政治・経済

総合商社の源流ともいうべき鈴木商店の流れをくむ双日。ニチメンと日商岩井との統合時には、バブル経済の崩壊で多額の不良債権を抱え込んでいた。しかし、財務体質の改善が一巡。利益成長に向けた積極投資を行い、攻めに転ずる姿勢に舵を切った。佐藤洋二社長は経理・財務畑中心のキャリアを生かし、さまざまなメッセージを打ち出している。 聞き手=本誌/榎本正義 写真=佐藤元樹

総合商社の源流となった鈴木商店の足跡に学んだ佐藤洋二氏

(さとう・ようじ)1949年熊本県生まれ。73年長崎大学経済学部卒業後、日商岩井(現双日)入社、経理・財務畑を中心に歩み、米国会社財経・管理ゼネラルマネジャー、本社での企画ユニットリーダーなどを歴任。2004年経営統合により双日の常務執行役員。長年にわたりCFOを務めた後、12年4月代表取締役社長に就任。座右の銘は「何事にも誠実に」。

(さとう・ようじ)1949年熊本県生まれ。73年長崎大学経済学部卒業後、日商岩井(現双日)入社、経理・財務畑を中心に歩み、米国会社財経・管理ゼネラルマネジャー、本社での企画ユニットリーダーなどを歴任。2004年経営統合により双日の常務執行役員。長年にわたりCFOを務めた後、12年4月代表取締役社長に就任。座右の銘は「何事にも誠実に」。

―― 双日は日本の総合商社の源流ともいえる鈴木商店の流れをくみます。製造業を中心にいくつもの会社を興し、買収していった鈴木商店は、金融業が中心の他の財閥と異なり、モノづくり大国の礎を築いた財閥です。その成功と、その後の破綻から得た教訓は。

佐藤 鈴木商店が活動した時代は、明治、大正から昭和初期にかけてで、その中で、個人に頼った急成長の手法によって短期間で大きく飛躍します。ところが台湾銀行からの融資に頼り過ぎていたため、急激な環境変化に対応できず破綻していきます。急成長の手法は魅力的にも見えますが、これを支える兵站が確保されていなければ瓦解も早いという教訓です。商社はともすれば手掛けた仕事の数字の大きさに目が行きがちですが、それを継続する裏付けにも同時に目配りをしなければいけません。

―― 会社の源流に遡った話は若い社員にも語り掛けているのですか。

佐藤 ニチメンと日商岩井との統合後10年の2014年にそれぞれの歴史と統合後の10年についてまとめました。その中で過去の隆盛と失敗の歴史を社員が理解すべきとの思いを込めて年表を記載しています。

―― 佐藤社長は双日ウェブサイトの「社長の部屋」の中でも、これまでのいろいろな局面での決断の経緯や、会社の状況をつぶさに記しています。ところで佐藤社長は、営業現場の経験がなく、ほとんど経理・財務畑。営業出身者が多い総合商社のトップとしては異例の経歴ですね。

佐藤 入社当時は営業をやりたいと熱望していましたが、経理に配属され、いろいろな経験を積む中で、この仕事にも面白味があるとのめり込むようになっていきました。要所要所で先輩や上司に恵まれ、たくさんのチャレンジの機会を与えられて多くの経験を積んだことが結果として自分の成長を促しました。

―― 1987年に、経理担当として1度目の米国駐在を経験されました。

佐藤 本社では課長代理として、船舶不況の中で船舶案件の大きな処理をしました。これをこなして意気揚々とニューヨークに渡りました。商社マンとしては遅い37歳でしたが、日本での成果があったので“天狗”になっていたと思います。上司からは、米国メンフィスの鉄鋼加工の子会社が問題を抱えているので、ニューヨークから出張して原因の調査をするよう命じられました。しかし、どうしても原因が見つかりません。打ちひしがれて出張からニューヨークに戻り、空港で待っていた上司に報告すると、「できるとは思っていなかった」と上司は言いました。私の“驕り”は見抜かれていたのです。これを機に、一から学び直そうと仕事に打ち込みました。

 その後に命じられたのが、赤字だった米国の鉄鋼関連の関係会社の立て直しでした。人員削減、不採算店閉鎖、売却などの再建案を、東京の本社と相談の上とはいえ、年の若い私が、日本から現地に派遣されている一回りも年長の子会社社長に提案するのです。担当した5社の中の1つの子会社は業界のパイオニアで思い入れもありましたが、どうしても立て直すことができず、売却して撤退せざるを得ませんでした。戦後、敗戦国の日本から勝戦国の米国に進出した当時の苦労は現地社員の雇用1つとっても並大抵のものではなかったと思います。また、従業員の雇用を大切に守ってきた中で、子会社社長としてその売却案をきちんとこなさなくてはいけないと頭では理解していても、心の中では割り切れなかったはずです。その子会社社長は難航していた自らの会社売却交渉の席上で交渉相手に「私はこの手で、歴史ある会社に幕を閉じなければなりません」と言いました。しばらく沈黙の後、交渉相手は「あなたたちの言うとおりに契約を締結しよう」と。ふとわれに返った私は、目頭が熱くなっていました。

―― 97年の2度目のニューヨーク駐在では、また財務で難局に立ち向かわれますね。

佐藤 翌98年に、日商岩井は金融子会社への債権放棄など約1600億円の特別損失を計上して赤字に転落します。本社からは「売れる資産はすべて売れ」との通達でした。私は日商岩井米国会社のトレジャラー、財務部長の上位職。会社の金庫番としてキャッシュを最大化し、何とか会社を生き残らせることが命題でした。毎日が苦しみの連続でした。問題が表面化したときには、原因は1つではない。同時に片付けるなど、手品でないとできません。1つずつやっていく中で、すべてが改善したときには、状況が変わっている場合も多い。それぞれの案件ごとに、これは短期で臨まなくてはいけないのか、時間をかけて取り組むほうが有利なのか、といった時間軸で考えることの大切さも学び、その後は時間を大事にするようになりました。これが米国で得た最大のものかもしれません。また、当時の上司からは1週間先、1カ月先を見通すよう繰り返し言われました。その時には理解が及びませんでしたが、少し後になってからマクロでのものの見方であることに気付き、時間のとらえ方と同じ話であることが分かりました。

佐藤洋二氏の思い 国際会計基準への対応でグローバル化を促進

20151103_SOJITSU_CATCH―― そんな中で、経営企画の特命担当として2002年に帰国。翌03年のニチメンと日商岩井との経営統合の作業に追われることになります。

佐藤 2回目の駐在の時の米国会社の上司で統合前に日商岩井の社長となっていた西村英俊さんから、日本に戻って来いと命じられたのです。西村さんを含め、私はそのときどきに素晴らしい上司に恵まれました。

―― 12年4月社長就任後すぐまとめた「中期経営計画2014」、今回の「中期経営計画2017」でも数値面での目標が多く盛り込まれており、経理・財務畑出身の社長としてのカラーを出されていると感じました。

佐藤 当初は社長をやれと言われてもピンと来なくて、CFOが適任じゃないのかなと思ったこともあります。商社の社長というと、社外に出て世界を飛び回るイメージがありますからね。とはいえ、この時期に私が社長になって良かったとすれば、国際会計基準(IFRS)という新しいルールで会社を表現していくことに抵抗感がない点でしょうか。むしろそれを積極的に取り入れることで、グローバル化に適応する。それこそが当社の活動の原点になると思っています。会計情報の共有化と公正性が担保されてこそグローバル化は成り立ちます。グローバル化では先端を行く商社が、IFRSを採用しないで何とすると。

―― 先日は18年3月期までの3年間に、15年3月期までの3年間の実績の約2倍にあたる3千億円の投融資を行うと発表しました。財務体質の改善が一巡し、利益成長に向けた積極投資に切り替えると。

佐藤 3千億円ありきでやるわけではありません。全社的に優先度の高い順に割り振り、積み上げるとだいたいそれくらいになる。これまでに作り上げてきた強固な財務基盤があるので、舵を切ったのです。冒頭に申し上げた、鈴木商店の時代は、台湾銀行1行に頼らざるを得なかった。だが、もう二度と会社を危機にさらすわけにはいきません。当時の状況と現在では大きく異なり、資金のバリエーションを組んでいるので、3千億円を調達できる根拠があります。

佐藤洋二氏の戦略 資源から非資源へ収益ポートフォリオを変化

―― 具体的には。

佐藤 9つの本部ごとにどの分野に当社の機能や成長の可能性があるのかを考えながら注力分野を決めています。例えば、環境・産業インフラでは、新興国の電力プロジェクトに注力することで安定収益基盤を構築し、再生可能エネルギーでは今まで取り組んできた太陽光発電以外に、風力、地熱などによる発電事業も早い時期に参入していくことで収益性が担保され、時代に合った企業イメージを作り出すこともできます。またインフラ面では、成長著しいアジアの人口の移動が活発になり、空港ターミナルを含めた航空関連の需要が増加します。当社はボーイング社、ボンバルディア社の航空機などを取り扱い、国内シェアでナンバーワンの民間航空機代理店として歴史があり、世界中に事業パートナーとして組める相手もいます。この強みを基に成長分野の空港関連ビジネスも注力分野と位置付けて投資を積極的にやっていくつもりです。リーマンショック以降は、資源から非資源へと大きく舵を切っています。世界の人口増加の中で必要とされる食品、食料資源にも非資源の注力分野として取り組んでいきます。

―― 「すべてに誠実なる対応を」が信条とか。

佐藤 誠実さは、個人でも会社でも、最後に決め手になるケースが多いと思います。どんなに検討しても、検討しきれないことがある。最後に相手を信頼できるかどうかとなると、誠実な対応をしてきた人であり会社なのかということが重要なファクターになる。マーケットからの信任を受けるということは、マーケットに対して常に信頼と誠実を心掛けてやっていかなくてはいけない。これは私がこれまで培った信念です。

 
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