政治・経済

観光大国のトップランナーを目指す西武グループの「企業価値向上の源泉」と位置付けられるのが、西武鉄道をはじめとする都市交通・沿線事業だ。西武鉄道が路線を展開する埼玉エリアも今後の少子高齢化は避けられないが、まだまだ沿線には開発の余地があり、さらなる地域活性化を図る。今後の展開について、若林久・西武鉄道社長に聞いた。 聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=幸田 森

沿線開発に対する西武鉄道の考え方

沿線や観光地の伸びしろに期待

―― まず現状分析として、今の貴社沿線についてどのようにお考えでしょうか。

若林 これは首都圏の私鉄は皆同じですが、まず事業エリアが首都圏にあるということ。そして、当社の基幹路線は池袋線と新宿線で、玄関口が池袋駅と西武新宿駅でありますから、3大副都心ターミナルに入っていることは強みの1つだと思います。路線が12路線176・6キロメートルあり、非常に活気ある都市部から、緑豊かな自然に囲まれた郊外までいろんな路線が多岐にわたっていることで、お客さまにいろんな選択肢があることも強みだと思います。

 それに小田急さんの箱根や東武さんの日光のように、当社でも観光資源として秩父が控えています。秩父は本当に自然が豊かですし、歴史も文化もあります。また、川越も小江戸の雰囲気が非常に残っている。そういう魅力的な観光地も控えています。さらに他社にないこととして、プロ野球球団を保有しています。本拠地が所沢にあり、沿線価値向上に大変に寄与しています。

 それと一番大きな強みは、沿線にまだ開発の余地が十分残っていることです。潜在力と言いますか、将来に対して大きな強みだろうと思っています。逆の意味で言えば、沿線の開発余地が残っていることは、他社に比べて開発が遅れているという意味かもしれないです。これはそのまま残しておけば弱みになってしまいますけど、将来開発していきますから、逆に強みだと思っています。

―― 観光資源に関して、他社の日光や箱根に対する秩父・川越の訴求力は。

若林 秩父の観光資源には素晴らしい潜在能力があると思っています。緑も豊かで自然もありますし、歴史も文化、もちろん地元のグルメもあります。それと伝統的な行事、お祭りも数多くありますが、まだまだ観光地として箱根や日光に比べて完成されていないと言うか、可能性が非常にあると思っています。沿線の開発と一緒で、まだまだ伸びしろがあり、私は楽しみにしています。

 秩父や川越へは特急レッドアロー号が走っていますし、特急収入もプラスになります。必ずしも観光のお客さまとは言えないですが、西武秩父駅の定期外の乗降人員がお陰さまで非常に増えています。その背景には2013年3月に池袋線が横浜方面との相互直通運転を開始した影響があると思います。そのタイミングで、吉高由里子さんをイメージキャラクターに、当社としては初めてのテレビCMも始めています。非常に相乗効果があって、テレビCMが1つの引き金となり、秩父がいろいろなメディアに取り上げられています。相互直通運転が始まる前の14年度の2年間を比べますと、西武秩父駅の定期外の降車人員が10%以上伸びています。

 小田急さんや東武さんはもちろん観光地が控えているので特急電車を持っていますけど、すべての会社が有料の特急電車を持っているわけではありません。当社は訪日外国人の取り込みがまだ十分でない部分があるので、当社の特急もこれからどんどん海外のお客さまにご利用いただけたらと思っています。

西武鉄道の沿線開発の現状と未来

沿線活性化により定住人口増加を促す

20151103_SEIBU_P01

(わかばやし・ひさし)1949年生まれ、静岡県出身。72年早稲田大学商学部卒業後、伊豆箱根鉄道入社。同社自動車部長、常務取締役営業部長などを経て、2006年代表取締役社長に就任。12年5月に西武鉄道代表取締役社長、同年6月に西武ホールディングス取締役に就任、現在に至る。

―― 現在進行中のプロジェクトの進捗状況は。

若林 人口減少にいかに対応するかが、われわれ鉄道会社の戦略だと思います。そういう意味で言えば、そう簡単にできることではないですが、沿線地域を活性化させて、定住人口・交流人口を増やすことをやらなければいけません。

 沿線活性化としては、まず所沢駅の周辺開発を始めています。所沢駅のリニューアルが13年6月に完了しており、これからは駅周辺を開発するということで、まず東口に駅ビルを造る計画になっています。これは20年度内には完成の予定です。もう1つが西口で、車両工場跡地の一帯に広域集客型の商業施設を中心とした大規模開発を計画しています。所沢駅は当社の基幹路線である池袋線と新宿線の結節点にあたり、1日の乗降人員は約9万6千人ですが、乗換人員は11万人強おり、計約21万人のお客さまにご利用いただいております。所沢は、近い将来間違いなく賑わいのある魅力的な街に大きく変貌すると思います。

 沿線開発ということでは、池袋線の石神井公園駅が現在第3期の開発をしています。高架化になり、空いた空間にいろいろな商業施設を入れていますが、現在25店舗の店が稼働しています。第3期開発は、「エミリブ」というマンションで、17年春には完成します。近くには石神井公園もありますし、住環境が素晴らしいところで、当社の沿線開発のモデルとして、グループの総力を結集してやっています。

 また、今年度が最後ですが、12年度から15年度まで西武鉄道の「100年アニバーサリー」として100周年事業を実施しています。その一環として、池袋駅のリニューアルをやっていまして、今年度中に完成します。

 西武グループは「観光大国の中心を担う企業グループへ」ということをスローガンにやっています。そういった動きの中で池袋駅構内に「西武ツーリストインフォメーションセンター池袋」を10月30日にオープンさせます。ここでは訪日外国人のお客さま向けに4カ国語で沿線案内や交通案内、最終的には乗車券類の販売も行っていきます。

―― 新たな取り組みとして観光電車を予定されていますが。

若林 観光電車は沿線地域の活性化という意味もありますし、今までにない旅行スタイルを提案する意味があると思います。特に今回の観光電車は、西武秩父と飯能間を主に走っている4000系車両をリメークして、外観は秩父の自然をモチーフに荒川の水の流れなど大胆なデザインにします。また内装には地産木材など、伝統工芸品を使って仕上げます。

 観光電車ですから、お客さまにはゆっくり車窓の景色を眺めながら食事をし、日常生活から離れた開放感を味わう特別な時間を過ごしていただきたいという思いでいます。

 16年春の運行予定で、西武鉄道100年アニバーサリーの集大成という位置付けです。次の新たな100年に向かって運行する形ですから、私も非常に楽しみにしています。

人口減少に対して自治体とも連携を図る

20151103_SEIBU_P03―― 将来的な沿線人口の減少をどのように見ていますか。

若林 国の調査では、沿線人口は今後、徐々に減少していきます。さらに20年後の35年には現状よりも沿線人口が5%減る見込みです。

ただ、例えば豊島区が秩父市と連携して、将来的に秩父に豊島区の高齢者を移住させる話が出てきています。あの話は、別に当社の事業ではないですが、都心部から郊外までいろいろ路線を持っていますから、この沿線は可能です。そういう意味でも単にただ人口が減っていくのではなく、それを補完するいろいろなこともやれるのではないかと思います。いろいろなところで行政と協力しながら、やることはいっぱいあると思っています。

―― 行政との協力で、密に連携していることはありますか。

若林 いろいろありますよ。例えば、所沢市、飯能市、狭山市、入間市を「ダイヤ4市」と言っていますが、地域社会の発展、経済活動の活性化への対応などで協定を結んでいます。その事例として、昨年ダイヤプラン4市の中で65歳以上の方を対象に西武鉄道と西武バスが1カ月乗り降り自由なパスを発行しました。これは実証実験で、その後どうしようかということを今検討しています。こういうことを通して、シニア世代の元気な方を外へお連れするとか、旅行の需要を喚起するということを沿線自治体と積極的にやっていかなければいけないと思います。

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