政治・経済

 三菱地所が総事業費1兆円を超える巨大ビル建設プロジェクトに着手する。実現に向けて期待が高まる一方で、ライバルによる需要先食い、横浜の蹉跌、五輪後の景気後退に対する不安など、さまざまなリスクを指摘する声が上がっている。 文=ジャーナリスト/五十嵐康夫

三菱地所が東京駅前で着手した超高層ビル

 日本一の超高層ビル計画が動き始めた。

 三菱地所は、JR東京駅前に高さ約390メートルの超高層ビル(地上61階建て)を建設する。2028年度に完成予定で、高さ300メートルの「あべのハルカス」(大阪市)を大きく上回り、日本で最も高いビルになる。総事業費は土地の評価額も含めて1兆円を超える巨大プロジェクトで、同社の周辺は沸き返っている。

 ただ、ここ数年は「丸の内の大家さん」として堅実経営に徹してきた同社が、過去に類を見ない大事業に乗り出すリスクも小さくない。

 「常盤橋は東京の新たなシンボルとなり、日本経済を牽引するプロジェクトとなる」

 日本一のノッポビル建設を明らかにした発表会で、三菱地所の杉山博孝社長はどこか誇らしげな表情を浮かべた。

 無理もない。同社は“本拠地”である丸の内地区で、老朽化したビルの建て替えや再開発を02年開業の丸ビルから順次進めてきた。丸の内は10年以上をかけて高層化され、単なるオフィスにとどまらず、買い物やレジャーも楽しむことができる複合施設を集積させてきた。

 だが、今回のプロジェクトは高さだけでなく、規模も中身も場所も、何もかもが「規格外」。まさに東京駅前に“怪物”が出現するのだ。

 まず高さ。都内の建築物では、虎ノ門ヒルズ(255メートル)や東京都庁第一本庁舎(243メートル)などを大幅に上回る。関東圏で見ても三菱地所自らが1993年に横浜市のみなとみらい21に竣工し、当時は日本一の高さを誇った横浜ランドマークタワー(高さ296メートル)を超える。

 そして規模。建設予定地は東京の玄関口である東京駅日本橋口に隣接する常盤橋地区(千代田区大手町2丁目など)にある約3万1400平方メートルの敷地だ。

 現在は日本ビルやJXホールディングスの本社が入るJXビルなどがあるが、これらをすべて取り壊し、10年超をかけて大小2つの超高層ビル(低いほうは約230メートル)を建設する。延べ床面積は68万平方メートルにも上る。

 さらにビルの谷間には、大規模なイベントの開催も可能な7千平方メートルの広場も整備する計画となっている。しかも予定地周辺には日銀など主要な金融機関が集積しており、国際競争力強化を図るための金融センターや都市観光といった機能を持たせる。

 こんな巨大プロジェクトを可能にしたのは「国家戦略特区」への認定だ。特区に認められることでビルの容積率や用途など規制は大幅に緩和され、大規模かつ自由度の高い開発が可能となる。

 もちろん、そのためには防災面の強化などによる都市機能の向上が前提だが、今回の常盤橋の案件では防災面のほか、敷地内のポンプ場や変電所といった都市インフラも新ビルとして維持することが評価された。今後は都の審議などを経て年度内に正式な認定を受け、17年度にも着工される見通しだ。

 「世界中の人が『東京といえば常盤橋』と思い浮かぶような街にしたい」と杉山社長は熱っぽく語る。

三菱地所が直面する不安要素とは

 だが、これだけの巨大投資となると、ある程度のリスクは避けられない。

 杉山社長は資金調達に関して「(増資などの)エクイティファイナンスは必要ない」との考えを示している。つまり、自己資金や銀行借り入れなどでまかなうということだ。テナントの入居が順調に進み、丸の内並みの賃料水準も維持できれば、それでも問題はないが、これだけの巨大施設を埋めるのは容易ではない。

 不安のひとつは、東京駅東側、つまり「正面玄関」に当たる八重洲中央口で先行するプロジェクトがあることだ。三井不動産は延べ床面積29万平方メートルのビルを21年度に、東京建物は24万平方メートルのビルを24年にそれぞれ竣工する。これらのビルにテナント需要を“先食い”されてしまう懸念もある。

 もう1つの不安が、先述したランドマークタワーと同じ轍を踏むことだ。同タワーも「日本一のビル」にするため、総事業費2700億円をかけて建設されたが、賃料収入は当初計画に届かず、02年と15年の2回、減損処理を行わざるを得なかった。これは、三菱地所のような一国を代表するデベロッパーでさえも、巨大プロジェクトを取り回すことがいかに難しいかを示唆している。

 さらに心配なのは五輪後の景気の問題だ。20年の東京五輪が終われば、国内の景気が後退し、テナント需要は縮むとみられる。そこに大規模な新規供給がなされることで、「供給過剰状態となり、東京一帯の賃料そのものが暴落するのではないか」(不動産アナリスト)というシナリオもよぎる。

 丸の内や大手町など東京駅周辺の一等地を地盤としてきた三菱地所。その牙城で展開する今回の巨大プロジェクトを成功させなければ、本拠地を守り抜くことすら危うくなる。

 

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