政治・経済

国内唯一のプラズマテレビメーカーだったパナソニックだが、PDP事業の撤退を発表した。市場環境の悪化と巨額投資の失敗が響いた格好だが、PDPは同社のテレビ事業の差別化要因であっただけに、今後のテレビ事業の縮小が懸念される。 (本誌/村田晋一郎)

PDP事業の黒字転換のめどが立たず

津賀一宏社長

津賀一宏社長

 パナソニックが懸案事項となっていたプラズマテレビ事業からの撤退を正式に発表した。2013年12月にプラズマディスプレー(PDP)の生産を終了し、14年3月末にPDP工場の事業活動を停止するという。これで日本に唯一残っていたプラズマテレビの事業者が消えることになる。パナソニックのプラズマテレビは「世界中のPDP技術の結集」と言えるだけに、その喪失を嘆く声は少なくない。 13年度の黒字化にめどをつけたものの、11年度、12年度と2期連続で7500億円を超える最終赤字を計上してきたパナソニックにとって、一刻も早く赤字事業をなくすことが最重要課題。主要赤字5事業の構造改革は中期計画の柱の1つとなっている。

 「競争力のある事業は伸ばし、将来が描けない事業は統廃合するという当たり前のことを徹底していく」(津賀一宏社長)方針。そして、その中でもテレビ事業は主要赤字5事業に据えられており、抜本的な改革を加速することになった。

 パナソニックのテレビ事業は、大型はPDP、中小型は液晶ディスプレー(LCD)で棲み分ける戦略を取ってきたが、特にPDPに傾倒。中村邦夫相談役、大坪文雄特別顧問の社長在任時の肝入りの施策として総額5千億円以上を投資し、兵庫県尼崎市にPDPの大規模拠点工場を整備した。結果的には、これまでの巨額投資失敗のツケが現在のパナソニックのテレビ事業の足を引っ張っている。

 薄型テレビ市場におけるPDPとLCDのシェア争いに関しては、当初はパナソニックの戦略通り、大型はPDP、中小型はLCDという棲み分けがあった。この背景には、原理的にLCDはガラス基板の大型化が難しいとされていたことがある。また、自発光で高コントラスト、動画応答性に優れるといったPDPの特性が評価され、PDPも一定の成長を続けていた。しかし地上デジタル放送への移行によるテレビ需要の先喰いや、コモディティー化に伴う低価格化などにより、薄型テレビ市場の収益性が悪化。液晶テレビメーカーが高付価値製品としてLCDの大型化を進めていった結果、65~80型の大型市場でもLCDが台頭し、PDPの競争力は急速に低下していった。日立製作所、パイオニアなど次々とプラズマテレビ事業から撤退し、日本ではパナソニックだけがプラズマテレビの製造・販売を続けていた。

 LCDとの優劣について、業界関係者は次のように語る。

 「PDPとLCDではそれぞれメリットもデメリットもある。しかし、中小型の普及サイズからスタートしたLCDのほうが市場を広げやすかった。また、家電エコポイント制度などの環境意識も低消費電力で優るLCDに味方した。一方で、動画応答性に優れるPDPが有利とされていた3Dテレビは期待ほど市場が立ち上がらなかった。そして業界が期待している4Kテレビについては、4KでPDPの良さが生きるのは85型以上で、現在LCDで製品化されているサイズはPDPでは4Kの実現が難しい。結果的に4Kへの期待がPDPに引導を渡すことになった」

 5月に中期経営計画を発表した時点では、PDPについて津賀社長は「頑張れるだけ頑張る」と語っていた。この間、PDPの事業再生に向けて、固定費圧縮や大型化、電子黒板への展開などを行ってきたが、需要縮小は止まらなかった。どうやら「これ以上、頑張るのは無理」と判断したようだ。

 津賀社長は撤退の理由を次のように語る。

 「PDP事業は、一時は赤字が1千億円を超える規模にまで膨らんだ。それをさまざまな施策によって200億円規模の赤字にまで絞り込んできた。しかし、その200億円の赤字を黒字に転換する、あるいは赤字を半減する施策が見えないため、撤退という最終決断をした」

白物家電の1つに埋没するテレビ事業

 現在のプラズマテレビの需要と、パナソニックの状況を考えると、プラズマテレビの撤退もやむなしということだろう。今回のプラズマテレビの撤退をはじめとする構造改革によって、15年度までの赤字解消にめどが立つとしており、撤退発表後の株式市場の反応も良好だった。

 一方で、PDPを捨てて、LCD1本に絞れば、パナソニックのテレビ事業の未来が拓けるとは言い切れない。収益悪化の要因だったが、PDPは他社に対する差別化になっていた。また、改善してきたとは言え、シャープやソニーなど、LCD一本に絞ってきたメーカーのテレビ事業も決して楽観視できない。

 今後のテレビ事業について、津賀社長は「パネルは自社開発せずに外部調達し、『白物家電』の1つと位置付けて展開する」と語ったが、LCD一本でテレビ事業を成長させていく具体的な道筋は見えていない。

 最近のテレビ事業の展開として、4Kの液晶テレビはパナソニックも9月に発表したが、東芝やソニー、シャープが先行している。また、一定の評価を受けたスマートテレビについては、旗艦モデルがプラズマテレビだったことを考えると、今後は路線変更が必要になってくる。

 パナソニックは創業100周年となる18年に向けて、BtoBへの構造転換を進めている。13年度中間決算発表の場で津賀社長が示した18年度の事業構成イメージにもそれは表れている。注力する車載事業や住宅事業は12年度の1兆円および1・1兆円から18年度にそれぞれ2兆円まで拡大させる方針。一方で、テレビ事業を含む家電事業は12年度の1・9兆円に対して18年度は2兆円を見込むとしており、6年後もほぼ現状維持ということになる。

 家電事業そのものが大きな成長を期待されていない状況で、有効な手を打てなければ、テレビが白物家電の中に埋没してしまう可能性もある。テレビの存在感はますます薄くなりそうだ。

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