政治・経済

最後の巨大国有企業の上場が秒読み段階に入った。11月4日に予定されている日本郵政グループ3社の同時上場は、「民営化議論が始まって10年のプロセスの集大成」(西室泰三・日本郵政社長)となる。政治の波に翻弄されながら、郵政民営化はいよいよフィナーレを迎える。 文=ジャーナリスト/渡辺一樹

 

数多の課題を残したまま上場する日本郵政

 

 「郵政民営化が本当に国民のためになるように上場計画を練り上げた」

 西室泰三日本郵政社長が社長・会長を務めた東京証券取引所は9月10日、日本郵政グループの持ち株会社・日本郵政と、金融子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険3社の同時上場を承認した。初回売り出しは「市場の混乱を避ける」(財務省)ため、発行済み株式の11%に抑える。それでも上場時の売却総額は計1兆3875億円が見込まれ、1987年のNTT(2・2兆円)、98年のNTTドコモ(2・1兆円)に次ぐ大型新規株式公開(IPO)となる。

 9月10日に財務省が示した初回売り出し想定価格は日本郵政が1株1350円、ゆうちょ銀が同1400円、かんぽ生命が同2150円だった。これに対し、日本郵政が10月7日に決定した仮条件は日本郵政が1株1100〜1400円、ゆうちょ銀が同1250〜1450円、かんぽ生命が同1900〜2200円と3社とも想定価格を挟み込んだレンジ幅となった。

 最終的な売り出し価格は「ブック・ビルディング方式」で投資家の需要を踏まえ、金融2社の価格は10月19日に、親会社の日本郵政は同26日に決まる。ゆうちょ銀とかんぽ生命株の購入申込期間は10月20日から23日までの3日間。日本郵政株の申し込みは同27日から30日までとなっている。

 財務省によると、販売割合は国内が8割、海外が2割。国民になじみが深い案件だけに、国内では95%が個人投資家を想定、機関投資家向けは5%に抑える。配当性向を高めに設定し、株価の高騰より長期的に安定した株主を想定している。総務相時代、竹中平蔵氏や、初代日本郵政社長を務めた西川善文氏と共に、郵政民営化を推進してきた菅義偉官房長官は個人投資家を株式市場に呼び戻すチャンスと捉え、「国民の皆さまに身近な日本郵政の株式はまさに貯蓄から投資への象徴。経済成長の起爆剤となることを期待している」とコメントしたが、市場関係者は「確かに個人投資家の関心は高いがバブル景気に沸いた初回のNTT株のようなブームにはならないだろう」(大手証券アナリスト)と冷ややかだ。

 金融2社には全国から応募が殺到するとみられるが、問題は両社からの手数料と株式配当に依存する親会社の日本郵政だ。ブック・ビルディングの期間が金融2社より長いのも、子会社2社の企業価値が決まらなければ値付けができないからだ。

 金融2社にも問題が多い。グループの稼ぎ頭であるゆうちょ銀の資産運用は国債が中心で、金利上昇イコール評価損になる。市場関係者は「これが最大のリスク要因」と指摘。西室社長も「国債での運用から市場での運用にシフトさせる」としているが、市場機能を生かしながら、しかも市場をかく乱させないよう資産をリバランスしていくのは容易ではない。政府は段階的に売り出しを進め、最終的には日本郵政の国の保有株式割合を3分の1超まで引き下げる。政府は株式売却によって、東日本大震災の復興財源として4兆円を確保する方針で、復興を後押しする観点からも日本郵政の上場を成功させることが求められる。

 小泉政権時代は17年9月までに金融2社の株式完全売却を計画していたが、民主党連立政権下で12年に成立した改正郵政民営化法では「できる限り早期に処分」に後退。上場計画についても「まずは日本郵政の保有割合が50%程度となるまで段階的に売却する」との表現にとどまっている。また、金融2社が同時上場を目指す親子上場も問題視されている。「利益相反の観点から、市場では歓迎されない」とみる市場関係者は多い。

 

魅力に欠ける日本郵政の上場

 

 2012年末の第2次安倍政権発足以来、日銀の追加緩和や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)資金の株式市場への投入によるポートフォリオ改革で、相場の需給環境は大幅に改善した。しかし郵政上場を前に、中国経済の不透明さなどで株式市場は、乱高下を続けている。

 また、将来の成長戦略が描けておらず、小泉政権時代に郵政民営化の具体的な仕組みを起案した嘉悦大学大学院の高橋洋一教授は「このまま上場しても魅力がない」と切り捨てる。

 日本郵便は郵便・流通事業の赤字が解消できていない。民間大手に比べて収益力の劣る金融2社は新規業務に取り組みたくても民間金融機関から「完全民営化されるまでは認められない」と反対の声が上がる。日本郵政の価値を左右する子会社の日本郵便の将来も描けていない。

 民間宅配業者や電子メールに押され赤字体質の日本郵便は、豪物流大手のトール・ホールディングスを過去最大となる約6200億円のM&Aで傘下に収めた。「(米フェデックス、DHLなど)リーディングプレーヤーに対抗して国際物流に本格的に乗り出す」(西室氏)というが、資産に5300億円もの「のれん」が重くのし掛かる。

 償却するには最長20年間としても毎期265億円が必要だ。営業利益が100億円程度の日本郵便に果たしてそれが可能なのだろうか。

 

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