政治・経済

経営者として、作家・辻井喬として2つの顔を生きた堤清二さん。文化の香り高いセゾングループを率い一時代を築いた。その薫陶を受けたクレディセゾンの林野宏社長が語る文化人経営者の素顔とは。

高度経済成長時代の西武百貨店とセゾングループ

(りんの・ひろし)1942年京都府生まれ。65年埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店(現・そごう・西武)入社。その後、クレディセゾンに。常務、専務を経て2000年社長に就任。08年まで経済同友会副代表幹事を務めるなど、公職も多い。

(りんの・ひろし)1942年京都府生まれ。65年埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店(現・そごう・西武)入社。その後、クレディセゾンに。常務、専務を経て2000年社長に就任。08年まで経済同友会副代表幹事を務めるなど、公職も多い。

 私は、1965年に西武百貨店に入社したのですが、実は証券会社志望でした。しかし当時は証券不況でね、それで、どうせなら伸びる企業に行かなきゃ面白くないと思ったんです。

 高度経済成長の時代で大衆消費も盛り上がっていましたから百貨店は面白いと思っていましたね。中でも、どこが勝つのかと考えた時に、若い社長で輝いていた堤さんの西武百貨店がいいんじゃないかと思ったわけです。ただ、当時は池袋の下駄ばき百貨店なんて言われていましてね(笑)。

 だいたい池袋の街のイメージが悪かった。新宿、渋谷に比べて汚い、怖い、遅れているそんなイメージ。そういった逆境のせいか、当時の西武百貨店には、会社全体に反骨精神があって老舗の百貨店を追撃しようという空気が充満していましたよ。私は、22歳で入社して、38歳にクレディセゾンに移りましたが、百貨店では人事やマーケティングなんかをやっていましたから堤さんとダイレクトに仕事をする機会を得たわけです。

 「FM放送が自由化するから準備しろ」とか、「石油の備蓄をやるぞ」とか、仕事が百貨店の枠には収まらない。その中で、次から次へテーマを与えられたのが若い自分にとっての財産になっていますね。

 百貨店業界というのは老舗が多いですから冒険しないんですよ。そんな中で冒険をする。牛丼の吉野家を買うなんて考えられませんからね。そういって、タブーを破り、常識にとらわれないことで、セゾングループをつくっていったんです。

 池袋の田舎の百貨店が老舗百貨店を追撃するためにとったのが、ブランド、文化事業、そして多角化の3つの戦略でした。堤さんの妹の邦子さんがパリにいて社交界に出入りしていましたから、当時最先端のブランドが池袋にやって来たわけです。エルメスやサンローラン、ニットの魔術師ミッソーニもね。貴金属のヴァン クリーフ&アーペルなんて貴族しか買えないものまで日本に持ってきましたから。

 結局、儲からなかったんですが、ヨーロッパのラグジュアリー文化を日本に広める役割を果たしましたね。今でこそ日本の百貨店のどこでも、欧州の高級ブランドは買えますが、当時は、池袋の西武で買うか、パリの本店で買うしかなったんです。ただ、日本のお客さんが知らない(笑)。早過ぎたんですね。

革命的であったがゆえの堤清二氏の明と暗

 堤さんがセゾン文化を生み出した背景には毛沢東の『矛盾論』にも影響を受けたんではないでしょうか。相矛盾するものを掛け合わせるんですよ。百貨店と吉野家、エルメスと池袋、無印良品もそうですね、無印なのに良品、ノーブランドをブランドに変えたわけですから。

 そこには、軍国主義の影響を受けて、戦後世の中が一変した経験が強くあるでしょうね。化学反応を起こそうとしていたんだと思います。

 当然、働いている人の意識も変えようと思われていました。価値観の化学反応を起こそうと他の業界の人を積極的に採用、今でいうダイバーシティを行っていました。そうして芥川賞を受賞した作家や多くのクリエーターを輩出し、セゾンの文化が花開いたのだと考えています。

 堤さんはよく「人のまねをするな」と仰っていましたね。誰もやっていないものを自分で考えるんだということです。当時は、ご自身も経営者と作家の2足のわらじを履いていましたから、仕事を終えて経営者との会食にはじまり、政治家の会に顔をだし、最後にやっと文化人との会合です。それから執筆ですから、そりゃ涙ぐましい努力ですよ。

 一方で、経営という点では徐々にうまくいかなくなっていきました。堤さんは、「戦略が正しければ誰が実行してもうまくいくんだ」という考えを持っていらっしゃったわけです。9%の経済成長率であった高度成長の時代であればそれでもかまわなかったのですが、それも75年まで、その後は94年まで4%程度の成長率になっていましたからね。4%では誰がやってもうまくいくことはない、適材適所の経営者の配置が必要になっていたのです。実際に、現場で人材のミスマッチが起こっていました。

 また、割と早い段階で消費文化の終焉が見えていたにもかかわらず、転換がうまくいかなかったこともあります。「これからは“質販店”の時代だ」と仰って、ものを離れて無形の価値に消費が向かうと考えていました。コンセプトは正しいんですが、現場の人は理解できなかったんですね。堤さんという人は革新的であるがゆえに成功し、革新的であるがゆえに組織から乖離してしまったんですよ。

普遍化されて根付いた堤清二氏の感性

「セゾン文化」という企業文化をつくりあげた堤清二氏(1972年撮影)

「セゾン文化」という企業文化をつくりあげた堤清二氏(1972年撮影)

 堤さんのすごさは、今も世の中に残っているところではないでしょうか。例えば、「パルコ」という名前を付けることによって、専門店で構成されたショッピングセンターの名前は、だいたいが3文字のカタカナになっています。「アトレ」も「ルミネ」もそうですね。

 87年にできたJ-WAVEも、J-POPとか、Jリーグの走りですからね。最初、担当だった私はFM24(トゥエンティーフォー)という名前を提案したところ、名前だけは考えさせてくれって言われたんですよ。そうして、生まれたのがJ-WAVE。今も堤さんの感性は普遍化して根付いているんです。

 経営から離れてからは、執筆や講演活動を行っていました。著書は116冊にも上りますし、賞も文学賞など13取っています。私は、晩年も2カ月に一度報告がてらお会いさせてもらっていました。

 堤さんは有形、無形の財産を残されていますから、それを発展させて伝えていくことが、われわれの仕事だと思っています。

 私自身も影響を受けたひとりとして、ただ経営だけしていればいいんだということは考えないですね。芸術、文化に対してサポートしていく、災害が起これば真っ先にサポートする。セゾンの文化に共鳴してくださる方がまだ多くいらっしゃいますので、それも遺産だと感じています。「流行」と「本質」をそらさず、情報発信を続けることが、経営者にとって大事なことではないでしょうかね。

 
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