政治・経済

電機大手が事業再編に揺れている。主役は東芝だ。不正会計問題で傷ついた屋台骨を立て直そうと、パソコンやテレビ、白物家電といった主力事業の分社を模索。これが各社を巻き込んでいる。とはいえ、いずれも収益確保に苦しんでいる事業で、将来の展望は描きにくい。文=ジャーナリスト/岡田聡夫

東芝再編の頼りは産業革新機構

 電機大手は業績による勝ち負けが明確になりやすい。大手8社のうち、現時点でダントツの勝ち組が日立製作所。次いで三菱電機と、ようやくリストラから立ち直ったパナソニックまでの3社が勝ち組だ。

 一方、負け組の代表は、いまだ存亡の危機から抜け出せないシャープ。これに不正会計で一気に奈落の底に落とされた東芝が加わった。ソニーはなんとか負け組を脱しつつあり、富士通、NECと並んで低利益の中間派を形成している。

 勝ち組の3社以外はいずれも不採算事業を抱えており、なんらかの対策を迫られている。この中ではソニーがパソコンとテレビ事業を分社することで業績を上向かせており、他社にとっては大いに参考になっただろう。

 再編の引き金を引いたのは東芝だ。不正会計問題の打撃は当初の予想以上に大きく、業績は急降下。それ以上に深刻なのは、社員の士気低下による事業の失速だと言われている。

 東芝の主要な事業部門のほとんどで、幹部が不正会計に係わっていた。悩ましいのは、不正の方法が部門ごとに全く異なること。これは東芝が組織的に不正を働いたのではなく、会社全体にコンプライアンス意識が欠けていたためだ。再発防止の取り組みも各部門がそれぞれ別個に取り組む必要があり、社員が萎縮してしまっている。何より幹部の大半がスネに傷を持つので、ガバナンスが効きにくくなっている。ドラスチックな改革が必要だった。

 再建を託された室町正志社長は、過年度業績修正を経て9月に発表した第1四半期決算の席で白物家電事業からの撤退に言及。その陰で、パソコン事業の分社についての検討も進んでいたのだという。

 東芝にとって、再編の頼りになるのが産業革新機構だ。同機構は官民ファンドと言われることもあるが、資金の大半を国が出資する公的ファンド。民間企業のリストラを国が後押しする目的で財務省が主導して設立した。不採算事業を切り離し、有望な事業だけを生かすことを目的に資金を供給する。

 東芝は、この産革機構の大手ユーザーとして知られている。東芝、日立、ソニーの液晶ディスプレイ事業を統合した「ジャパンディスプレイ」の接着剤となったのは産革機構の資金だ。また東芝は、フランスのアレバの送配電部門の買収(失敗)や、スマートメーター世界最大手のスイスのランディス・ギア買収(成功)でも同機構の出資を受けている。

 事業再編のための資金があれば、他社に声を掛けやすい。国内のパソコン大手3社のうち、NECは既に中国のレノボグループの傘下に入っている。残る東芝と富士通が事業統合を検討するのは当然の流れだ。

 富士通は10月末の中間決算の発表時に、パソコンとスマートフォンの両部門を分社する計画を明らかにした。業界の多くは、東芝の呼び掛けに応じる準備だと受け止めた。

 さらにソニーから分社したVAIOを巻き込む説が浮上している。富士通もVAIOも、公式には東芝との事業統合を否定しているものの、可能性には含みを残している。産革機構の資金がバックにあればこそ、実現の可能性は高い。

 スマートフォンの影響で、世界的にもパソコン事業の将来は見通しにくくなっている。残るパソコンの国産勢は「レッツノート」を展開するパナソニックのみ。同社が今後、東芝、富士通、VAIOの事業統合の検討に加わることも十分に考えられる。

産業革新機構主導で東芝と電機大手との事業統合も

 一方、東芝は白物家電事業の分社も推進している。他社との事業統合や、新興国のメーカーへの売却などが取りざたされており、情勢はまだ流動的だ。

 この分野では、消滅した三洋電機の白物家電部門が中国のハイアールの傘下に入って成功している先例がある。ただ、テレビやパソコンと違い、白物家電は国民のライフスタイルによって国ごとに違いの出やすい分野。

 また東芝はパナソニックと並び、長く業界をリードしてきた白物家電のトップメーカーでもある。

 簡単に新興国メーカーに事業を渡すべきではないと国が判断すれば、ここにも産革機構が絡み、他の電機大手との事業統合に発展することが考えられる。新興国への事業売却説そのものも「東芝が産革機構に出てきてほしいための“ブラフ”ではないか」(業界関係者)という見方があるほどだ。

 それにしても、東芝の再編は皮肉な形で進んでいる。同社は佐々木則夫社長時代にインフラビジネスに集中しようとしたが、それに腹を立てたパソコン事業出身の西田厚聰会長が、佐々木社長を副会長に追いやり、パソコン部門で右腕だった田中久雄氏を後任社長に据えた。

 西田、佐々木、田中の3氏はそろって不正会計の責任を取って辞任した。もし今後、東芝が主力事業である白物家電やパソコンから撤退すると、佐々木氏が目指したインフラ事業主体の企業に変身することになる。あの“お家騒動”は一体何のためだったのかと、多くの社員が嘆くことだろう。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る