文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

高齢者の実態を知らない企業と技術者が犯す過ちとは

 高齢者市場にさまざまな企業が切り込んでいくが、相変わらず実態を知らないものを送り出している。

 日本郵政と米IBM、米アップルは提携し、高齢者向けにiPadを提供して生活をサポートする新事業を行うと発表した。

 2020年までに国内の500万人への提供を目指すというから驚きだ。

 薬を飲む時間のアラート機能や、買い物支援などの高齢者向け機能を搭載するのだという。

 少し前には生存確認するための電動ポットが話題になった。

 遠隔地に住む高齢の親が最低1日1回はお湯を使うだろうから、そのスイッチが入ると、子どものところにメールが届くというような仕組みだった。

 これはすぐに使われなくなった。

 最大の理由は高齢の親は夜になると電源を抜いてしまうので、連続的な監視にならないということ。

 それより、親にしてみれば、いちいち子どもに生存確認などしてほしくないというのが本音である。

 心配なら電話をしてこいということだろう。

 電子フォトフレームも一時期はやった。

 これは液晶画面を親のところに置いておいて、子どもがメールで画像を送ると、それを親が見て楽しむというものだった。

 このメカの設定の面倒なことといったらない。少なくとも高齢の親はまず使いこなせない。

 子どもがせっかく設定しても、親は夜、電気代がもったいないと言って、コンセントを抜いてしまい、設定が消えてしまうということになった。

 しかし、それより画像を送る子どものほうも飽きてしまい、次第にお互いに使わなくなってしまうという代物だった。

 携帯を親が開くと子どもの携帯へメールが届くというもの、テレビの前にセンサーがあって、そこの前を通るとやはり子どもにメールが届くというメカもあった。

 いずれも親が携帯の電源を使うときしか入れないとか、普段は持って歩かないという根本的な高齢者の行動を理解していない結果、本格的には使われなかった。

 ここから分かることは、高齢者向けのさまざまなメカ、iPadにしても、まず75歳を超えてくれば完璧に使いこなすことは難しくなるのではないだろうか。

 例えばiPadを指でタッチして操作ということができない。

 健康な高齢者という前提なのかもしれないが、それ自体がおかしい。

 テレビのリモコンも相変わらず機能が多過ぎて、高齢者は地上波からBSに切り替える操作が難しくなる。

 リモコンの文字が小さいとか押しにくいという、そんなことすら改良されていないのだから、どう考えてもiPadを高齢者にばらまいて、使いこなせるわけがない。

ロボットによる介護は高齢者を幸福にするか

 介護ロボットがいろいろ話題になってきているが、排泄の介護などは人間に近いような動作でやってくれるなら、遠慮せずに頼みやすいかもしれない。

 しかし、ロボットを使って話し相手をさせるというのは、あまりに安易でなさけない発想ではないだろうか。

 以前からアザラシの癒やし系のロボットはあるが、あの程度の反応でずっと楽しむとは思えない。

 間違ってはいけないのは、高齢者を取材すると、うれしそうにしなければいけないと、笑顔で演じてしまう危険があるから、それが本音と思ってはいけないのだ。

 ロボットより、むしろ介護施設に犬や猫を飼うほうがどれほど、癒やしの効果があるだろうか。

 さらに自分が飼っていた犬と入所できれば、癒やしのためのロボットなど全く必要ないだろう。

 以前から提唱しているが、高齢者自身がいじるものであるなら、スイッチは3つまで、それもタッチとか長押しとか指の動作に複雑なものを要求しないことが重要だ。

 基本的には、IT系のメカが使われているのを高齢者に意識させないことこそ、本来の姿である。

 昔の電話は電話機を持ち上げれば話すことができた。

 iPhoneはどうだろう、まずは指でスワイプしなければいけない、既にそこで高齢者にとっては電話機としては使用できない。

 メカやセンサーで固めて、高齢者を監視しようというのは、必ずや失敗する。

 子どもは直接親に会うべきだろうし、企業はメカで固めるのではなく、社員が安心して親に会いに行ける時間を与えるほうが、よほど人間的であり、それこそが本当の高齢者のための考えだ。

 

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