政治・経済

エコで高齢者が参加でき、雇用のある社会を目指す「プラチナ構想」の実現をライフワークとする小宮山宏・三菱総合研究所理事長。その主張については本誌コラム「視点」にて何度か紹介しているが、あらためて日本が目指すべき社会の姿と、その実現に向けて、今年特に注目したニュースについて語ってもらった。 聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=佐々木 伸

三菱総合研究所 小宮山 宏理事長の2015年で一番明るいニュースとは

(こみやま・ひろし)1944年生まれ、栃木県出身。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年東京大学工学部教授、2000年工学部長、大学院工学系研究科長、03年副学長などを経て、05年第28代総長に就任。総長退任後、09年4月に三菱総合研究所理事長就任。プラチナ構想を提唱し、実現に向けた活動を精力的に行っている。

(こみやま・ひろし)1944年生まれ、栃木県出身。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年東京大学工学部教授、2000年工学部長、大学院工学系研究科長、03年副学長などを経て、05年第28代総長に就任。総長退任後、09年4月に三菱総合研究所理事長就任。プラチナ構想を提唱し、実現に向けた活動を精力的に行っている。

―― 2015年を振り返って、特に気になったニュースは何ですか。

小宮山 まず、TPPが合意に達したというのは日本にとって良い話だと思いました。飽和している先進国の需要を途上国との連携で活性化していこうということなので、それ自体は正しい方向だと思います。先進国はどこもそうですが、自動車の台数にせよビルなど建造物の数にせよ、今以上には増えず、これまでつくったもののリプレイスが中心です。そうした中、中国でも需要の飽和がかなり明確になってきました。これを一過性のものと見るか構造的なものと見るかですが、私は構造的なものだと考えています。例えば中国のセメントの生産量は、人口1人当たりに換算すると約18トンですが、この値は米国を既に超えているのです。自動車にしても、日本では100人に対して45台の車がある計算ですが、中国が07年には2台、それが今や10台に増えています。あと7~8年で先進国に追い付くでしょう。このように中国でも飽和が近づき、今後はますます低成長になっていきます。1960年代の日本が10%近い成長を遂げて、どんどんペースを落としていったように、先進国が辿ってきたルートに中国も入ったということです。

―― 中国の急成長と減速は、先進国のペースと比べてもかなり早いですね。

小宮山 そうですね。それと、先進国の中では、米国が一番ゆっくりとしたペースで成長してきました。例えば、モータリゼーションにしても米国が試行錯誤しながら進め、他の国はそれを真似てきたわけです。

―― かつては米国が他国のお手本になってきたわけですが、今は課題先進国として日本が世界の見本になろうとしています。これから日本はどんな社会を目指すべきでしょうか。

小宮山 地球環境問題を例に挙げて言えば、先日、トヨタ自動車が発表した内容が非常に印象に残りました。トヨタは電気自動車、プラグインハイブリッド車、水素自動車などによって、50年に走行中のCO2排出量を10年比で90%減らすと発表しました。また、自動車から自動車を造るといったことにも言及しています。現在、日本にある自動車は約5800万台ですが、これ以上は増えません。廃車になった数だけ、新車が造られる構図です。人工物が飽和した先進国では、都市鉱山にレアアースや鉄といった資源が豊富にあり、これを回収して新たに自動車を造るということ。鉄鉱石からスクラップへの移行ですが、これこそが21世紀の本質と言えるでしょう。珍しく日本の企業がバックキャスティング、つまり将来の社会の姿を想定し、そこからさまざまな計画を作っていくという姿勢を見せました。今年、一番明るいニュースはこれだと思っています。

―― 日本ではトヨタのような民間企業が主導するにしても、中国では国策として取り組まないとうまくいかないのでは。

小宮山 難しいでしょうね。そもそも自由のない国では効率が悪過ぎてうまくいかないのではないでしょうか。ですから、中国が強くなり過ぎて困るというより、経済の早過ぎる減速といびつな構造によって中国が弱体化し、世界経済の牽引役がなくなることのほうが懸念されます。中国の次に牽引役として期待できるのは、インドとアフリカぐらいしかありません。そういうことがさらにハッキリと見えてくるのが16年だと思います。

三菱総合研究所 小宮山 宏理事長が注目したニュースとは

―― ほかに注目したニュースはありますか。

小宮山 20世紀は化石資源の時代でしたが、それが再生可能エネルギーに変わるのはほとんど確実です。21世紀は都市鉱山と再生可能エネルギーの時代。ここで日本がリードできるかどうかが非常に重要です。その意味で、米テスラモータースとパナソニックが協業して、蓄電池の生産を行うというニュースにも明るさを感じました。多くの日本企業は、世界の先頭を切って課題解決を担うというフロンティアスピリットに欠けているが技術はある。一方、テスラにはフロンティアスピリットがある。だからこの2社は良い組み合わせだと思います。先ほど挙げたトヨタの例もそうですが、こうした取り組みで日本を代表する大企業の名前が出るのは良いことだと思います。

―― 日本の課題として、超高齢化社会への取り組みもあります。

小宮山 地域で包括ケアなど、健康と自立を助ける産業が非常に重要になってくるでしょう。「医療・介護」はどちらかと言えば後ろ向きの考え。もちろん最後はそれらが必要になりますが、その前に健康支援産業と自立支援産業をもっと育てることが必要です。ロボットスーツの「HAL」を手掛けるサイバーダインや電動車いすを開発したWHILLといった企業が良い例ですが、そうした企業が世界を引っ張れる存在になれるかどうか。ここは本当に日本に頑張ってほしいところですね。

世界を引っ張る日本企業が出てくるためには

―― 日本からグローバルベンチャーを生み出すにはどうすれば良いでしょうか。

小宮山 東京大学の五神真総長が本格的な産学連携をやると宣言して、大企業の中に眠っているベンチャーの種を外部に出して事業化していくモデルを考えています。企業で眠っている知財や人材を、大学と連携させていこうという試みです。日本は大企業が強く、ベンチャーが出ていく隙間がないことが課題になっていますが、私はシリコンバレーと組んでしまえばいいと思います。先日、シリコンバレーに行っていろいろな人と話をしましたが、やはり向こうには自分でベンチャーを興して成功した人たちが日本とは比べものにならないほど多く、その人たちが次にベンチャーの出資者になる。そして、資金を出すだけでなく、メンターとなって一緒にやるのです。これは世界のどこも真似できない、シリコンバレー特有のエコシステムです。そもそも向こうでは、ベンチャーというものは9割がた失敗するものと定義していて、そこからスタートします。そういうプラットフォームを、日本も利用させてもらえばいいのではないでしょうか。

―― これまでの経緯から、日本では産学連携はうまく行かないイメージです。

小宮山 だからこそ、エコシステムが重要です。東大にはTLO(技術移転機関)があって、先生たちの研究から成果を吸い上げるシステムができましたし、エッジキャピタルやアントレプレナー道場、さらに安く提供するオフィスをつくったりして、成功例が出ています。一時はベンチャーキャピタルがもっと必要と言われていましたが、資金だけ出しても仕方がありません。こうした一気通貫のシステムが必要なのです。

―― 今や、それほど資金を必要としていないベンチャーも多いですからね。

小宮山 そうです。シリコンバレーと日本との違いは、そういう部分です。日本からグーグルやフェイスブックのようなグローバルベンチャーが1社でも出てくれれば、状況は変わるのではないかと思います。そのためには、勇気を持って国内の規制を突破するところが出てきてほしい。最近急成長している配車アプリのUberや民泊を仲介するAirbnbなどのビジネスは、どこの国でも普通は所轄官庁から認可など下りないと思います。でも、一気に拡大することで、世界的なデファクトスタンダードになってしまっている。Youtubeもグーグルのストリートビューもそう。でも、彼らはやってしまう。日本ではどうしても事業をスタートする前に所轄官庁と相談するけど、事前に相談しても駄目だと言われることが多い。だから、駄目だと言われても規制のせいにせず、やり続けるベンチャーが出てきたら面白いですね。日本で難しければ、シリコンバレーでやればいいと思います。

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