文化・ライフ

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

プロスポーツが地域振興に貢献した鹿島の事例

川淵三郎JPBL会長(PHOTO=佐藤元樹)

川淵三郎JPBL会長(PHOTO=佐藤元樹)

 来年秋に開幕するバスケットボール新リーグの名称が「B.LEAGUE」(Bリーグ)に決まった。

 頭文字の「B」には、バスケットボールのBのほかに「Boys ,be ambitious」の意味も込められているという。

 発表会見に出席したジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(JPBL)の川淵三郎会長は「私は“奇跡を起こそう”と言った」と前置きして、こうスピーチした。

 「プロ野球があってJリーグがある。そして3つ目のプロリーグとして、日本の中で皆さんの興味と関心を得て、発展していきたいと思う」

 プロスポーツとして成立している野球とサッカーは、ともに屋外である。屋内競技でプロとして成功している例は、まだない。

 そのためには、何よりもアリーナの充実が求められる。この2月、川淵が新リーグ参加(1部)の条件として、ホームアリーナの収容人数を5千人規模と定めたのは、その文脈に沿ったものだ。

 川淵が器にこだわるのはJリーグでの成功体験によるものだろう。

 例えば鹿島アントラーズの本拠地・鹿島町(現鹿嶋市)は、Jリーグがスタートした1993年5月の時点では、まだ「町」だった。

 前進の住友金属は日本リーグ2部のチーム。町内には5千人収容のスタジアムしかなく、Jリーグの創設クラブになることなど夢のまた夢だった。

 それが証拠に、鹿島の加盟申請に対し、当時、プロリーグ設立準備室の室長だった川淵は「99・9999%不可能」と語っている。

 どうしたら諦めてもらえるか。川淵は、「屋根付きで1万5千人収容の専用スタジアムが条件」と敢えて高いハードルを設けた。

 ところが、茨城県の竹内藤男知事(当時)が建設を明言したことで流れが変わる。行政・企業・地域住民が一体となった加盟運動が実り、鹿島はJリーグ10番目のオリジナルメンバーに滑り込んだ。

 そしてジーコらの活躍もあって初年度の第1ステージを制したのは記憶に新しい。

 スタジアムに話を戻せば、99年にはスタンドを増築して2002年日韓ワールドカップの試合会場にもなった。

 今では茨城県鹿嶋市と言えば、名実ともに“サッカーのまち”である。

 ハードが整わなければ、ソフトも充実しない――。それが川淵の基本的な考えである。

人口減少の地方においてスポーツが貴重なソフトである理由とは

 では、日本のアリーナ事情はどうなっているのか。

 川淵は嘆く。

 「3500人以上入る体育館はあまりない。あっても土足厳禁とか物販禁止とか規制が多いですね。仮に入場者数が1500人で平均入場料を1500円とすると、一試合の売り上げは200万円くらいにしかならない。

 これではプロのスポーツビジネスとして成立しません。しかも今はかなりの数のタダ券をばらまいているというのだから話にならない」

 川淵の指名で初代理事長(チェアマン)に就任した大河正明も、アリーナの重要性を強調する。

 「世界に通用する選手やチームを輩出するために、日々切磋琢磨するリーグであること。エンターテインメント性を追求すること。そのために重要なアリーナを造ること。

 夢のアリーナを造り、地域に根差したスポーツクラブになっていくことによってリーグを盛り上げていきたい」

 現場はどうか。bjリーグで2年連続準優勝に輝いた秋田ノーザンハピネッツには24年の完成を目指した「ハピネッツアリーナ」構想がある。

 ファン、ブースターの願いは切実だ。

 〈阪神タイガースには「阪神甲子園球場」、浦和レッズには「埼玉スタジアム2002」というシンボリックな拠点がある。秋田にもハピネッツの拠点となる「ハピネッツアリーナ」があれば……。アリーナは街の誇り、街のシンボルである〉(秋田ノーザンハピネッツ公式HP)

 しかし、行政はつれない。この2月、川淵が5千人規模のホームアリーナ確保を新リーグの参加規準として示した際、秋田県の佐竹敬久知事は「私は悪者になってもいい。はりつけになってもいい」と県議会において答弁した。端的に言えば、財政事情の厳しい折、無い袖は振れないということだ。

 問われるのは、スポーツを地域振興に、どう生かすかという視点である。とりわけ人口減少に悩まされる地方において、スポーツは若者を引き寄せ、まちに活気をもたらせる貴重なソフトでもある。

 既に秋田のBリーグ1部入りは決まっている。(文中敬称略)

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る