政治・経済

東芝不適切会計問題――世間を驚愕させた名門企業の不祥事

責任が問われる歴代3社長。左から西田厚聰氏、田中久雄氏、佐々木則夫氏

責任が問われる歴代3社長。左から西田厚聰氏、田中久雄氏、佐々木則夫氏

 東芝が過去5年間に渡って利益を過大に計上する「不適切」な会計処理が明るみになった。その背景には、利益至上主義と不適切会計を要求する「チャレンジ」に逆らえない企業風土がある。東芝は経営陣を刷新し再建をスタート。同時に不正を主導した旧経営陣の責任を追及する声も挙がっている。

事の発端は4月3日の東芝の発表。2013年度の一部インフラ関連の工事進行基準に係る会計処理について調査を必要とする事項が判明したという。ここで東芝は特別調査委員会を立ち上げ、事実関係の調査を始めた。そして、さらに調査を要することから10年度までさかのぼって全社的・網羅的に調査を進めるため、5月には第三者委員会による調査を開始した。  第三者委員会の報告書は7月20日、東芝に提出。調査報告書によると、09年3月期から14年4~12月期までの累計で、利益の過大計上が1562億円に上った。そして経営トップの関与に基づき、組織的に「不適切会計」が実行・継続されたという。組織的な不正は、西田厚聰相談役、佐々木則夫副会長、田中久雄社長ら3代の社長が高い収益目標を達成するため、「社長月例」と呼ばれる定例会議で、「チャレンジ」と称して目標実現を事業部門に強く迫ったためであると指摘。歴代社長の利益至上主義の下、事業部門は目標必達のプレッシャーを強く受けていた結果、不正が横行したという。こうしたチャレンジを容認する企業風土が問題視された。

 報告書の内容を受けて、報告書提出の翌日、田中社長、佐々木副会長ら7人の取締役と西田相談役が辞任。室町正志会長が社長に就任し、再建に当たることになった。退任会見で田中社長は、「不正を指示した認識はない」としながらも、個々の案件について「調査報告書のとおり」とし、その内容は認めた格好。

 とはいえ、歴代3社長は退任後も社用車を使用するなどの待遇は変わらず、本人や周囲の姿勢が疑問視されていた。9月には一部株主からの要求に応える形で役員責任調査委員会を発足。その調査に基づき、11月には3人の歴代社長と2人の財務担当役員の計5人の旧経営陣に対して3億円の損害賠償を求めて提訴した。ただしこの3億円の請求額が少な過ぎるという声があり、東芝の企業風土が変わっていないとの見方がある。今後は個人株主が東芝と旧役員を相手に損害賠償請求に乗り出す動きもある。

独VW排ガス不正――地に堕ちたグローバルブランド

 トヨタ自動車と世界販売台数ナンバーワンの地位を競っていた独フォルクスワーゲン(VW)が思わぬ形で躓いた。同社が2008年以降に販売したディーゼルエンジン搭載車で、厳しい排ガス基準をクリアするために、排ガスを低減するソフトウエアを検査中のみ採用していたことが発覚。欧州を中心に1100万台がリコールの対象となった。

 米環境保護局がVWの排ガス不正を公表し、同社がそれを認めたのは今年9月。だが、それ以前から外部の部品メーカーや社内の技術者などから不正を指摘する声が挙がっていたことも明らかになった。さらに、ガソリン車のCO2排出量に関しても不正があったことも判明し、世界に冠たるVWのブランドは大きく傷付いた。

 既に販売面でも影響が出ており、ドイツ国内における2015年10月のVWの新車販売台数は前年同月比0・7%減となる6万5千台。米国市場においても大半のメーカーが前年同月比2桁増を達成する中で、同社はわずか0・2%増にとどまっている。日本市場では対象となったディーゼル車の販売は行われていないが、VW離れが進む可能性は否定できない。

 VWが不正に手を染めた要因として指摘されているのが、行き過ぎた拡大路線だ。同社は07年時点で約570万台だった世界販売台数を18年までに1千万台にする計画を推進。M&Aの推進や中国市場をはじめとする新興市場への積極的な投資などを行い、生産能力も大幅に増強。14年時点で既に1千万台の販売目標をクリアした。こうした無理な拡大路線が、コンプライアンス順守の意識を麻痺させたという見方だ。

 無謀な拡大路線の悪影響という点で思い出されるのが、09年から10年にかけて発生したトヨタの大規模リコール問題である。当時、米ゼネラルモーターズ(GM)と世界トップの座を競っていたトヨタも、アクセルペダルの不具合などが原因で1千万台規模のリコールと自主改修を行ったが、VWの場合は意図的、かつ長期にわたる不正という点で、トヨタのケースよりダメージが尾を引くことが予想される。

 VWは不正発覚直後に、マルティン・ヴィンターコーンCEOが辞任。新たな体制の下でこれまでの路線を修正する意向を発表しているが、最大180億ドルに上るといわれる米当局からの制裁金やリコール費用などを考慮すると、そうせざるを得ない状況になっている。

タカタ製エアバッグ破裂問題 危機に陥る日本のモノづくり

 2014年に発覚し、今年も尾を引き続けたタカタのエアバッグ問題。自動車の衝突などの際「インフレーター」と呼ばれる火薬を詰めた容器が欠損し金属片が飛散、死者が出るケースも発生したことで、日本の代表的な自動車部品メーカーとしての地位は大きく揺らいだ。

 リコールの対象は、最終的に世界中で6千万台規模に達するとも見られている。この問題が深刻なのは、同社製エアバッグを搭載した完成車メーカーすべてが対応に追われるという点。タカタの世界シェアは第2位で、日本の自動車メーカーの大半が主要顧客だ。主要取引先のホンダが、開発中の車種にタカタ製エアバッグの採用を取りやめると発表。国内では同社製エアバッグが走行中に異常破裂するケースが既に6例報告されており、11月には日産車でエアバッグの欠陥が原因と断定された負傷例も報道された。

 膨らみ続けるリコール費用も考えると、もはやタカタの経営の根幹を揺るがす事態となっている。

東洋ゴムの偽装問題――暴かれた会社ぐるみの不正

 東洋ゴム工業は2015年に2度にわたって製品の性能データ改ざんが明らかとなった。まず3月には、建築物の免震機構に用いられているゴム製部品について、不良品の出荷や性能データの偽装が発覚した。日本国内の自治体の庁舎・マンション・病院で使用されており、棟数は55に及んでいる。

 また、10月には自社の調査により、05年以降に製造し、国内18社に納入した189種類、8万7804個の一般産業用の防振ゴムでも不正が確認されたと発表した。製品は電車や船舶などに使われている。

 製品の製造は免震ゴム、防振ゴムともに子会社の東洋ゴム加工品の明石工場で行われていた。納入先に確約した規格値に満たない際にデータを改ざんして報告したり、実際に試験を行っていない際に過去の試験データを転記したりしていたという。

 免震ゴムについて明石工場ではデータ改ざんの方法が引き継がれており、引き継いだ後任が上司に報告。14年8月には経営陣にも認識されていたが、その後の対応は後手に回った。

 これを受けて、山本卓司社長ら経営陣の引責辞任を発表したが、再建策を講じている途上に防振ゴムの偽装が発覚。社外調査チームの報告は、会社ぐるみの不正で、不祥事発生に対する風土が根付いていると断じた。風土の改革には時間を要すると見られる。

横浜の傾斜マンション問題――建設業界全体の体質が問題か

 三井不動産レジデンシャルが2006年に分譲した横浜市のマンションで傾斜が見つかり、その原因が基礎工事における杭打ち作業の不備にあることが発覚した。

 工事を担当したのは、施工会社・三井住友建設の2次下請けに当たる旭化成建材。基礎部分に杭を打ち込む作業で、52本の杭のうち、6本が強固な地盤である支持層に到達していなかった。また、2本は支持層に達しているものの打ち込みが不十分であることが分かった。さらに電流計や流量計など作業データの転用や改変も判明した。

 事件発覚後、旭化成建材は過去10年の杭打ち工事案件を調査。その結果、11月13日時点で確認済みの物件2376件のうち266件のデータ改ざんが判明した。また、未確認の物件が546件と施工データがない不明物件が118件残っている。

 さらにこのデータ偽装問題は同業他社にも拡大している。杭打ち業界大手のジャパンパイルでも独自調査により過去5年間の約1千件の施工に対して18件のデータ流用があったことを発表。杭打ち工事そのものへの不信感が高まるともに業界全体の構造的問題を疑問視する声も挙がってきている。

個人情報流出――相次ぐ不手際でマイナンバー導入に不安の声

 インターネット社会の進展に伴い、ネット上のセキュリティーの問題が深刻化している。その1つが個人情報の流出問題であり、その後の影響もより大きくなっている。

 ベネッセは2015年3月期の連結決算で純損失が107億円となり、1995年の上場以来初の赤字となった。14年7月に発覚した3504万件の個人情報流出により、お詫びとして提供した商品券の費用やセキュリティー対策で206億円の特別損失を計上。さらに不信感を持った会員の解約が響いた。

 また、9月には通販大手の千趣会が購入者の個人情報13万件が流出した可能性があることを発表した。子会社のサイトに不正アクセスがあったという。

 一企業だけでなく、公的機関でも個人情報流出が発生している。5月には日本年金機構の年金情報管理システムサーバが外部からの不正アクセスによって、年金加入者の個人情報約125万件が流出した。

 特に年金機構の問題は、日本の国家機関の情報が流出したという意味で問題はより深刻だ。16年からマイナンバーが始まるが、その信用性が疑われかねない。マイナンバーは国が進めるものだが、実際の運用は企業任せになっている。仮にマイナンバーで情報流出が発生した場合、国と企業のどちらが悪いのか、責任の所在が曖昧になる可能性もある。

不祥事の根源は企業風土 最後は人のモラルの問題――中田匡紀(イーブレイン代表取締役)

 今年起こった企業の不祥事は、大規模なものが多かった。組織ぐるみで会社そのものが不正を犯してしまっている。これまでもいろんな不祥事があったが、今年起こった不祥事は、比較的経営に近い層が意図的にやっているのが大きな特徴と言える。

 また、東芝に代表される会計絡みの不祥事は、企業の利益追求が悪い意味での動機になっている。利益追求は株式会社の場合は当然だが、株主からのプレッシャーに負けてしまい、優先順位が逆転している。正しい優先順位は、まずは社会、次に顧客、そしてチームつまり会社、最後に個人。これが本来あるべき姿だが、現実は個人や会社の利益が最優先になっている。

 全く関係ないように見える個々の不祥事の根幹にある原因はすべて組織風土の問題だ。

 例えば、ベネッセでは情報漏えいに関する甘い風土があった。ベネッセおよび関連会社ではISMSやプライバシーマークなどのセキュリティスタンダードを取得していたが、結局はこれを破っても大丈夫という風土が顧客情報流出につながった。東芝の場合は、J-SOXを導入しながら全く機能しなかった。「チャレンジ」を許容する風土、あるいは諦める風土のためだ。

 いくら良い仕組みや制度をつくっても、最終的には人が守らなければ形骸化する。要は人のモラルの問題で、仕組みや制度を最後に守るのも人なら、最後に破るのも人だ。そして仕組みや制度を人に守らせるために必要なのが良い組織風土である。風土が崩れている企業が不祥事を起こしているのが実態だ。

 不正会計やデータ改ざん、情報漏えいといった不祥事は、大なり小なり毎年起こっている。大規模な事件が注目されているにすぎない。根源に組織風土がある以上、これからも不祥事は起こり続ける。ただし、「一転び即倒産」でコンプライアンス上の不祥事は企業の存続を危うくする。これを防ぐためには、いかに良い風土を形成できるかにかかっている。(談)

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