政治・経済

今年は、国内製薬企業の大型合併が始まった2005年から、ちょうど10年の節目に当たる。各企業連合が軌道に乗りきれていない中、さらなる企業再編を促す厚生労働省の圧力もあり、M&Aの機運が再び高まる可能性がある。 文=ジャーナリスト/小島真一

製薬業界 再編の結果 アステラスが好調 第一三共は仕切り直し

 日本の製薬大手の合従連衡の口火を切ったのは2005年4月の山之内製薬と藤沢薬品工業(現アステラス製薬)の合併で、これに触発されたように、三共と第一製薬(第一三共、持ち株会社設立後07年に経営統合)が同年9月、大日本製薬と住友化学傘下の住友製薬(大日本住友製薬)が同年10月と、大型合併が相次いだ。07年には三菱ケミカルグループの田辺三菱製薬(田辺製薬+三菱ウェルファーマ)が、翌08年には協和発酵キリン(協和発酵+キリンファーマ)が誕生し、主要製薬企業10社のうち、半分をこれら合併組が占める。

 アステラス、第一三共、大日本住友の05年合併組の現在を見ると、「新薬特化型」を志向するアステラスの躍進が際立つ。

 アステラスは合併翌年の06年に消費者向けの一般用医薬品事業を第一三共に売却。その後は医療用新薬に経営資源を集中させ、特に抗がん剤分野に強い海外ベンチャーの買収や製品導入に傾注してきた。その成果が13年に前立腺がん治療薬の製品化という形で結実し、現在の好業績を支えている。

 一方で、アステラスから一般用医薬品事業を買い取った第一三共はその後、08年に印ランバクシー・ラボラトリーズの子会社化に踏み切り、特許切れ新薬(ジェネリック医薬品)事業に参入。新薬、一般用医薬品に加えてジェネリックもと、アステラスとは逆に多角化路線を強化した。

 品質問題を抱えていたランバクシーの立て直しは最後までうまくいかず、今年、同社の持ち分をインドのジェネリック企業に譲渡。結果的には最小限の損失で売り抜け、新薬事業に回帰することに成功した。ただ、その間投入した2つの新製品は、欧米メガファーマの競合品などと想定以上の競争に晒されている。

 大日本住友は09年に米セプラコール(現サノビオン)を買収。同社を橋頭堡として、統合失調症などを適応とする抗精神病薬を米国市場に投入した一方、再生医療分野にも、製薬企業としてはいち 早く投資を敢行するなど独自の存在感を示している。半面、国内事業では目立った成果は見られず、特許の切れた既存製品がジェネリックに押されて苦しい状況が続く。売り上げ面での停滞という意味では、田辺三菱は合併時からほとんど成長が見られない。統合後に非コア事業の整理を進めたという事情もあったが、海外展開にいまだ及び腰であるからだ。旧2社がバイオ医薬品の独自技術を持ち寄ることで発足した協和発酵キリンも、英国企業を傘下に収め、血液がんの治療薬を日本で製品化することに成功しているが、本格的な海外展開はこれからという状況だ。

製薬業界のこれから 注目は再編による合併の2社

 合併組が軌道に乗ったとは言えない現状下で、厚生労働省が9月4日に発表した「医薬品産業強化総合戦略」が、業界でちょっとした話題を呼んでいる。

 製薬企業が承認申請する新薬などの許認可権を握る厚労省が打ち立てた同戦略は、医薬品の安定供給と企業の国際競争力強化を両立させつつ、しかも医療費の効率化につなげようという、役人好みの三位一体の目標を掲げたものだ。ところが監督官庁の「霞が関文学」にしては珍しく、日本の製薬企業について「M&A等による事業規模の拡大も視野に入れるべき」と、再編統合にまで踏み込んだため、業界のひんしゅくを買った。

 ただ、これは必ずしも「役人の理屈」として唾棄すべき提言ではない。一足早くM&Aブームが訪れた欧米に目を向けると、米国では大手が5社程度、英仏独といった欧州勢も、国を代表する「ナショナル・フラッグ・ファーマ」は1、2社に収束しており、幻に終わったものの米ファイザーが英アストラゼネカに統合を持ち掛けるなど、昨年頃から国を跨いだ買収合戦が過熱している。多数の内需依存型のメーカーが自国でパイを奪い合っているのは日本だけである。

 上位メーカーでも海外売上高比率が半分程度という日本の製薬企業は、大部分が公的医療費で賄われる国内市場で収益を稼ぎ出している。社会保障費が巨額の財政赤字を垂れ流している状況で、いつまでも保険料と税金をあてにして商売をされてはたまらないというのが、国の本音だろう。そんな役所の意向もあってか、ここ数年、まことしやかに囁かれてきたのが、アステラスと第一三共の経営統合だ。実現すれば武田薬品を抜き、日本にも2兆円規模のメガファーマが誕生する。この2社は多くの治療分野で製品資産がバッティングし、前述したように事業戦略のベクトルも大きく異なる。それでも今年、第一三共がランバクシー問題に決着を付けたこともあって、厚労省の期待は同社とアステラスの大連合に集まっているといわれる。

 というのも、日本の製薬産業をリードする立場にいたはずの武田薬品は国内メーカー同士の合併には興味を示さず、同族色が色濃く残る大塚ホールディングスやエーザイなども合従連衡とは距離を置き続けているからだ。役人の目からすると、武田に代わって“日の丸”を背負ってくれそうな製薬企業は、アステラスと第一三共しか見当たらないというのが実情。果たして再びの合従連衡はあるだろうか。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る