政治・経済

小さな敵にも容赦ない封じ込め

20151117NAGATACHO_P01 内閣改造が迫った9月末、自民党の若手議員が、安倍首相の人事についてこんなエピソードを明かした。

 「かつて自分がメディアでほんの少し政権批判したら、安倍さん本人や側近から圧力があって、『役職は与えない』とか『選挙で協力しないように団体などに言う』などと脅されたことがあるんです。私のような一人前にもならない小さな敵でも徹底してつぶすという手法です」

 表向きにはそこまで目立たないが、「小さな敵も容赦せずにつぶし、あるいは封じ込める」という恐ろしいまでの徹底した「したたか人事」が安倍首相の真骨頂だとこの若手議員は言うのだ。

 そうした視点で見れば、第3次安倍改造内閣人事のウラには、安倍首相が自らへ権力をより集中させ、党内での現在の「一強」をいっそう強固にする狙いが浮き上がってくるのである。

 まずは留任した石破茂地方創生担当相。政権交代直前の総裁選で決選投票までもつれ込んだ相手だ。地方組織の人気も高く論客で、安倍首相にとって最大のライバルと言っていい。その石破氏は国会終了直後に石破派(水月会)を立ち上げ、今後総裁や首相を狙うことを宣言。実は、安倍首相はこの時激怒し、側近らに「(自分と)戦うつもりなのか」(首相周辺)と話したという。にもかかわらず、石破氏を留任させたのには、その「したたか人事」があるという。安倍首相に近い自民党ベテラン議員は言う。

 「『安倍VS石破』は踏み絵の応酬でした。まず仕掛けたのが石破さん。『派閥を立ち上げ宣戦布告したこの私を登用する勇気があるか』と。これに対して逆に安倍さんは留任という逆踏み絵を返した。『留任の要請を断って党内で孤立して非主流派になる勇気があるのか。あなたについてきた19人も全員干し上げることになる』と暗黙のプレッシャーをかけた。最後は、仲間にも迷惑をかけると石破さんが留任を受け入れ安倍さんの勝ち。石破さんは閣内にいる以上、発言などは完全に抑え込まれることになりますね」

 次に、留任させた岸田文雄外相に対しても、安倍首相のきついお叱りと圧力がかかっているのだという。確かに岸田氏は重要閣僚として閣内に残ったが、岸田派として見ればそれまでの5人が激減し、たった1人しか入閣できなかったのである。自民党幹部が言う。

 「岸田外相は今回の総裁選で早くから安倍首相を支持していましたが、前の派閥オーナーの古賀誠元幹事長が岸田派の若手に野田聖子元総務会長の推薦人になるよう働き掛けました。岸田氏は必死で収拾を図りこれを阻止しましたが、今回岸田派からの入閣が1人だったのはまさにそこ。最後は収まったものの、安倍首相はそんな騒ぎを起こしたこと自体を問題視していますね」

 反原発など度々安倍政権を批判していた河野太郎氏の公務員改革担当相・国家公安委員長としての入閣も、巧妙に心理を付いた「封じ込め」だという。

 「太郎氏の後援会はお父さん(洋平氏)の時代からの人たちが支えてきたが、『お父さんのように自民党を飛び出さない』『自民党の中で出世してほしい、大臣になってほしい』といった年配の後援会の人たちの声にずっと縛られてきた。そんな情報が安倍首相の耳に入り、入閣を打診すれば太郎氏も後援会への気遣いから入閣を受けるだろうし、今後原発再稼動が続く中で閣内に入れば反原発の過激な発言も抑えざるを得なくなるという計算があったのだろう」(自民党選対関係者)

内向きの力学に固執 反省と進化の意思は見えず

 なるほど「恐ろしいほど見事な人事カードの使い方」(前出ベテラン)であり、党内基盤を封圧人事でますます固めたことで安倍首相にとっては今回の内閣改造は確かに成功なのだろう。

 しかし、本来改造に問われるのは、政権がそれまでの政策を反省しながら次の段階へと進化させていくための布陣になっているかどうかだ。つまり、この新内閣が何を掲げ、何をやるかという大方針が重要なのだが、そちらのほうは実に心もとない。例えば、改造を機に安倍首相が高らかにうたった「1億総活躍社会」などは、実現性も具体性も乏しく、単に世論受けを狙ったキャッチフレーズにしか見えない。しかも秋の臨時国会は「野党の追及をかわすためにも開かない」(自民党国対関係者)方向だというがそれでいいのか。

 先日妥結したTPPの水面下交渉を説明する責任はあるし、また首相自身は「安保法制は今後も説明を続けていく」と公言したではないか。また、新内閣の施政方針すら聞けず、新閣僚が国会で答弁する場面も先延ばしだというのか。

 内向き力学だけの内閣改造には評価も価値もない。

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