政治・経済

住民投票で否決された「大阪都構想」が大阪府知事、大阪市長選で再び争点に上った。錦の御旗を掲げる大阪維新の会に真っ向から反対する自民党を軸とする非維新陣営の対決に、有権者はどんな審判を下したのか。「政界引退」宣言した橋下大阪市長の今後は。 文=ジャーナリスト/宮城健一

大阪再生に向け「都構想」再び

20151222OSAKA_P01  11月5日に告示された大阪府知事選で、立候補したのは自民党推薦の前府議で公認会計士の栗原貴子氏(53歳)と大阪維新の会公認で現知事の松井一郎氏(51歳)、そして元府立高校教諭、美馬幸則氏(65歳)の3人。

 今回のダブル選挙で最も注目されたのは、やはり「都構想」の争点となる大阪市だ。8日の告示での立候補者は、大阪維新の会公認で元衆院議員の吉村洋文氏(40歳)と事実上の一騎打ちとなる自民党推薦で無所属の元大阪市議、柳本顕氏(41歳)を軸に民主、共産党まで連携しアンチ維新で固まる。公明党は「自主投票」で臨んだ。この他、無所属で元大阪市北区長の中川暢三氏(59歳)と元会社員、高尾英尚氏(33歳)の4人が立候補した。

 「市長選では橋下市長を私がしっかりと乗り越えていきます」と、告示日の8日の出陣式で吉村候補ははっきりこう言い切った。優等生タイプの吉村氏は、橋下氏の信頼も厚い。演説や対話集会でも前回は「急ぎ過ぎだ」との批判を考慮してか、ダブル選では3年程度かけてじっくり市民の意見を聞きながら設計図を書き換えるとアピールした。

 若者への訴えも積極的だった。橋下氏は、中央区の若者の街“アメリカ村”まで乗り込んで「役所が作った多額の借金をこれから50年、皆さんが払わないといけない」と橋下節を披露。知名度のない吉村氏に比べて橋下氏の存在感が圧倒的だ。

 これに対して柳本氏は「大阪を破壊するだけの改革は止めるべき。われわれは創造的な改革を目指す」と、第一声で訴えた。自民党も政権中央と近いといわれる柳本氏を演出するためか、今度ばかりは14日には大阪駅前で谷垣禎一幹事長、西区で石破茂地方創生相が商店街を回るなど大物が相次いで大阪入り。「徹底的に戦い、必ず勝つ」と維新への闘争心をむき出しにした。

 2011年11月の大阪市長選では、当時大阪府知事だった橋下氏が翌年2月の知事選を繰り上げて大阪都構想を錦の御旗に出馬した。今回のダブル選挙は2度目の選挙となる。当時の〝維新旋風”の追い風に乗り現在の松井知事、橋下市長の体制が確立。各種の大阪の改革に取り組んだ。

 しかし、最大のテーマだった都構想は今年5月の大阪市民の住民投票で「NO」の審判が下された。この結果、自民党が中心となり非維新が提唱したのが、大阪戦略調整会議(大阪会議)の設置で、選挙で全面対決の構図にもなった。

自民の「大阪会議」はポンコツ

 都構想は24区ある大阪市を再編し特別区を設置。市が行ってきた広域行政は府に任せ、特別区は教育、福祉などの身近な分野を受け持ち、府との二重行政を解消しようというもの。

 これに対して「大阪会議」は府と政令都市の大阪市、堺市の首長と議員が二重行政の解消や成長戦略などを話し合いで制度設計する。だが、この7月頃から運営をめぐるゴタゴタで会議は進まず事態収拾のめどが立っていない。これを称して橋下氏は「ポンコツだ」と酷評している。

 ただ「都構想」を進める最大のハードルは、このダブル選での「2勝」が絶対の条件であること。そして設計図が出来上がっても住民投票には府議会と市議会の承認が必要となる。大阪維新の会は両議会とも過半数を割っており、他の会派の同意が必要となってくる。ここで公明党の動向がポイントになったが、今後の国政選挙などを勘案し「自主投票」の立場をとった。

 再度の挑戦となる「大阪都構想」について、橋下市長の評価を含め近畿の知事・政令市長の評価は分かれた。関西広域連合長の井戸敏三・兵庫県知事は「(住民投票の)半年後に、再び是非を問うことには違和感がある」と語り、竹山修身・堺市長は「大阪は維新政治と決別しなければいけない」と鮮明に反対の立場。また、久元喜造・神戸市長は「都構想が選挙戦の論点、特段の違和感はない」と語った。

 ただ、現状を考えれば、大阪のことばかり考えていては東京に対抗できないとの考えから、大阪を越えたオール関西のリーダーを求める声は多い。

 また、橋下氏の4年間の改革への評価はどうだったのか。「政界引退」を公言した橋下氏だが、来年の参院選などの出馬の声もある。「私人になれば行動は自由だ」と本人は相変わらず含みのある言葉を残す。一時に比べ人気に陰りがあるとはいえ、ある新聞が実施した世論調査では不支持は36%で、支持は44%。支持層のうち、90%は橋下氏が後継指名した吉村氏を支持した。

 果たして、11月22日の投票で、有権者が下した最後の審判は、知事選、市長選ともに維新の会の勝利に終わった。都構想再挑戦の絶対条件をまずはクリアした形で、新たな設計図を練り直して再び住民からその是非を問うことになる可能性が極めて高くなった。橋下氏の去就も含めて、今後も波乱が続きそうだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る