政治・経済

 今やスマホでワンクリックが、当たり前になりつつあるオンラインショッピング。高齢化の進む日本では、いずれ日用品や生鮮食料品もネットで注文されるはず。アマゾン ジャパンの新たなサービスである「Amazonパントリー」はその第一歩となるのだろうか。 文=本誌/古賀寛明

 

ハブラシひとつから注文可能に

 9月14日、アマゾン ジャパンのジャスパー・チャン社長は、都内でイベントを開催し、会員向けに食料品、日用品の商品ひとつからオンラインで購入できる「Amazonパントリー」のサービスを開始すると発表した。以前より、日用品や食料品の購入は可能であったが、今までのサービスでは箱買い、ケース買いなどのまとめ買いであった。それをハブラシひとつ、ポテトチップスひとつから購入することが可能になったのだ。

 メインのターゲットは、主婦や働く女性たち。重くかさばる日用品を家まで持って帰る手間を省けるのはうれしいし、必要な分だけを購入できるのは、収納の狭い世帯にとっては朗報だろう。ネットでの注文に慣れる必要はあるが、買い物がおっくうになった高齢者にとっても同様だ。

 実際に「Amazonパントリー」を試してみたが、ネット上で、欲しい商品を専用箱に投入していき、箱の容量もリアルタイムで何パーセント埋まっているのかひと目で分かるなど使い勝手はいい。パントリー専用ボックスは、高さが36センチメートル、縦52センチメートル、横28センチメートルのサイズで、最大で12キログラムまで入るなど、容量も意外に多い。取扱手数料も1箱290円で全国配送できるなど、手軽に利用できるため、思わずいろいろなものを買ってしまいそうだ。

 アマゾン ジャパンの消費財事業本部の前田宏本部長も「今までは、低単価な商品ほど、1ダースや1ケースといった単位での購入しかできない場合が多かった。それは商品代金とは別に数百円の送料が掛かっていたから。このサービスの誕生によって、店舗で棚からカゴに商品を入れるような直観的なショッピングが体験できます」と自信を示す。

 しかし、このサービスは冒頭にも書いたが会員向けのもので、年会費3900円の「Amazonプライム」会員のみが利用できるサービスだ。コカ・コーラの350ミリリットル缶が75円などと価格の面でも頑張ってはいるが、ライバルである多くのネットスーパーが、一定額(1300〜1500円程度)を購入すれば送料を無料にしていることを考えれば、新たな顧客層を獲得するには、まだインパクトが足りないかもしれない。だが、既にプライム会員なら魅力的なサービスと言えるだろう。

拡大のカギは生鮮食料品の浸透

 日用品などのサービスでアマゾン ジャパンだけが先行しているわけではない。ネットスーパー自体は既に珍しくもなくなっている。しかし、前田本部長の話にもあったように、配送に掛かる人件費などコストの問題から、ちょっとした買い物での利用は難しく、ベンダーにとっても、ネットスーパーを維持するのはなかなか大変なようだ。

 アマゾン ジャパンも会員サービス限定にすることなどで、コストとの折り合いをつけたのであろう。物流の問題は、米国でも同じで、アマゾンドットコムは、ドローンでの配達の実証実験を行っている。日本でも航空法の改正でドローン飛行の規制は強化されたものの、物流に利用する要望は強い。

 物流コストの軽減化は、目下のところ最大の課題であり、この夏にも、楽天とヤマトホールディングスがネット通販事業での業務提携を強化したこともその現れといえる。楽天市場で購入した商品をヤマトが提携するファミリーマートやサークルKサンクスなどの約2万店舗で受け取れるサービスで、再配達のコストを抑えつつ利便性を高めることを可能にしている。

 「オムニチャネル戦略」を進めるセブン&アイ・ホールディングスも新たにグループ横断の通販サイト「Omni7(オムニセブン)」を11月からスタートさせると発表している。グループ内のセブン-イレブンや西武百貨店、そごう、イトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗など計8社が参加しており、ネットで注文した商品を自宅への配送だけでなく、例えばセブン-イレブンなどの店舗で受け取れるようにしている。利便性はもとより、豊富な品揃えや物流の共通化でグループの強みを生かしている。そして、グループ外企業ともプライベートブランドを共同開発するなど、その柔軟性と行動力のある戦略はすごみさえ感じる。

 一方、アマゾン ジャパンもいずれ生鮮食料品に進出してくると見られている。既に、米国ではアマゾンフレッシュという生鮮食料品の即日配達サービスを2007年よりシアトルで開始している。現在は、さらに提供範囲が拡大され、カリフォルニアや大都市部で利用されている。今回の「Amazonパントリー」のサービス開始が、日本における生鮮食料品サービスへの第一歩となる可能性は高い。

 昨年、日本のEコマースの市場規模は、約13兆円、3年後の18年には20兆円を突破するといわれている。Eコマースが日用品や食料品にまで広がれば、さらなる市場の拡大が予想される。ネットでの買い物は、使い慣れたサイトを利用する習慣性が強いともいわれており、そういう意味では、顧客の囲い込みという仁義なき戦いは、既に始まっているのかもしれない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界6月号 [月刊記念特別号]
[特集]
トップ企業の経営哲学

  • ・永守重信(日本電産会長兼社長)
  • ・新浪剛史(サントリーホールディングス社長)
  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・林野 宏(クレディセゾン社長)
  • ・茂木友三郎(キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長)
  • ・樋口武男(大和ハウス工業会長)
  • ・北島義俊(大日本印刷社長)
  • ・澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長兼社長)
  • ・似鳥昭雄(ニトリホールディングス会長)
  • ・押味至一(鹿島社長)

[Interview]

 貝沼由久(ミネベアミツミ社長)

 経営統合で技術の受け皿を広げ新たなIoT時代に備える

[NEWS REPORT]

◆三井住友銀行、脱・たすき掛けの深層

◆一人負け、ソフトバンクに何が起きている

◆大塚家具、ロッテ……親子・兄弟相続の相克

◆ドキュメント シャープ鴻海入り1年のドラマ

◆長者番付で分かった日の丸ベンチャーの弱点

[政知巡礼]

 石破 茂(衆議院議員)

 「地方創生こそがポストオリンピックの鍵だ」

ページ上部へ戻る