政治・経済

外国人旅行者を中心に、日本でも「民泊」人気が高まっている。民泊とは、一般の家(ホスト)が旅行者を客として宿泊させ、料金を取ることをいう。しかし、旅館業法や消防法など各種法令との関係もあり、国の対応は待ったなしだ。 文=ジャーナリスト/横山 渉

民泊とは

民泊とは、一般の家(ホスト)が旅行者を客として宿泊させ、料金を取ること。しかし、旅館業法や消防法など各種法令との関係もあり、国の対応が待ったなしとなっている。

観光客増加と宿泊施設の不足で民泊人気が高まる

日本文化が感じられる古民家などへの宿泊希望も増えている(写真はイメージ)

日本文化が感じられる古民家などへの宿泊希望も増えている(写真はイメージ)

 民泊人気が上昇している理由は、需要と供給の両方にある。供給側であるホストとしては、空き部屋の問題が大きい。少子高齢化に伴う人口減少や核家族化などで、マンションの空き家や自宅の空き部屋が増えている。そのため、これらを有効活用しようというニーズが高まっているのだ。

 需要側の背景には、円安の影響などで、日本を訪れる外国人旅行者が急増していることがある。今年、日本を訪れた外国人旅行者数は9月10日時点で1342万人を超え、過去最多だった昨年1年間の実績(1341万人)を既に上回った。観光庁の見通しでは、年内に1900万人に達するとしている。

 ホストは空き部屋の有効活用により、小遣い程度でも収入を得ることができ、世界中の人々と交流できる楽しみもある。旅行者にとっては、和食や風呂、ふとんなど、日本らしいアットホームなおもてなしを受けることができ、ホテルや旅館に泊まるよりも安上がりになるかもしれない。

民泊と旅館業法の規制

 メリットばかりのように見える民泊だが、問題点を指摘する声も少なくない。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の北原茂樹会長はこう話す。

 「今のところ大きな事故・事件はないようだが、今後が心配だ。万が一何かが起きれば、メディアで騒がれ、宿泊全体に今よりも厳しい規制がかかってくるだろう。そして、問題が起きれば日本のイメージが悪くなってしまう可能性がある」

 例えば、不法滞在者が逃げ込むことや感染症の発生といった大きな事件だけでなく、生活習慣の違いから起きるホストとゲスト間のトラブルなど、日常的なさまざまなトラブルは考えられる。そうしたリスクは民泊に限ったことではないが、ある程度の規制を設けなければ、自治体や監督官庁としても不測の事態への対応には限界が出てくる。

 そもそも旅館・ホテル業とは、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」だ。この「営業」とは、社会性をもって継続・反復されているものを指す。

 旅館業法上、営業の種別は、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業(カプセルホテル、ドミトリー等)、下宿営業の4つあり、その営業種別ごとに許可を受けるための要件が課されている。民泊も、個人宅に一度ゲストを宿泊させた後も継続的に有料で不特定の人を宿泊させていれば、「営業」と捉えられる可能性がある。そうなると、届け出が必要なだけでなく、一般のホテルなどと同様消防法や建築基準法に照らし合わせた設備などの基準をクリアしなければならない。

民泊は”簡易宿泊所”なのか?

 現在の民泊人気を加速させているのはネットの仲介サイトで、中でも有名なのは世界約190カ国の物件を登録するAirbnbだ。

 米サンフランシスコに本社を置き、3万4千都市以上で民泊を仲介。昨年5月には日本法人が設立された。国内では旅行者向けなどに1万3千件以上の物件が登録されている。

 「民泊」というキーワードで検索すると、地方自治体や観光振興団体による「農家や漁師の家への宿泊」サイトがたくさん出てくる。こうした農業・漁業体験プログラム的な民泊は昔からあったが、これらが提供しているのはまさに“体験”だ。

 Airbnbのサービスもその延長として考えれば合点がいくのだが、旅館・ホテルや行政側は個人宅を“簡易宿泊所”として見るから認識のギャップが生まれる。

 仮に、民泊に厳しい規制がかけられ、Airbnbが日本市場から撤退するようなことがあっても、現実には個人間の自由な取り引きを可能にするmixiやFacebookのようなSNSがある以上、規制は不可能だ。そうであれば、行政は自由なマーケットを担保しつつ、いかに利用者の安全を確保していくのか、それだけに知恵を絞るべきだろう。

規制緩和されるも条件は依然厳しく

 国は、一定の条件下のもと民泊を許可できるよう、昨年4月に国家戦略的特区において旅館業法に関する規制緩和を行った。そして、政府の規制改革会議は15年10月初め、来年6月にまとめる実施計画に向けた議論に着手。規制緩和で外国人観光客の増加による宿泊施設不足に対応するとした。ネットなどを使って宿泊者を集めることについても、厚生労働省と観光庁が検討会を立ち上げて議論し、規制改革会議に報告する。

 自治体でも対応に動き出すところがようやく出てきた。東京都大田区は民泊について新たな条例を制定することを発表。年内の条例制定を目指すとしている。もし決まれば、都内では広く民泊を許可する初めての条例となる。

 ただ、その内容はまだまだ条件が厳しく、例えば、宿泊日数もその1つ。国家戦略特区の規制緩和の要件は、7日以上の滞在にのみ適用される。当然、条例もそれに従うこととなるだろう。しかし、外国人旅行者で同じところに7日以上滞在する人がどれだけいるのか。このままでは有名無実化した条例になるのは間違いない。

 

あわせて読みたい
「提供するのは宿泊ではなく“体験”」――田邉泰之(Airbnb代表取締役)
「新しいビジネスを否定する気はない。個人ホストとの協力も考えている」――北原茂樹(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会会長)
[2015年の潮流を読む]「空き××の活用」と「健康・予防元年」になる--江幡哲也(オールアバウト社長兼CEO)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る