政治・経済

 信金業界の雄、多摩信用金庫が乱気流の飛行を続けている。関東財務局による金融検査が異例の長さとなったのに加えて、地元自治体が発行したプレミアム付商品券の不正購入問題も尾を引き続けている。名門信金の迷走に、業界内では唖然とするムードが強まるばかりだ。 文=ジャーナリスト/野田健二

「堅実な信金」の評判に泥を塗る行為

 多摩信用金庫は、2006年に多摩中央、太平、八王子の3信金が合併し誕生した。その母体の1つ、多摩中央信金時代から、東京圏を代表する有力信金と目されてきた。

 だが、そんな名門信金の足元が近年、揺れ続けている。今年7月、同信金はある「お詫び」を公表した。アベノミクスの一環として、八王子市が発行した「八王子市プレミアム付商品券」の販売をめぐって社内で発生した不正行為である。

 八王子市は同商品券の一般への販売を同信金に委託したものの、同信金の中では、一般への販売に先立って、信金内の数多くの職員の間で事前購入が行われていたのだ。

 結果として、一般顧客は同信金を訪れても、商品券を購入できないという事態が発生してしまった。単なる商品券でもこうした行為は許しがたい上に、同商品券はプレミアムが付く「お得商品券」である。信用を旨として、国や都道府県、自治体の収納代理業務を担う金融機関としてあるまじき行為と言っていい。

 同信金の内部調査を通じて、この不届きな行為は八王子市発行の分だけではなく、昭島市発行分にまで広がっていた事実が判明した。

 例えば、八王子市発行分で事前購入は9店舗343セット、金額にして171万5千円であり、そのほかの不適切処理まで加えると、総額は200万円を軽く超える。

 おまけに、自前購入した信金職員はそれを経営陣の一角に渡す予定だったという話が最近になって飛び交っている。万が一、それが事実であるとすると、支店の現場職員たちによるルール違反行為というレベルをはるかに超えた問題にまで発展しかねない。

 同信金では既に8月14日、佐藤浩二会長、八木敏郎理事長が月額報酬の全額返上1カ月などの一連の処分を発表し、経営責任を明確化した形となっているが、事態の進展次第では、もう一段の責任の明確化を迫られかねない。

 ある大手信金の理事長はこの事態について、「なぜ、こんなにタガが外れたような問題を発生させたのか」と、多摩信金について首をかしげている。

 と言うのも、同信金は母体の多摩中央信金当時から、内部規律の厳しい堅実信金という高い評価を得てきたからだ。今回の事態は、そんな同信金の輝かしい歴史に泥を塗るものであることは間違いない。

 それだけではなく、ある信金関係者は今回の事件の余波を強く懸念している。八王子市のように、地元自治体が発行するプレミアム付商品券などの類を自治体から委託して販売窓口となるケースは、他の信金でもあるからだ。

 「今回の事態を踏まえて、販売の委託先の見直しなどという動きが起きると、信用面で痛手となりかねない」

 このような懸念が信金業界に漂い始めているのだ。確かに信金にとって、地元自治体との関係は重要であり、そこにひびが入ることは由々しき事態と言えるだろう。

イメージ低下に他の信金も迷惑顔

 それに加えて、多摩信金の場合、さらにもうひとつ、信金業界を唖然とさせる状況を発生させていた。

 プレミアム付商品券問題が発覚する少し前のことだ。関東財務局による同信金への金融検査が、前代未聞と言えるほどに長引いたからだ。その背景のひとつとなったのは、同信金内から発せられた内部告発である。その内容は、多摩信金の経営陣と、反社会的勢力との関係などを糾弾するものだった。

 大手信金への金融検査は1カ月ほどの期間となるのが通常のパターンだが、同信金に対する金融検査は半年を超えるという異常な長さとなっていた。これは、関東財務局が求めた対応を同信金側が十分にとらなかったことにも起因しているという。これもまた、異例の出来事と言っていい。

 そんな事態が長引いた後に発生したのが、プレミアム付商品券問題にほかならなかったのだから、信金業界の中で多摩信金に対して、迷惑顔を隠さないムードが漂うのは避けられなかった。

 ただでさえ、地方銀行などによる攻勢が強まって、顧客が奪われるようなケースも起きている中で、信金のイメージが低下するような出来事だという批判も出ている。

 金融庁は現在、金融機関に対して、「経営陣と営業現場の間の情報回路が双方向で目詰まりを起こさずに、円滑に回っているかどうか」を重点的にチェックする姿勢にある。

 しかし、少なくともこのような事態を発生させた多摩信金の場合、それ以前の問題が内在していたと言わざるを得ない。元来、堅実で他の信金が模範のようにしてきた信金であることを考えると、関係者のショックは非常に大きい。

 特に、プレミアム付商品券問題の場合、依然として問題はくすぶり続けているという印象が拭えない。多摩信金を舞台に演じられた2つの不祥事は、名門金融機関の屈折点になってしまうのだろうか。

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