政治・経済

タクシー待ちの長い行列に並んだり、流しの空車がたまたま通りかかるのを待ったりするストレスから解放されるのが魅力の配車アプリ。世界中で利用者が増加する中、自家用車による相乗りサービス(ライドシェア)も、一部の国や地域では導入されている。現行では、こうしたライドシェアのサービスが認められていない日本においても、今後は規制緩和が進むのだろうか。
文=本誌編集長/吉田 浩

「白タク」行為にあたるUberの「安全性」をめぐって異なる主張

 2015年2月、オンライン配車サービスの米Uber Technologiesが福岡市で行った実証実験に、国土交通省が「待った」をかけた。無許可の自動車をタクシー代わりに使う、「白タク」行為にあたるというのがその理由だ。

 最近、日本でも知名度が上がっている配車アプリ「Uber」は、09年に米国で誕生し、瞬く間に普及。現在は世界59カ国、330以上の都市でサービスが展開され、利用者は100万人以上に達する。急激な拡大の理由は、スマホアプリ経由で近くのタクシーやハイヤーをすぐに呼べる点、統一プラットフォームであるため、海外でも設定を変えずに使用できる利便性などにある。国や地域によっては、タクシー免許を持たない自家用車によるライドシェアのサービスも行っている。福岡市で行われたのは、そうした個人間によるライドシェアの検証プログラムだ。

 こうした動きに対して、国交省と同じく気を揉むのがタクシー業界だ。事業者ライセンスを取得し、コストを掛けてドライバーを雇用し、料金体系を守って営業しているタクシー会社にとって、Uberは既存の秩序を脅かす存在になる。

 日本をはじめとする複数の国で、ライドシェアが禁止されている大きな理由は、安全面の不安だ。タクシー事業者による配車アプリ事業者への批判も、この点を論拠にすることが多い。

 確かに、事業者ライセンスを持たず、タクシーの運転免許すら持っていない個人のドライバーに身をゆだねるのはリスキーにも思える。だが、サービスの利用にあたってはドライバーも利用者も身元をはっきりさせる必要があり、どんなルートでどこへ向かったのか履歴が残り、ドライバーと利用者双方の評価システムもあるため、これらが抑止力となって、むしろトラブルは起きにくいというのが配車サービス側の主張だ。また、長時間の通し勤務があるタクシー会社より、ドライバーが自分のペースで自由に働けるUberなどを利用したほうが、むしろ安全性が高まるのではないかという指摘もある。

日本におけるUberの活動の最適な形とは

 現在、日本におけるUberの活動は首都圏が中心。事業内容はあくまで配車アプリの提供であるため、タクシー事業者のライセンスではなく、旅行代理店の登録で営業している。提携するタクシー会社の数や、事業規模など詳細は公表していないが、利用者は着実に増えているようだ。

 前述のように、個人間のライドシェアは日本では認められていないため、利用できるのはUberと提携するタクシー、ハイヤー事業者の車両だ。利用者の現在地はスマホの位置情報で運転者に通知され、目的地をアプリに入力すれば、あとは細かいやり取りなしで到着できる。支払いも事前に登録してあるクレジットカードによる自動決済であるため、小銭を用意しておく必要もない。

 利用者の待ち時間を減らして効率的な配車を実現するために、Uberが導入しているのが独自開発のアルゴリズムだ。需要と供給をリアルタイムで把握することで、料金設定を一時的に変動させることが可能だ。例えば、有名タレントのコンサートがあるときなど、周辺地域で需要が高くなる場合は料金を上げる一方、それをドライバーに伝えることによって供給が増え、最終的にバランスするのだという。

 「もともとクラウドコンピューティングが得意な会社なので、そうしたユーザーに見えない部分で効率化を図っている」と、髙橋正巳・Uber Japan執行役員社長は説明する。

 一方、既存のタクシー業界も利便性向上に向けた取り組みを始めている。東京ハイヤー・タクシー協会では東京都内で使用できる配車アプリ「スマホdeタッくん」を14年2月に導入。9つの無線グループが参加しており、15年8月時点で約5万4千件のダウンロードを達成、対象車両は約1万1400台となっている。「これまではあまり積極的にPRしてこなかったが、今後は広報活動に力を入れていきたい」(樽澤功・東京ハイヤー・タクシー協会副会長)という言葉に危機感がにじみ出る。

 日本のタクシー会社の営業形態は世界的に見れば特殊だ。海外では事業会社がドライバーを正社員として雇用するのではなく、週単位でライセンスを有償貸与するような形態が多い。そうした個人事業主のドライバーたちが、取り分がより多く稼げるという理由で、Uberに移行するパターンが増えているという。配車サービスの普及は、ドライバーの働き方に関する議論も喚起している。

あわせて読みたい

「日本全国どこでもUberが使えるようにしたい」 髙橋正巳(Uber Japan執行役員社長)
「安心」の実現こそが公共交通機関の使命 樽澤 功(一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会副会長)
[2015年の潮流を読む]「空き××の活用」と「健康・予防元年」になる--江幡哲也(オールアバウト社長兼CEO)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年4月号
[特集] 僕らが宇宙をめざす理由
  • ・岩本裕之(JAXA新事業促進部長)
  • ・松尾剛彦(内閣府宇宙開発戦略推進事務局長)
  • ・岡島礼奈(ALE社長)
  • ・永崎将利(Space BD社長)
  • ・並木文春(IHI理事 宇宙開発事業推進部長)
  • ・宇宙視点で新ビジネス!
  • ・月面農場も夢じゃない キリンのジャガイモ大量増殖技術が宇宙の食を支える
  • ・スタートアップが切り拓く宇宙農業の未来
  • ・20万ドルで飛び立つ 丸い地球と満天の星空へ
  • ・宇宙旅行の前に、宇宙を感じる旅へ
  • ・新薬実現のきぼうは地上400キロの実験場にあり
[Special Interview]

 酒巻 久(キヤノン電子社長)

 宇宙事業に必要なことは「成功を信じてやるしかない」

[NEWS REPORT]

◆いよいよ始まる携帯5G 膨らむ期待と直面する課題

◆23年の長期政権に幕を引く イオン・岡田元也社長の残したもの

◆打倒アマゾンへ 楽天の送料無料化は吉と出るか

◆連続加入者増に赤信号 WOWOWを脅かす定額配信

[総力特集]

 2020年注目企業38

ページ上部へ戻る