政治・経済

(か・りゅう)中国南京市生まれ。1988年来日。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所主任研究員に。2006年より現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授・広島経済大学特別客員教授兼務。主な著書に『中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで』(日本経済新聞出版社)、『チャイナクライシスへの警鐘』(日本実業出版社)など多数。 写真=西畑孝則

(か・りゅう)中国南京市生まれ。1988年来日。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所主任研究員に。2006年より現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授・広島経済大学特別客員教授兼務。主な著書に『中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで』(日本経済新聞出版社)、『チャイナクライシスへの警鐘』(日本実業出版社)など多数。 写真=西畑孝則

柯隆氏は語る 巨大な国有企業が圧迫し技術革新のない“宿命”が

 中国経済のこれまでの成長モデルは、投資を積極的に行い、作った製品を輸出することで高成長を維持してきた。国内の消費に関係なく、これで成長してきたが、もはやこの成長モデルは終わった。

 理由は、人件費の上昇と人民元の為替レートの高止まりだ。この2つが上昇すると、安い製品を作って輸出する成長モデルは機能しなくなる。国が成長すると為替は上昇し、成長とリンクして人件費が上がらないと労働者は不満を抱く。つまり、中国のこれまでのフェーズは、いずれ終わりを迎えざるを得ないものだったのだ。

 日本は昭和50年代にこのフェーズが終了した。そこから日本は研究開発に注力し、技術革新を行った。中国も今、同じ問題に直面しているが、新しいフェーズに入るためには、技術革新を行わなければならない。ところが今の中国には、技術革新が起こっていない。現代はインターネットの時代なので、先進国の技術はコピーが簡単にできる。日本はフェーズの転換時、基礎研究に非常に力を入れたが、中国ではこれを行うと損をする。知的財産権が保護されていないからだ。

 もう1つ日本にはなかった中国独自の背景は、非効率な国有企業の存在である。日本は早い段階で国鉄などの国有企業は民営化された。中国は社会主義なので、国有企業の存在は非常に大きい。重要な産業のほぼすべては国有企業が独占している。そこでは競争原理が働かないので、新たな技術革新が生まれて来ない。既存技術の多くが応用研究、つまりコピーでしかない。日本にも応用研究の段階があったが、先進国をキャッチアップする過程で基礎研究に力を入れた。これからの中国の未来が明るいか否かは、応用研究から基礎研究に転換するかどうかにかかっている。

 これを行うには、国有企業を民営化するしかない。しかし、国有企業は中国共産党の支持基盤のため、改革することは難しい。もう1つが知財の問題だ。中央政府は知財を保護したいが、現場に近い地方自治体は、海外のブランド品などをコピーしている企業だと分かっていても、そこを取り締まると財源が入って来なくなり失業も増えるので、取り締まることができない。だからコピーは止められない。

柯隆氏が語る中所得国の罠の可能性と、2020年の政治リスク

 昭和50年代の日本は、松下電器、ソニー、トヨタなど日本を代表するブランドが確立していた。ところが中国は、世界第2位の経済大国になっていながら、いまだに自国を代表するブランドができていない。改革が必要だと分かっていても、中央政府は地方を取り締まることができない。中国の国家主席の任期は大体2期10年なので、自分の任期中は問題を先送りすればいいと思っている。地方の財源を取り上げると、中央政府が補てんしなければならないが、中央にはそこまでの財源がないので、これもできない。人はある所得水準に達すると、本物を求めるようになるが、中国の大部分の階層は、まだコピー商品しか買えないので、偽物文化を許容せざるを得ない現実がある。

 中国人が今後、本物の高級品を買うようになるか。中所得国の罠というものがあり、世界の多くの国は先進国にはなれない。世界の先進国はG7プラス数カ国で、多く見ても15カ国程度。中国が中進国のままだと、知財の問題は今後も続く。中国は世界のエンジンとして牽引して行ってほしいと期待されていたが、そうならないのではないかという懸念がある。

 もう1つの問題は、現在、習近平政権が行っているいろいろな改革が逆方向に向かっていると思われることである。国有企業をさらに強化しようとしているからで、これはマクロ経済全体の力を弱めるように働く。これでは先進国にはなれない。

 私は今後3年が20~30年先の中国を決めるキーポイントになると思う。改革はすぐにはできないとしても、正しい方向性は示さないといけない。

 もう1つ中国には政治リスクもある。共産党1党独裁政権なので、政権交代に伴う政治リスクがある。独裁政治が怖いのは、政権交代に明確なルールがないことだ。習近平がバトンタッチするのは、2期10年となる2022年。その2年前の20年には次は誰かが確定しているだろう。さまざまな派閥の中から、次の候補者が絞り込まれてくるだろうが、1党独裁の場合は、周囲への信頼がない。トップは常に命を狙われており、特に習近平主席は腐敗撲滅運動を展開しているので、敵が多い。これをやらなかったら自らの命が危ないし、やったらやったで安閑とはしていられない。

 向こう3年で経済リスクが浮上し、その2年後の20年に政治リスクが浮上する。リスクがクライシスになるかどうか。3年後、5年後のことなので、あらゆる可能性があると思う。しばらくは中国の動向に世界の注目が集まるだろう。(談)

南シナ海判決で軸は「日中」から「日韓」へ

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る