政治・経済

抜きつ抜かれつの戦いを繰り広げる日本生命保険と第一生命保険。先を見据えた経営力では第一生命が上との評価もあるが、危機意識から攻めの経営に転じた日本生命の底力も侮れない。果たして、軍配はどちらに上がるのか。依然として予断を許さない状況だ。文=ジャーナリスト/森川俊平

生命保険の業界首位、日本生命保険が2年ぶりに奪還

 生命保険の業界首位をめぐる争いが激化している。売上高に相当する保険料等収入(2015年4~9月期)において、2年ぶりに日本生命保険が僅差で首位を奪還した。第一生命保険も過去最高を記録したが、惜しくも首位陥落となるなど僅差での接戦を繰り広げている。年間首位の座をめぐっても、三井生命保険の買収効果が計上される日本生命が有利とされており、首位に返り咲くことが濃厚だ。ただ、“野武士軍団”の第一生命は表向きは平静を装っているが、現場を中心に「プライドが高い日本生命の鼻をへし折りたい」との思いを強めており、一歩も引かない構えだ。

 15年4~9月期の保険料等収入は、日本生命が前年同期比17.3%増の2兆8961億円、対する第一生命が同7.8%増の2兆7900億円と、その差はわずか1061億円だった。

 日本生命が再逆転したのは、団体年金保険の受託が好調だったことと、保険料を一括で払う豪ドル建て終身保険「ロングドリーム」の販売が好調だったことが要因だ。児島一裕常務執行役員は11月末の決算会見で、「トップライン(保険料等収入)は重要指標のひとつ。安定して長期的に優位性を確保することが重要。さまざまな取り組みを集中することで、より安定的、長期的にトップを目指していく」と述べた。

 16年3月期通期の首位争いの行方を左右するのは、銀行窓口で販売する外貨建て保険の動向だ。日銀の大規模な金融緩和の影響で低金利が続く中、利回りの良い外貨建てが注目されている。銀行側も利ざやが縮小する中、手数料が稼げるため、販売を強化していることもある。

 この外貨建ては一括で払い込む保険で、一度に数千万円単位の大口契約も見込めるのが特徴で、「とにかく売り上げが立つ。月に2万円程度の保険料となる主力の死亡、終身保険とは保険料等収入への貢献度が違う」(保険大手幹部)からだ。

 第一生命の銀行窓販分野は、専門子会社の第一フロンティア生命が手掛けており、同分野のシェアは約30%と首位。年間の保険料等収入は前年度比50.1%増の1兆8997億円(15年3月期)。銀行窓販専門会社ならではのきめ細かさを誇っており、銀行や保険利用者の声を迅速に反映する商品開発力に定評がある。この4~9月期も「前年が好調だったため、反動減を想定していた」(幹部)との予想を覆し、前期比3.1%増の9919億円と増収を確保した。

 一方の日本生命は、銀行窓販部門を本体内に抱える。昨年度は、リスク度合いがこれまでの保険商品に比べ高いが、リターンもそれに比例して見込める外貨建て保険のニーズが高まっているにもかかわらず、相続税改正への対策として、円建ての一時払い保険を前面に売り出すなど「ちぐはぐなことをやっていた」(生保関係者)。

 7月に豪ドル建ての終身保険「ロングドリーム」をようやく発売して巻き返しを図っており、15年4~9月期の窓販分野の保険料等収入は、前年同期と比べ40%(約3千億円)の大幅増収となった。しかも、出遅れていただけに、「伸びしろは第一生命よりも圧倒的に上」(第一生命関係者)なことから、さらに販売を伸ばしてくることも想定される。この差がどこまで縮まるかが、首位争いの勝敗を左右しそうだ。

先を見据えた経営力の第一生命、ぬるま湯体質からの脱却を目指す日本生命

 銀行窓販での伸びしろに加え、日本生命が優位とされる点は、三井生命の買収効果だ。

 予定通りならば、三井生命の買収が完了するのは、15年12月29日付。12月21日までTOB(株式公開買い付け)を実施したあと、連結子会社となる運びだ。この三井生命の1~3月の保険料等収入が、日本生命保険の16年3月期通期の業績に上乗せできる。ちなみに昨年度の1~3月の保険料等収入は1393億円となっている。

 かたや第一生命は、保険料等収入において首位争いが激化する中、次代を見据えた戦略を着々と打ってきた。

 10年に株式会社の経営形態に転換し、上場を果たして以降、米中堅生保であるプロテクティブ生命を5700億円で15年2月に買収を完了した。

 15年夏には、そのプロテクティブが新たなM&A(合併・買収)を米国内で展開。米生保ジェンワースの一部事業を6億6100万ドル(約793億円)で買収することで合意した。為替に変動されないドル建て資本で実施できることが大きく、他社が真似できない一手と言える。

 一方の日本生命は、三井生命、豪州保険事業の買収に加え、NTTドコモと提携し、全国の携帯電話ショップで生命保険の販売を始める計画を進めるなど、矢継ぎ早に手を打ってきたが、「先を見据えた経営力は第一生命に軍配が上がる」(証券アナリスト)と言われている。

 「首位からの陥落で尻に火が付いて、なり振り構わない姿勢に豹変した」とも揶揄される最近の日本生命の経営戦略。ただ、攻めの経営への転換で、盤石な国内トップへの復権に向け、「ぬるま湯体質の社内の意識改革をしている」とも言われる。日本生命にとっては、これからが正念場と言えそうだ。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る