文化・ライフ

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

五輪開催に手を挙げる都市の減少に危機感抱くIOC

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長(PHOTO=佐々木 伸)

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長(PHOTO=佐々木 伸)

 野球・ソフトボール、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィン――。

 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は新たに5競技18種目を国際オリンピック委員会(IOC)に提案することを決定した。

 もっとも組織委が提案したからといって、5競技18種目の採用が正式に決まったわけではない。あくまでも組織委が持っているのは「提案権」であって、承認するか否かは、来年8月、リオデジャネイロ五輪前に開催されるIOC総会に委ねられる。

 「まだ5競技18種目が20年五輪の実施競技として正式に決定したわけではない。そこは釘を刺したつもりですよ。ぬか喜びになってはいけませんから。とはいえ、IOCもこちらに“提案権”を与えた以上、よもや、それを来年になって引っくり返したりはしないはず。こちらだってIOCの意向を十分に付度したつもりですから……」(組織委幹部)

 IOCは昨年12月に発表した「五輪アジェンダ2020」で従来の種目数310、選手数1万500人という上限とは別に、開催都市に追加種目を提案できる権利を認めた。

 その裏には、IOCの強い危機感が垣間見える。

 22年冬季五輪は中国の北京とカザフスタンのアルマトイの争いとなり、北京に軍配が上がった。周知のように北京は08年に夏季五輪を開催しており、夏冬大会を開催する史上初の都市となる。

 都市力を比べれば北京が横綱ならアルマトイは前頭くらいだ。しかし、投票の結果は44対40。北京の辛勝だった。北京に投票すると見られていた少なくない数のIOC委員が、投票の際にアルマトイに回ったものと思われる。

 IOC委員の中には深刻の度合いを深める中国の人権問題や環境汚染に懸念を抱いていた者もいたと聞く。

 「22年冬季五輪ではストックホルム(スウェーデン)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)ら欧州の都市が相次いで招致を断念した。このままでは市民の反対運動を抑えつけられる旧社会主義国や開発独裁型の国しか五輪に名乗りを上げる都市がなくなってしまう、との危機感をIOCは抱いたのではないか……」(前出・組織委幹部)

 ニンジン作戦ではないが、要するに開催都市に“うまみ”を与えることで、今後の立候補都市の増加につなげようとのIOCの狙いが、「五輪アジェンダ2020」の背景にはある。

 その文脈に従えば、国民的人気があることに加え、金メダルの有力候補である野球・ソフトボールの復活は、早くから“当確”と見られていた。日本発祥の空手も“開催都市特権”の恩恵を受けた。

 では、なぜ一般の国民にはまだ馴染みの薄いスケートボード、スポーツクライミング、サーフィンが選ばれたのか。スケートボードにおいては「ストリート」と「パーク」の2つが認められた。

IOCは若者の五輪離れにも危機感

 IOCは若者の五輪離れにも危機感を強めている。米国のスポーツ専門局が主催する「Xゲームズ」は若者を中心に人気を集め、新たなマーケットの構築に成功している。

 冬季五輪のスキー、スノーボードの「スロープスタイル」は、このXゲームズから生まれた種目だ。スター選手のショーン・ホワイト(米国)の年収は800万ドル(約8億円)を超えるともいわれている。

 彼は冬季五輪において、06年トリノ大会、10年バンクーバー大会(いずれも男子スノーボードハーフパイプ)と2大会連続で金メダルを獲得している。

 組織委がスケートボードやスポーツクライミング、サーフィンをIOCに提案した背景には、五輪の若返りを促進する現執行部に歩調を合わせることで、新国立競技場問題やエンブレム問題で生じたIOCとの溝を少しでも埋めたいとの思いもあったのだろう。

 個人的に注目するのはサーフィンだ。日本サーフィン連盟はJOCに非加盟であり、こうした競技が選ばれるのは異例と言えよう。

 しかし、世界を見渡せばサーフィン人口は3500万人を超えるといわれる。また、この競技は環境保護と地域振興に資することが確認されているほか、ビーチを舞台とするため、コスト面での負担が少ない。こうした特性も「五輪アジェンダ2020」と合致する。

 付言すれば、日本においてサーフィンが盛んな地と言えば高知県や宮崎県、あるいは千葉県の房総などが頭に浮かぶ。五輪を機にサーフィンが盛んになれば「ヒト・モノ・カネ」が動き出す。

 現政権の看板政策である「地方創生」にスポーツの力は欠かせない。今後はサーフィンを新たなる「観光資源」として育てていきたいと考える自治体も増えるはずだ。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る