マネジメント

三井のドンと元大物次官に共通するのは、小山五郎氏には絵画、長岡實氏には泉鏡花の研究といった玄人はだしの趣味をもっていること。ただ、この2人の趣味がその人間的な器の形成に大きな役割を果たしてきたのは間違いないようだ。(『経済界』1993年10月12日号)

衣食足りて礼節を失う

写真右・小山五郎(こやま・ごろう)〈1909~2006〉群馬県出身。1932年東京帝国大学卒業後、三井銀行入行。社長を経て会長。三井グループのドンとして活躍し、三越岡田社長解任では、事件の幕引き役も務めた。 写真左・長岡實(ながおか・みのる)〈1924~〉東京生まれ。1947年東京帝国大学法学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。主計局長を経て、事務次官就任。退官後もJTの初代社長などを務めるなど、現在も活躍している。

写真右・小山五郎(こやま・ごろう)〈1909~2006〉群馬県出身。1932年東京帝国大学卒業後、三井銀行入行。社長を経て会長。三井グループのドンとして活躍し、三越岡田社長解任では、事件の幕引き役も務めた。
写真左・長岡實(ながおか・みのる)〈1924~〉東京生まれ。1947年東京帝国大学法学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。主計局長を経て、事務次官就任。退官後もJTの初代社長などを務めるなど、現在も活躍している。

―― 趣味を持っていたことは人生に影響しましたか。

小山 本当に、絵という趣味を持っていたことでどのくらい救われたか分かりません。例えば、高度成長時代に、よく絵など描いている暇がありますねと言われたんですが、私は忙しいからこそ描くんです、と答えていたんです。神様は1日に24時間しか人間に与えてくれない。要は配分の問題であって、ずっと仕事をし続けるなんて、できっこないでしょう。つまり、“逃げ込む場所”というものは、その配分次第で24時間の中で2時間でも3時間でも取ることができるのであり、それができないようでは本当の仕事もできませんよ。

長岡 今の小山さんの気持ちと同じだと思いますが、私はこの頃、若い連中に「人生マイナス仕事イコールゼロという人間になるな」と言っているのです。もちろん仕事は一生懸命やってもらわなくてはなりませんが、仕事をのぞいたら何もない人間にはなるなということなんです。

 私は、東証の入所式の時に、新人を集めて、昔の日本人と今の日本人は変わったのではないかという話をしたんです。かつて、ザビエルが日本へ来て、ポルトガル人は日本人が好きになりました。その後時を重ねて、戦前、フランスの詩人ポール・クローデルが同じ詩人のポール・ヴァレリーに、自分は世界の中でどうしても滅んでほしくない国がある。それは日本だと言ったんです。

小山 クローデルはたいへん日本を愛していましたよね。

長岡 要するに、「彼ら(日本人)は貧乏だけれどもノーブル(高貴)だ」とクローデルは言っているんです。それを新人たちに話していると、私自身も含めて非常に恥ずかしい思いがする。日本は、戦後立ち直って経済的に豊かになったかもしれないけれど、貧乏だけれども高貴だというのとは逆に、金持ちだけど下品だということになっていないか反省する必要があると語ったんです。何か日本人が薄っぺらになった感じがしてね。

小山 本当にそのとおりだと思いますよ。これは、だいぶマスコミの責任もあるでしょう。経済大国から文化大国へ、あるいは質の向上だと体裁のいいことばかり言い、会社人間から社会人間だということで5年間に3度転職した若者を礼賛する。今は価値観だけが混乱しているんです。昔から言われているような “真善美” があればいいんです。

長岡 昔の旧制高校というのは、専門の学問を教えるよりも、豊かな教育を知らず知らずのうちに身に付けさせてくれた時期だと思うんです。そういう時代がなくなり、今の教育制度は、すべて次の教育機関への受験のためだけに存在しているでしょう。

小山 ゆとりを無理矢理破壊してしまったんです。学生の頃は、カントを読んでもよく分からなかったのだけど、少なくともそういうことをやっているうちに、自分自身の心が上等な味を覚えるんですね。

長岡 私はこれからの日本人に、心のゆとりを持ってもらうように、経済協力などで日本は金さえ出せばいいんだと見られないように文化の面で貢献できるような国になっていく方向が望ましいですね。

小山 皆が平等感をはき違えて秩序がなくなり、また礼儀がなくなっていますよね。上司と部下の関係でも、言葉は荒くとも、そこに愛情が込められていれば秩序というものは美しく守れるはずなんですけどね。

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