政治・経済

何かの実現よりもPR活動と世論対策が優先

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イラスト/のり

 とにかく、スタートから散々な評判だった。9月に自民党総裁選で再選された安倍晋三首相が、10月の内閣改造とともに新たに掲げた「1億総活躍社会」という政策の看板。しかし、安倍首相の記者会見や政府のホームページなどを見ても、これまでとダブる政策や言葉などが入り乱れて、どんな理念、どんな軸、そして具体的に何をしようとしているのか分からないという印象を多くの人が持った。

 新たに「新3本の矢」と銘打って、GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロを掲げ、これらを実現することで50年後も人口1億人を維持し、みんながもう一歩前に出ることができる日本にしていかなければならない――それが「1億総活躍社会」だという。

 安倍首相は、「アベノミクスの第2ステージに移る」と言いながら、一方でこれまでのアベノミクスの成果は総括されていない。当時は3番目の矢とされた成長戦略の規制緩和などは十分ではないと指摘する財界関係者や経済専門家も多い。また、前回の「3本の矢」は手段だったが、今度の「新3本の矢」は具体的な数値目標で、そもそも「矢」の意味合いが違うから混乱に拍車を掛けている。

 さらに、私が特に「安倍政権の政策的な方向が矛盾しているのではないか」と疑念を持つのは「新」の中に掲げた子育てや介護などの社会保障の部分だ。これらは既にプログラム法を成立させて(2013年)、国の負担を減らし地方自治体や各家庭に任せる方向で進めていたのに、いまさら制度や施設建設や補正予算など手厚くするのはなぜか。

 緊急提言の中には、17年度末までに保育所などの目標を40万人分から50万人分に積み増すことや、介護の在宅・施設サービスの整備を20年代初頭までに約6万人分上乗せして約40万人分とすることなどが盛り込まれる見通しだ(本稿執筆の11月13日現在)。だが、縮小する社会保障という方向はどこへ行ったのか。もし手厚くすると変更するならむしろそれでもいい。ならば基本的な政策転換するための法的整備なり、再議論すべきだろうがそれはない。言うこともやることも整合性がない。突然人気取りのバラマキ政策を単発で打ち上げたようにしか見えないのだ。

 ところが、その辺りを自民党ベテラン議員に聞いたところ驚くべき答えが返ってきた。

 「分かりにくい? 中身がない? それも当然で全く不思議じゃない。だってこの1億総活躍社会は、官邸が『政策』ではなく、『国民運動』として考えたみたいだからね」

 この聞きなれぬ「国民運動」とは、大きくスローガンだけ掲げ、担当大臣などが全国を回ってタウンミーティングや車座集会などを各地で開催し、国民の意見を聞きながら政権への期待や人気を高めていくという意味合いだ。「政策」として何かを実現しようというよりも、PR活動や世論対策が優先されるのだ。だから中身は「アバウト」でいい。いろんなものをまとめ直して化粧して、「政権浮揚や来年の参院選にプラスになればいい」(同ベテラン議員)ということらしい。

船の名前を変えても中身は変わらず

 安倍政権に内通する経産省OBがこんな解説を加えてくれた。

 「発足以来の安倍政権を船に見立てれば分かりやすい。船長も船員スタッフも同じ、向かっている方向も同じ、船の大きさも同じ、スピードも同じ。ただ、その時々、選挙や政局に応じて、船の名前や外側の色を絶妙に変えているんです。船長は安倍首相、スタッフは経産省を中心にした側近たち、方向は長期政権維持や憲法改正、財界と連携した経済政策など。船の名前はこの前までは統一地方選挙を見据えた『地方創生号』でしたが、今は来年の参院選へ向かって『1億総活躍社会号』と名前を言い換えただけです」

 10月19日に加藤勝信一億総活躍担当相と石破茂地方創生担当相との間で「1億……」の中身について初の会合が行われたが、「そこでは、新しいものを考え出すのではなくこれまでにある地方創生政策のどれを1億総活躍に移動させどれを残すかといった棲み分けに過ぎなかった」(自民党政調幹部)という。加えて石破氏はその後「加藤さんと一致したのは(1億総活躍は)国民運動なんだよねということ」とベテラン議員と同じ見方を示した。大蔵官僚出身で仕事師の加藤氏は黙々と政策調整を続けているが、就任当初は「何をやるんですかね」と自嘲気味だったと自民党幹部は明かす。

 安保法制成立後、「外交」では日中韓首脳会談にこぎ着けるなど点数を稼ぐ安倍首相。だが、「1億総活躍社会」が参院選対策や世論対策にすぎないとすれば、「内政」で及第点は取れない。

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