国際

負け戦濃厚の総統選に出馬した朱立倫

 2016年1月16日、台湾では総統選挙と立法委員選挙が当時に行われる。2015年4月中旬、野党・民進党は、蔡英文主席が早々と次期総統選候補に決定した。

 一方、与党・国民党は朱立倫主席、呉敦義副総統、王金平行政院長(首相)ら有力候補が、相次いで総統選出馬を辞退した。その間隙をぬって、知名度の劣る洪秀柱行政院副院長(女性)が、同月、総統選出馬を宣言している。

 2015年6月、洪秀柱は世論調査で46%以上の支持を獲得した。総統候補になるための条件、30%の“関門”を見事に突破したのである。そして、翌7月、国民党大会で洪秀柱は正式に総統候補として承認された。これで、有力2党の候補が出そろったわけである(翌8月、親民党の宋楚瑜主席が出馬を表明)。

 けれども、洪秀柱候補は「一中同表」(「一つの中国」とは中華人民共和国)を唱え、「究極統一」(最終的には「中台統一」)を目指すと主張し始めた。国民党の党是は「一中各表」(「一つの中国」の“中国”とは、中国側は中華人民共和国を指し、台湾側は中華民国を指す)である。

 実は、80%以上の台湾住民は「現状維持」か「台湾独立」(国際法上はともかく、実質的に「独立」している台湾は、今更どこの国から「独立」する必要があるのか)を志向している。

 例えば、2015年9月「遠見世論調査」では、「現状維持」を望む人が56.1%、「独立」に賛成な人が25.4%だった。合計で81.5%である。一方、「中台統一」に賛成な人は7.7%しかいなかった。台湾の主流民意は「現状維持」あるいは「台湾独立」である。

 つまり、洪秀柱は台湾住民の意識とはズレていたのである。そのせいか、洪秀柱が各地の立法委員候補と一緒に演説会を行なっても、島民は集まらなかった。

 そこで、朱立倫主席は洪秀柱に対し、“自主的”に総統候補をおりるよう説得した。国民党は総統選の方はともかく、立法委員選挙で国民党候補者が大敗することを恐れたのである。

 だが、洪秀柱は朱主席の申し出を固辞した。そこで、10月17日、朱立倫側は臨時党大会を開催し、洪の代わりに朱を来年の総統候補としている。総統選3ヵ月前、異例の交代劇だった。

 本来ならば、2015年4月の時点で、朱立倫はたとえ“負け戦”とわかっていても、総統選へ出馬宣言するべきだったのである。

総統選後の空白期間に台湾海峡危機が起きたら

 現時点では、次期総統選で蔡英文候補が勝利する公算がきわめて大きい。また、立法委員選挙でも民進党系が過半数を獲得する勢いである。

 さて、もし蔡英文が当選したとしても、来年5月20日の総統就任式まで4カ月以上の「空白期間」がある。この期間に、台湾海峡危機が起こらないとは限らない。
 周知の如く、中国共産党体制は今や崩壊寸前である。経済は低迷し、習近平政権が推進する「反腐敗運動」は政治的混乱を引き起こした。また、社会不安が増大し、全国各地でテロと思われる事件が頻発している。

 今後、共産党の内紛で人民解放軍同士の内戦が始まる可能性を排除できない。激しい内戦状態になれば、現在のシリアと同様、多数の中国難民が海外へ逃れるかもしれない。

 他方、内戦直前、習近平政権が他国に“冒険主義的攻撃”を始めたらどうなるだろうか。すでに習政権は「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)を放棄している。

 その攻撃対象として、①我が国の尖閣諸島、②台湾、③ベトナムかフィリピン等の一部ASEAN諸国などが考えられる。しかし、①・③の場合、中国は主権国家との戦いなので、慎重にならざるを得ない。

 ところが、今現在、中国・台湾共に「一つの中国」を掲げている(実態は、明らかに「一つの中国」「一つの台湾」)。仮に、北京が台湾に対し「冒険主義」的戦闘(「国共内戦」)を仕掛けたら、馬英九政権はどう対応するのだろうか。

 人民解放軍が台湾海峡を渡って来た際、馬政権は戦わずに白旗を上げる、あるいは、解放軍を台湾へ迎え入れた場合、「平和的中台統一」が実現するだろう。

 その時、米国は、手の出しようがない(1979年4月「台湾関係法」が制定・施行されている)。

 同法は中国軍の台湾侵攻に対し、台湾軍が自国を守るために戦うのを前提にしているからである。「平和的中台統一」の場合、米国は傍観するしかないのではないか。

 ただし、民進党を中心として、島内で台湾住民が人民解放軍(プラス台湾軍も?)を相手にゲリラ戦を展開すれば、米国は台湾住民の戦いを支援するだろう。その際、自衛隊も住民側を支援せざるを得なくなるに違いない。

 

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