政治・経済

 5月にシャープが経営再建策の一環として発表した大幅減資は、大きな波紋を呼んだ。特に当初は資本金を中小企業並みの1億円にするということで、マスコミなどからは税金逃れとの批判が集中し、株式市場では株価が大幅下落。これを受けてシャープは急遽、正式発表で資本金を5億円に修正するという迷走ぶりだった。3か月経った今も明るい兆しの見えないシャープの経営。果たして大幅減資にはどんな意味があったのだろうか?[提供:経営プロ]

シャープのなりふり構わぬ奇策?

20151111SHARP_P01a 5月9日、日本経済新聞から最初にこの減資策が伝えられたとき、世論・マスコミの反応で目立ったのは「資本金1億円は中小企業の額であり、シャープは税法上の優遇措置を受けようとしている」といったものだった。たしかにこれまでの資本金約1200億円、連結売上高約3兆円、従業員約5万人の大企業としてはあまりに現実からかけ離れていると言えなくもない。
 東京株式市場は週明け11日シャープの株価がストップ安まで急落し、宮沢経済産業相は大幅減資について「違和感がある」と発言した。こうした騒ぎを受けてシャープは5億円に修正したが、シャープの事業規模を考えると、これでも依然として違和感が残った。

税制優遇措置のメリットはそもそもなかった

 しかし経済・金融の専門家からは、こうしたマスコミ・世間一般の論調とは別の角度から今回の減資策をとらえる指摘が出てきた。大幅減資の目的は新規の資金調達を容易にすることであり、そもそも税制優遇効果はそれほどないというのだ。
 たとえば経済解説サイト「THE PAGE」の5月16日の記事「各方面から批判が殺到、シャープの減資ってどんな措置?(The Capital Tribune Japan)」では、資本金1億円以下の中小企業を対象とした優遇税制で「シャープにとって効果があるのは外形標準課税の適用除外など一部に」留まり、節税金額は数億〜十数億円。シャープの企業規模からすればメリットはごくわずかであるとしている。

シャープの本当の狙いは新規の資金調達

 それよりも、今回の大幅減資の本来の目的は、債務超過寸前で企業価値実質ゼロに近い実態に自己資本を合わせることであり、今後の再建のために新たな投資を受けやすくすることだとこの記事は指摘する。現にこの再建策では、新たに発行される優先株を主要取引銀行二行と投資会社が引き受けるかたちで2250億円調達する計画が盛り込まれている。つまり新規の資金で出直しをはかるために、既存の株式の価値を実質的にゼロに近づけ、新株発行と大幅減資がセットになっているのだ。
 ただし、この新規に調達される資金も、そのうち2000億円は借り入れ返済にあてられるので、当面の必要に迫られてのこととはいえ、再建に向けたポジティブな動きに直接つながるわけではない。

吉本興業も125億円から1億円に減資

 7月に吉本興業が資本金を約125億円から1億円に減資することが伝えられたときも、シャープと同様の批判が寄せられた。これに対し、同社は「取り崩した資本金を中長期的な投資に回すための財務戦略で、優遇税制が一番の目的ではない」と反論した。
 吉本興業は3月末に利益剰余金が約140億円のマイナスとなったことから、資本金を約124億円取り崩して資本準備金に回し、財務体質の改善をはかるという。たしかにこれは経営難に陥った企業が撮り得る選択肢のひとつではあるのだが、事業の元手を取り崩すことがはたして健全な財務体質・経営基盤の強化につながるのかどうか疑問が残る。

主力事業の社外分社化をめぐる迷走

 そんな中、シャープにまた新たな不安材料が垣間見えだした。液晶事業の社外分社化をめぐる迷走だ。
 ビジネス情報サイト「ITmediaビジネスONLiNE」8月11日掲載の記事「シャープの再建策、速くも漂流か−−−−高橋社長が液晶分社化で”豹変”【産経新聞】によると、液晶事業は財務基盤の強化や外部から資金調達がしやすい環境を整備するため、5月の経営再建策でも社外分社化が検討されていたという。しかし、再建策発表の直前になってシャープは中期経営計画から除外した。「売上の3分の1を占める主力事業を分社化したら中期経営計画が成り立たない」というのがシャープの主張だった。
 ところが、7月31日の4—6月期連結決算を発表した会見で高橋興三社長は「数字は死守していくが、重点戦略の中の小項目はいろいろ動いていく。こだわる必要はない」と、方針転換に含みを持たせる発言をしたのだ。

ブレる経営が失わせる信頼

 方針転換について高橋社長は「読みが甘いと言われたらそれまでだが、自分たちが決めたことに固執するのはよくない」と、開き直りとも取れる弁解をしている。その背景には事業環境の急激な変化がある。
 元々、再建策の柱とされていた液晶事業だが、成長を牽引してきた中国でのスマートフォン向けの中小型液晶パネルが急激に失速。4〜6月期の液晶事業は1347億円の営業赤字を計上したのだ。
 しかし、読み甘さを認め、経営方針を豹変させたことは、社内外に新たな不安の念を抱かせることになった。液晶テレビや太陽光発電でも環境の変化を読み誤ったことが今の経営危機につながっていることを、関係者はよく知っているからだ。

場当たり対応からブレない経営計画の実行へ

 5月の減資策は主要取引銀行との協議から出てきたもので、意味がなかったとは必ずしも言えないが、批判を受けて1億円から5億円への変更に場当たり的な姿勢が見えた。液晶事業分社化にも同じ場当たり的な姿勢が見え隠れする。
 企業経営には社員・投資家・市場などの信頼が必要不可欠だ。目先の対応に終始して、長期的な再建・成長策を提示・実行できなければ、どんな策を打っても信頼を失い、企業力を衰退させていくだけになる。
 今のシャープに必要なのは、ステークホルダーが納得できるブレない経営計画と、それを迷わず遂行する組織力・行動力だろう。

keieipro_logo_R

 

 

 

<関連リンク>
ビジネスモデルは見直しの繰り返し
【経営者のあの一言 Vol.43】「まずすべてを否定しろ、疑ってみろ。 世間でまかり通っている慣習とか常識とかには、ずいぶん不合理なものが多い。」 セコム 取締役最高顧問 飯田亮
【インタビュー&講演録】経営と人事~何故人は働くのか~ - 経営プロサミット2015
「FinTech(フィンテック)」で日本の金融はどう変わるのか?
【講座】第1回(全5回)女性が管理職になりたがらないほんとうの理由(1/5)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る