政治・経済

最近、FinTech(フィンテック)という言葉をよく目にするようになった。金融(Finance)とテクノロジー(Technology、主にIT)を組み合わせて生み出される新しいサービスのことだ。インターネットバンキングやインターネットによる株や外国為替取引など、ITを活用したサービスはすでに広く普及しているが、フィンテックはベンチャー主導で、従来の金融が提供してこなかった多種多様なサービスを提供している点が大きく異なるという。そこでフィンテックとは何か、金融にどのような変化をもたらそうとしているのかを探ってみた。[提供:経営プロ]

金融機関へのニーズとITの融合から生まれたフィンテック

fint3ech フィンテックが従来型の金融機関によるIT活用型サービスと大きく違う点は、これまでのような金融機関による汎用的なサービスではなく、ニーズごとに特化したサービスをITによって実現・提供している点だ。
金融ソリューションの情報サイト「NRI Financial Solutions」の記事「フィンテックが金融を変える・・・なぜフィンテックが注目されるのか」(2015年6月号)では、その例として金融機関の口座番号を使わずにSNSのIDなどで送金/決済ができるサービスや、金融機関より安価な送金手数料で送金できる送金代行サービスなどを紹介している。

 また、スマートフォンでレシートを撮影すると家計簿ソフトに入力してくれるサービスや、複数の金融機関の口座残高を一覧できるサービスなど、手軽なアプリとして提供されるサービスも生まれてきている。インターネットを通じて投資の助言を行うサービスや、中小企業の経理事務を代行するサービスといったものもある。
インターネットを介して融資や投資を行うクラウドファンディング、ビットコインなどの仮想通貨もフィンテックの一分野に分類されている。

 こうしたサービスが生まれてきた背景には、クラウドコンピューティングの発達やスマートフォンの普及などがある。金融機関でなくても、世の中の新たなニーズを切り出し、適切なテクノロジーを用いることができれば、金融サービスとして提供できる時代になったわけだ。

先行する海外のフィンテックと金融機関の対応

 フィンテックの歴史はまだ浅い。米国で1998年にペイパルがインターネット決済サービスを初めて事業化したことがその始まりとされている。
その後ベンチャーが次々と参入し、レンディングクラブ(個人向けに消費者金融より低金利で個人間の貸し借りをサポートするクラウドファンディング)、
リップルラボ(インターネットによる国際送金サービス)、スクエア(ツイッターの創始者ジャック・ドーシーによるスマホ決済サービス)など多種多様なサービスを提供し、急成長を見せている。

 日経新聞電子版の記事「金融IT『フィンテック』を狙え」(2015年3月8日)ではこうした動きを概観する中で、欧米以外の新興地域でもすでにフィンテックビジネスが次々生まれていることを紹介している。
中国では微信紅包(メッセージサービス「微信=We Chat」を手掛ける中国の大手ネット企業「騰訊控股(テンセント)」が昨年の旧正月から始めた個人間の送金サービス)、アフリカではMペサ(携帯電話による送金サービス)、など、新興国・開発途上地域でも続々とベンチャーが参入しているという。

 大手金融機関も手をこまねいてはいない。新興ベンチャーへの投資や既存ベンチャーの買収などを通じて、フィンテック事業を続々とスタートさせている。GoogleやFacebookといったネットビジネスの巨大企業もそれぞれの強みを活かしたフィンテックビジネスに力を入れようとしており、もはや群雄割拠の様相だ。
ニーズをつかみ、画期的なITとの融合でサービスを展開すれば、小規模なベンチャーでもあっというまに市場を席巻できる時代だけに、あらゆる企業にチャンスがあると言えるだろう。

フィンテックに立ち後れた日本にも活性化の動きと影響が

 日本ではかつて、携帯電話のサービスとして生まれたiモードやおサイフケータイなど、フィンテックの先駆的な形態が存在した。しかし、通信会社の付加価値サービスの域を出ず、グローバルに事業展開するビジョンもなかったため、海外のように金融業界を巻き込み、変えていくような動きにはつながらなかった。
仮想通貨もビットコインの「マウントゴックス」事件で出鼻をくじかれた感があり、一時期の盛り上がりは見られなくなった。

 しかし、世の中には金融の高い手数料、煩雑な手続きに対する様々な不満があり、既存の金融機関によるサービスより格安で手軽なサービスへの支持が増えている。多種多様なサービスの背景にはそれぞれ市場ニーズが存在し、確実にフィンテックの成長発展を支えている。

 投資情報サイト「Longine」の記事「日本で注目のFinTech(フィンテック)ベンチャー業界マップ2015」(2月18日)では、日本でもすでに様々なベンチャーが活動を始めていることを紹介している。
たとえばマネオやクロークレジットのような、法人向けに貸し手が借り手の詳細情報を参照して融資判断できるサービスや、リキッドペイのような独自の生体認証技術で高いセキュリティを実現し、物理的なID発行の必要なしで期間限定イベントや新興国の新しい決済手段を提供するサービスだ。ベリトランスのように海外でも活動する金融ベンチャーもある。

法改正や金融関連大手によるフィンテック促進の動きも追い風に

 日本におけるフィンテック発展のネックになってきたのは、金融商品取引法や銀行業法などによる決済関連業務の規制だが、ここに来てこれらにも規制緩和の動きが生まれている。
2015年5月に金融商品取引法が改正され、企業は決済など金融事業に関わるIT企業などに投資・出資、あるいは傘下に持つことができるようになった。これによって金融機関によるフィンテック参入が可能になり、優れた事業ビジョンと技術を持つベンチャーにとっても、資金調達・事業展開が容易になりつつある。
また、同じ5月に金融庁が「金融グループをめぐる制度のあり方に関するワーキング」で銀行業法などの面からも規制緩和への議論を開始した。

 こうした規制緩和の動きだけでなく、金融関連の大手企業からもフィンテック促進の動きが生まれている。
たとえば2015年2月に開催された「楽天金融カンファレンス」は、業界の枠を超えて新たな金融サービスを生み出し、育てていこうという試みとして注目された。さらに6月に三菱東京UFJ銀行が開催した「Fintech challenge」は、大手金融機関がコンテストで新規金融ビジネスを発掘し、事業化しようという試みだ。

フィンテックの登場は金融業界に影響を及ぼす

 これまで規制に守られて自由競争の仕組みが効果的に働いてこなかった日本の金融業界にも、群雄割拠・下克上の時代は来るのだろうか? それは経済全体にどのような影響を与えるのだろうか? 
「銀行や証券会社を『破壊』するフィンテック、対抗するための「5+1」の対策とは 既存の金融機関はどうすべきか?」(ビジネス+IT 10/21)のように、「最近のフィンテックは金融機関にとってのパートナーからデスラプター(破壊者)になってきた」としてフィンテックがもたらす変化を危機ととらえ、その対応策を提言する動きもある。

 しかし、すでに触れてきたように、個人の生活にせよ、ビジネスにせよ、世の中には既存の金融サービスに対する不満や、利便性や低コスト、セキュリティなど様々な付加価値サービスを求めるニーズが存在する。フィンテックとはこうした市場ニーズによって生まれ、成長してきたし、これからもニーズが存在するかぎり発展していくだろう。既存金融機関もこの流れの中でこれらのニーズに応えるサービスを提供していこうとしている。

 「お金」にまつわる世界が大きく変わろうとしている現在、その変化からビジネスチャンスを掴むか、遅れを取るかによって、ビジネスの成否は大きく左右されかねない。経営者は常にアンテナを張り、最先端の情報を把握していたいものだ。

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