政治・経済

日本生命の三井生命買収 国内トップの座を奪還し、次の視線は海外に

 一度は第一生命保険に国内生保首位の座を奪われた日本生命保険が、同8位の三井生命保険を子会社化し、再びトップに返り咲くことになった。既に国内市場は縮小が避けられない状況の中、それでもナンバーワンの地位堅持にこだわった形だ。一方、成長機会を求めて、グローバル市場においてもM&A合戦が激化する見通しだ。

2015年3月期の決算で、保険料等収入で戦後初めて首位の座を明け渡した日生。同社の筒井義信社長は、国内の順位争いには関心がない姿勢を見せていたが、やはり相応の焦りがあったのではないか、という見立てがもっぱらだ。生命保険業界において、優秀な人材の獲得や、顧客の安心感という点で、1位と2位ではその差が非常に大きいためだ。

 建設、損害保険などの分野では既に三井住友グループが誕生していることもあり、三井生命の統合相手は住友生命になるのではないかとも噂されていた。また、経営再建中の三井生命に対して、住友生命は資金や人材の面で協力してきたという経緯がある。それだけに日生による買収は、関係者の間では大きなサプライズだったようだ。ただ、将来的には日生が住友生命も取り込んで、傘下で三井住友生命を誕生させるのではないかとの観測も出ている。

 一方、日生は10月末、豪銀行大手ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)傘下の生保事業を買収することで合意するなど、海外進出も加速させている。三井生命の買収と同時進行で大型M&Aを進める底力に対しては、同業者も舌を巻いているという。

 日生にとって、経営権を握る海外生保の買収は初めてのケースで、これを橋頭堡に海外進出を加速させると見られている。国内の保険市場は少子高齢化の影響などで縮小するのが必至。このため、資金的な体力がある日生は、海外でさらなる買収攻勢を進めることになりそうだ。次の買収先候補としては、世界最大の保険市場である米国のユナム・グループの名が挙がっている。

 明治安田生命がスタンコープ・フィナンシャル・グループ、住友生命保険がシメトラ・ファイナンシャルの買収を決めるなど、競合他社も続々と米国進出を進めている。生保のグローバルな業界再編が、16年以降も続くのは確実だ。

出光興産・昭和シェルの経営統合 業界全体に波及する官主導の業界再編

 石油元売り業界第2位の出光興産と、同5位の昭和シェル石油による経営統合が進んでいる。早ければ2016年10月にも新会社が誕生する見込みで、国内ではJXホールディングスの誕生に次ぐ大再編となる。再編と統合を繰り返してきた石油業界だが、来年以降、さらなる動きが加速しそうな情勢だ。

経済産業省主導で統合と再編が進む石油業界。2010年には新日本石油と新日鉱ホールディングスが経営統合し、JXホールディングスが誕生。元売り国内2位の出光興産の出方が注目されていたが、今年7月、同5位の昭和シェル石油と経営統合に向けた協議を開始することを、正式に発表した。

 出光は小説のモデルにもなった創業者の出光佐三氏が、裸一貫から築き上げた独立色の強い企業だ。経営統合発表の数カ月前、月岡隆社長は本誌のインタビューに対し、「事業部門がそれぞれ単独で生き残れるように布石を打ってきた」と述べ、家族的な一体感が強みであることを強調していた。統合が発表されてからは、企業文化の違いなどを危惧する声が双方の関係者からも挙がったが、この11月には統合検討委員会と分科会のキックオフミーティングを開催。統合後の具体的な体制について、話し合いが行われている。

 企業カラーの違う両社が決断に踏み切らざるを得なかったほど、石油元売りを取り巻く環境は厳しい。人口減少などに起因する国内石油需要の減少、設備過剰による過当競争、加えて昨今の原油安が加わり、収益を確保するのが難しい状況になっている。経産省は、国内製油所の原油処理能力を16年度末までに、全体で1割削減する方針を打ち出しており、今後もさらなる業界再編と統合を推進していく考え。電力・ガスの小売り自由化や、新興国市場などにおける国際競争の激化を背景に、欧米の巨大エネルギー企業に対抗できる勢力を生み出したいとの思惑が同省にはある。

 来年以降は、JXホールディングスと出光・昭和シェル連合に取り残される形となったコスモエネルギーホールディングス、東燃ゼネラルといった企業がどう動くかにも関心が集まる。コスモエネルギーホールディングスの場合、15年10月に石油・ガス開発、製油所運営、石油製品販売の3事業会社を傘下に置く持ち株会社を設立したばかり。これにより、他社との合併・統合が進めやすくなりそうだ。東燃ゼネラルにもJXホールディングスとの統合話が浮上している。

ABインベブのSABミラー買収 ビール業界最大勢力の次のターゲットは日本か

 ビール世界最大手のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)が2位の英SABミラーを買収すると発表した。これにより、世界で3割以上のシェアを握ることになり、食品関連会社のM&Aとしては、過去最大の規模となる見通し。買収額は710億ポンド(約13兆円)で、2016年には買収が完了する予定となっている。

 既にグローバル競争が本格化しているビール業界だが、次にM&Aのターゲットとなるのは日本のビール会社ともいわれている。そこで、アサヒグループホールディングス、キリンホールディングス、サッポロホールディングス、サントリーホールディングスの大手4社の動きが気になるところだが、10年のキリンとサントリーの経営統合交渉の破談以降、国内における大型再編は進んでおらず、ABインベブ・SABミラー連合に対抗できる勢力は生まれていない。

 また、外資による日本企業のM&Aは、日本の複雑な酒税の仕組みがこれまでは障壁となっていたが、政府は来年度の税制改正に向け、ビール、発泡酒、第3のビールの酒税1本化に決着をつける考え。これにより、外資の参入が加速するとの見方も出ている。

日経のFT買収 メディアにも押し寄せるグローバル化の波

 日本のメディアにも世界的再編の波が押し寄せた。

 日本経済新聞社は7月、英フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収すると発表。これにより、8億4400万ポンド(約1600億円)でFTの全株式を取得し、経済メディアとしては世界最多の読者数を有する連合が誕生する。国内では圧倒的な知名度と影響力を誇る日経だが、世界的にはFTのほうが格上。それだけに、今回の買収に関しては、メディア関係者のみならず、多くの人々に驚きを持って受け止められた。

 背景にあるのは、報道メディアの世界的なデジタル化の流れだ。デジタルメディアの読者数はFTが約50万人、日経が約43万人とその差は拮抗している。また、メディアとしての両紙の主張は似通っている部分が多く、親和性は高いといわれる。

 ただ、クオリティーの高いグローバルメディアが生まれる期待感の一方で、日英両国のジャーナリズムに対するスタンスや取材手法の違い、経営陣の編集への介入などに対する懸念もある。企業人事などに関して、確度が低くても書いてしまう“飛ばし記事”が多いといわれる日系だが、その文化がFTにも影響するのだろうか。

成熟業界はおおむね4社で決着 市場構造に伴い再編が進む――渡部恒郎(日本M&Aセンター 営業本部 業界再編支援室長)

 日本の産業は、特に成熟した業界であれば、だいたい4社で勝負が決している。4番手と5番手の収益の差が大きく、2~3番手と5番手の利益の絶対額が10倍以上違う業界は多い。10倍の利益の差があると、例えば100億円の利益の会社と10億円の利益の会社とでは、3~4年後に打てる戦略が変わってくる。それだけに4番手以内に入ることの意味は大きい。

 再編と言うとただ規模が大きくなっているだけと思われがちだが、規模が大きくなるだけでは、M&Aの買い手にも売り手にもメリットはない。規模を大きくすることにより、ビジネスのレベルを上げたり、新しいビジネスを創出したりするために統合は行われている。

 業界の中でのシェアは非常に重要だ。上位10社のシェアが50%になると、地域でトップクラスの中小・中堅企業の売却が進む時期。70%になると、大手10社間でM&Aが進むと言われている。例えばドラッグストアやホームセンターなどは現在、上位10社のシェアが約50%だが、県レベルで1位の会社が売却に動き、大手10社に組み込まれている。上位10社のシェアが70%ぐらいになると、7位と8位といった統合が始まる。

 現在、業界再編のM&Aが特に多いのは、調剤薬局業界、IT業界、住宅業界の3つ。調剤薬局業界は1位のアインファーマシーズのシェアが3%程度しかなく、上位10社で14%。国の規制もあり、これが50%になるまで、ものすごい勢いで統合が進むと見られる。IT業界は業界の移り変わりも早いので、他社と一緒になってサービスを進化させていく統合が進む。住宅業界は、これまでは高品質で高価格の住宅を提供するメーカーが大手だったが、2013年に準大手6社が統合して「飯田グループホールディングス」が誕生した。低価格の住宅供給メーカーが大手の一角を占め、業界の構図が崩れるきっかけになったため、今後も再編のM&Aが増えてくると思う。(談)

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