政治・経済

安保法制反対運動に刺激を受けた野党

20151020_NAGATACHO_CATCH 久々に聞きごたえのある演説だった。

 会期末が迫った9月17日から18日にかけて安保関連法の採決をめぐり、民主党や維新の党など野党各党は連携して衆議院では内閣不信任案、参議院では安倍首相など閣僚の問責決議案などを連発した。

 そのたびに、野党が趣旨説明など演説をするのだが、不信任案提出後の民主党・枝野幸男幹事長は、フィリバスター(議事妨害)と呼ばれる約1時間50分にも及ぶ演説をぶった。安保だけではない。アベノミクスや年金、雇用、そして民主主義とは何かを語ったが、論理的でいて言葉に強さもあり、枝野氏の能力の高さを見せつけた。

 参議院では民主党の福山哲郎特別委員会理事が、これもまた、採決に瑕疵があることや国会議員の矜持とは何かなど、ほとんどアドリブで声をからし、時には涙声で力説した。

 本来あるべき国会論争とはこういうものだ。国会に緊張感があれば、言論はおのずとヒートアップする。

 どうしても今国会中に成立させたい政府与党に対して、野党は審議を止め、委員会室前にピケを張り、とにかく物理的な抵抗も含めてありとあらゆる手を使ってこの法案の採決を時間切れにするしかなかった。ところが、そうした戦意が薄れ躊躇した部分もあったという。

 「物理的抵抗というのは、世論がだんだん批判的になって『野党は反対のために反対をやっている』と厳しい目が向けられるようになる。このため、うち(民主党)の中にもどこまでやるべきか戦術的に迷っていたところがあった」(民主党幹部)

 しかし、最終盤でその意識を変えたのが、国会の外側で反対運動などを展開してきた市民グループの動きだったという。

 「16日の横浜市での地方公聴会で、市民が身を挺して議員の車を止め、そのあとの委員会を遅らせようとした。あの映像をテレビニュースで見て、議員の自分たちが体を張ることを躊躇していいのか、そして今回は物理的抵抗も国会の外側で反対デモをしている人たちが応援してくれる、やれるところまでやろうという空気に一気になった」(前出幹部)

 国会の外側が民主党を動かした――。確かに過去、懸案の法案や政策などについて国会を多くの人たちが取り囲んで抗議のシュプレヒコールを上げることは多々あった。ただ、今回はその様相が明らかに違う。野党ベテラン議員は話す。

 「デモに参加して驚くのは、全体の空気が以前のように組合の旗を立てて動員されたというのではなく、若い人、お年寄りもいれば、小さい子どもの手を引いた若いお母さんも非常に多い。自由に自分の意思で集まってきているという人たちが圧倒的に多かった」

安保法案成立でも萎まぬ反対運動

 法案反対の運動は世代や地域などを超えて拡大の一途をたどった。

 特定秘密保護法の際に発足した大学生たちの自主的なグループ「SEALDs(シールズ)」が全国に組織を広げているのをはじめ、小さな子どもを持つ母親たちによる全国各地の「ママの会」、また、国会前で無期限ハンストを始めた大学生たちもいる。そして、一貫して違憲だと主張する憲法学者のグループ、元最高裁判事・元内閣法制局長官・法律家・憲法学者らが一堂に集まってのグループ、作家・文化人・音楽家らの個人の活動。さらに、反原発や反TPP運動のグループも合流している。その、憲法学者の代表の一人が言う。

 「普通なら採決されて法案が成立したら反対運動もしぼんでいきます。ところが、いま運動をしている各グループは、実は、採決や成立があろうがなかろうが、照準を来年の参院選に定めました。つまり倒閣の選挙運動に移行します。例えば、日弁連と憲法学者で『違憲訴訟』をやりますが、1カ月に一度、全国の参院選1人区を回って大集会を開き、裁判情報を公開して参院選まで引っ張ることを考えています」

 来夏の参院選は1票の格差を解消し10増10減で1人区が増えるが、そこでは与野党対決型になる。国会の外側の反対運動のグループは、1人区で自民党を倒す選挙運動へとシフトしているのだ。

 前出代表は「そこで勝つためにも、野党は統一候補や統一名簿など早く体制を作ってほしい」と話すが、これに対し共産党は早々に「選挙協力する」旨の声明を発表。民主党や維新幹部も、各市民グループと接触しながら野党統一の水面下交渉に入っている。

 参院選もまた、国会の外側が国会の中の議員たちを動かし始めている。安保法制は成立しても終わってはいない。前例のない国会の「内・外」のタッグが再び動き出している。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る