔父の張成沢を処刑した。北京は不愉快だったに違いない。

 実は、張成沢は幼い時から、配偶者の金敬姫(金正日の実妹)と共に、甥の金正男(長男)を可愛いがっていた。ところが、金正男は2001年、日本で偽パスポートを持って入国した際、逮捕された(小泉純一郎政権は、すぐに金正男を北朝鮮へ強制送還した)。この一件で、金正男は金正日の後継者の資格を失ったと言われる。

 しかし、張成沢は、いつか三男の金正恩を排して、金正男を北朝鮮トップにしたかったと思われる。2012年夏、張成沢は北京で胡錦濤と会見した際、その事を胡錦濤に告げたという。

 だが、瀋陽軍区に近い「上海閥」の周永康(既に無期懲役の判決を受けている)は、何とその内容を金正恩へ密告したのである。そのため、2013年12月、金正恩は張成沢を機関銃で銃殺し、火炎放射器で遺体を焼いた。表向きの処刑理由は、張成沢が北の資源を安く中国へ輸出していたからとされる。

 結局、北京政府は、金正男(北京に2軒、マカオに1軒家を持つという)を推し、他方、瀋陽軍区は金正恩を支援している構図だろう。

 習近平政権としては、手強い瀋陽軍区を何とか制御したいと思っているに違いない。そのため、「9・3大閲兵」後、早速、7大軍区を「4戦区」へ改編しようとしている。習近平は、北京軍区と瀋陽軍区を合併させ「東北戦区」とし、北京をセンターとして瀋陽軍区を掌握しようと考えているのではないか。さもないと、いつ瀋陽軍区が北京政府に刃向かうとも限らないからである。

 以上の仮説が正しいとすれば、瀋陽軍区から手厚い支援を受けている北朝鮮の敵は、米国や日本ではなく、意外にも北京政府なのかもしれない。

 

 

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

2015年の中国リスクと新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第35回)

「3不社会」韓国の「3放世代」

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界4月4・18日号
[特集]
紙メディアの未来

  • ・青木康晋(朝日新聞出版社長)
  • ・一木広治(ヘッドライン社長)
  • ・村野 一(デアゴスティーニ・ジャパン社長)
  • ・嶋 浩一郎(博報堂ケトル社長・共同CEO)
  • ・高井昌史(紀伊國屋書店会長兼社長)
  • ・消えたB2Bメディア コントロールドサーキュレーションの功罪

[Special Interview]

 吉永泰之(富士重工業社長)

 「守りに入らず攻め続けるためにスバルへの社名変更を決断した」

[NEWS REPORT]

◆三越伊勢丹、ヤマト運輸……人手不足が労組を動かす

◆攻めの農業の象徴 農水産物輸出1兆円は大丈夫か

◆“豪腕”森信親・金融庁長官の続投濃厚で戦々恐々の金融界

[著者インタビュー]

 手嶋龍一(作家、ジャーナリスト)

 稀代のスパイはインテリジェンスセンスを磨く最高のテキスト

ページ上部へ戻る