政治・経済

政府・与党は来年度の税制改正で、ビール類の酒税の税額を一本化する方針を盛り込みたい考え。だが消費増税時の軽減税率の制度設計に時間を取られ、議論は思うように進んでいない。ビール業界は年末に方向性が決まるかどうかを固唾を飲んで見守っている。 文=ジャーナリスト/滝口大悟

ビールは減税、発泡酒と第3のビールは増税へと見直し

財務省

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 「ビール類の酒税見直しを見送りへ」。10月18日と19日の朝刊で、日経、朝日、読売の各新聞が、政府・与党が来年度のビール類の見直しを見送る方針と立て続けに報じた。すわ、見送りか。ビール業界が色めき立った。

 それから2日後の21日の産経新聞は、朝刊の経済面で「ビール類の酒税見直し今年の作業で検討」と報じた。「一体どっちなんだ」。ビール業界に、一斉に困惑が広がった。

 毎年の税制改正の実権を握る自民党税制調査会の新会長に就任した宮沢洋一氏は20日、マスコミ各社のインタビューに応じた。その席で「一部の新聞で『ビール類の酒税見直しの見送りが決まった』などと報じられたが、その事実はありません」と強調。その上で「今年の作業の中でビール類の酒税見直しを検討していくことになろうと思っている」とし、今年の改正の焦点の1つとの認識を示した。

 自民党税調がビール類の酒税改正を急ぐのは、今の税制の在り方によって経済活動がゆがめられているとの問題意識を持つためだ。現在、ビール類の酒税は350ミリリットル缶当たりでビールが77円、発泡酒が47円、第3のビールが28円。ただ、いずれも色や味などが似ているのに税額が大きく異なっている。

 税額の違いは価格差に顕著で、コンビニエンスストアの店頭価格は350ミリリットル缶でビールは225円程度、発泡酒は165円程度、第3のビールは145円程度となっている。

 中でも最も低価格の第3のビールは、賃金が伸び悩む中で庶民の人気を集めており、各社の商品開発はこの分野が主戦場となっている。

政府が目指すビール系飲料の酒税一本化

 しかし、そうした動きが自民党税調にとっては気にくわない。

 「本来、誰しもが一番おいしいビールを飲みたいが、税額が低く価格が安いという理由だけで第3のビールを飲んでいる人が多い」(幹部)と、ビールに似た飲料の開発ばかりにメーカーが知恵を絞っていると映るため。財務省も同じ立場だ。

 そこで、酒税の税額差を見直して、現在の在り方を見直そうというのが自民党税調と財務省の基本方針。昨年は、法人税減税の議論などを優先したことで、時間がなくなり、2015年度税制改正大綱にはビール類の税額について「格差を縮小・解消する方向で見直しを行うこととし、速やかに結論を得る」との明記にとどめた。

 政府・与党が今年目指すのは、数年間かけてビールを減税する一方、発泡酒と第3のビールは増税し、税額の統一まで、方向性を盛り込むことだ。

 最終的には、今と全体の税収が変わらない「税額55円程度」に統一する方向で調整している。

酒税一本化で有利になるアサヒ、サッポロ

 仮にこのとおりの改正が実現すれば、ビールの店頭価格が安くなる一方、発泡酒と第3のビールは高くなり、それぞれのビール会社の商品戦略や経営戦略に大きくかかわることになる。相対的に割安になるビールへの需要回帰が見込まれるからだ。

 しかしビール類の販売構成は各社で大きく異なる。実際、アサヒビールとサッポロビールはビール比率が6割超なのに、キリンビールとサントリービールはそれぞれ4割程度。アサヒはビール「スーパードライ」、サッポロは同「黒ラベル」と「ヱビス」が主力だ。

 一方、キリンはビールは「一番搾り」、第3のビールは「のどごし生」、発泡酒は「淡麗」といずれも強い銘柄を持ち、販売構成比が各3割前後。サントリーは第3のビール「金麦」の構成比が6割超と第3のビールに依存している。

 このためビール類の酒税の税額が一本化されればアサヒとサッポロに有利で、発泡酒と第3のビールに強みを持つキリンとサントリーが不利とされる。

 もっとも、各社は、いつ酒税の見直しが行われてもいいように準備だけは怠っていない。サントリーは9月に、あまり売れていなかったビール「モルツ」を全面刷新して「ザ・モルツ」として再投入。同社の水谷徹社長は、「酒税改正を見据えて出したわけではない」と否定しているが、それを前提としていないわけはない。

 キリンの布施孝之社長も「酒税の改正を見据えて、一番搾りを強化していかないといけない」とし、一番搾りにブランド投資を集中する。ビールの販売シェアで半分を占めるスーパードライを擁するアサヒは同ブランドの投資強化を継続し、サッポロも、ヱビスへの特化戦略を打ち出している。

 もっとも、年末の与党協議でビール類の酒税見直しが大綱に盛り込まれるかは流動的だ。消費税増税時の軽減税率導入をめぐる与党協議の難航で議論そのものが遅れているためだ。

 しかも安い発泡酒や第3のビールが増税となることに、来年夏の参院選への影響を懸念する声が与党内でも日増しに強まる。選挙前の増税は封印という意見が自民、公明両党でさらに幅をきかせれば、見送りも現実になる。

 ビール各社は、11月中下旬から本格化する自民党税調の来年度の税制改正議論の行方を、細心の注意を払いながら見守っている。

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