政治・経済

株高と円安に頼ってきたアベノミクスの失速、集団的自衛権の行使を限定的に可能にする安全保障関連法制の可決、第3次安倍改造内閣の発足等々、2015年も永田町ではさまざまなドラマが展開された。今回は特別企画として、政治経済評論家の德川家広氏と、本誌連載「永田町ウォッチング」で筆を振うジャーナリストの山田厚俊氏、鈴木哲夫氏の3人を迎え、座談会を敢行。同コーナーの誌面を彩った、のり氏のイラストを眺めつつ、15年の安倍政治を振り返るとともに、16年の政局を占ってもらった。 構成=本誌編集長/吉田 浩 イラスト=のり

2015年安倍政権の評価はいかに

第3次安倍改造内閣人事ではしたたかさを見せつけた(本誌11月17日号)

第3次安倍改造内閣人事ではしたたかさを見せつけた(本誌11月17日号)

德川 私は国政を動かすのは外交だと思っています。そういう意味で2015年のトピックの1つがつい最近中国と日本で知的財産権を一緒にやりましょうとなったこと。これが日中間の最大の懸案でしたが決着がついた。これから日中関係は財界ベースでは画期的に良くなります。でも、安倍首相の外交思想を支える人たちは中国には否定的で親米派。安倍首相がそうした周辺を振り払って中国といい関係を作れるかカギです。

鈴木 私は15年、安倍首相が恐ろしいまでのしたたかなガバナンスを見せつけたと思います。内閣改造でもライバルを登用して発言を封じ込めたり信賞必罰があったり。国会運営も安保法制で国会を長期に延長し、そこへ反発できないように総裁選日程を組み込んだりといやらしいぐらいのしたたかさでしたね。

山田 そうやって、いろんなことを果敢にやる、鬼気迫るところの根源にあるのは、あまりよろしくない体調ではないかと私は思っています。安倍さん自身が誰に何を言われようともやり遂げる強さがあり他を圧倒しているのは、体調の関係でそう長く続けられないから一気にやるんだと。

德川 私は、一強で何でも強引に進める安倍首相が、あの支離滅裂な論理の安保法制で失敗して、国民の批判を浴び、有権者も気付くんじゃないかと思っていましたが、終わってしまうとやっぱり有権者は忘れてしまうんですかね。内閣支持率も回復しつつあります。

山田 ホルムズ海峡なんかを持ち出して安倍首相は説明していたが、あれはごまかし。アメリカがやりたくない所を日本にやってくれというウラがある。そこの議論もなかった。

德川 私は安倍政権の命運を握るのはやっぱり株価だと思います。アベノミクスの第3の矢の成長戦略は全然ダメ。結局株高と円安だけです。

鈴木 第3の矢とされた成長戦略は、徹底した規制緩和であとは民間に頑張ってもらうということでしたが十分じゃない。

山田 東南アジアの大使館の人と話をしたが、日本に輸出したくて規制緩和に期待していたが何もできていない。3本の矢ではなく3本の割りばしだと酷評でしたね。

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強引な手法で可決した安保法制に批判は高まったが支持率は回復基調に(本誌5月26日号)

鈴木 15年10月の改造と同時にアベノミクスは道半ばなのに早くもこれが第2ステージに移るという。しかも、どこから湧き出てきたのか「1億総活躍社会」という概念や新3本の矢を掲げた。ところが中身はこれからというし、その後の議論を見てもバラマキ。参院選対策としか思えません。

德川 結局、15年は経済政策的には何もできていませんね。金融緩和を続けてジャブジャブ財政出動しながらテイクオフをじーっと待っている。その間何かしなければやっていないと思われるから、「1億……」とかいろいろ考えている。そもそも「活躍」って、年金が減って引退できない高齢者が増えて、老いも若きも総活躍しなければやっていけないということじゃないですか。皮肉な言い方をすれば(笑)。

鈴木 私は、安倍首相の方向に時代錯誤を感じるんです。高度成長期の夢よもう一度と。しかし、人口は今後も減るし高齢化は進む。税収も減る。身の丈に合った日本を目指して、経済や社会の仕組みを考えるべき。次世代を真剣に考えたリアリズムがない。

德川 安倍政権全体で今が1961年あたりと錯覚しているんじゃないでしょうか。ちょうど岸信介が引退した翌日に自分が総理になったつもりなんでしょう。アメリカに引っ付いていけば日本は高度成長ができるんじゃないかと。私は、経済政策で即効性は移民労働力の輸入だと思いますが安倍首相に付いている保守派ブレーン集団からすると許しがたいでしょうね。だから安倍首相もできない。

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体調問題への不安は依然ささやかれる(本誌12月1日号)

山田 政治は多様性を認めるということが必要です。少子化対策が最優先なはず。移民もそうです。そもそもそうした政治のやるべきことをやらずに、一方では安倍政権は経営者側に対して給与を上げろとか民への介入など平気でやっているような気がします。

德川 今賃上げしても貯金するでしょう。アベノミクスは、みんながインフレを予想して買い物をするだろうというものでしたが、その購買欲は結局なかったということですよ。

山田 そのあたりの軽さは、結局体調の関係でサミットまでだからだと。それ以降の政治日程や将来的な経済などに興味を示していない、あとは野となれ山となれなんだろう――、そう感じてしまうんですね。

ラストチャンスを迎える野党

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野党再編に大きな影響を与えそうな「おおさか維新の会」(本誌10月6日号)

山田 安倍政権がどうしようもないとしても、それでももっているのは野党がダメだから。

德川 自民党はとにかくコトがうまく行っているように見せるのがうまい。野党、特に民主党にはそれができていない。

鈴木 自民党の長老元議員の村上正邦さんと話したら、とにかく野党には「悪知恵」がないと。どう見せるかとか、敵をどう騙すかとか、政治は正論ばかりじゃだめだと。

山田 政権交代の機運が出始めた07年以降、政治家、特に民主党の政治家がこぞって言い出したのは「私は政局の話はしない、政策しかしない」でした。だから僕は「じゃあ官僚になれ」と言ってきた(笑)。政治家は「政局」は絶対条件ですよ。

鈴木 そういう意味で、今一番悪知恵を出しているのは共産党かもしれませんね(笑)。連合政府や参院選での野党統一候補など。

德川 民主党の岡田克也代表が決断できるかどうか分かりませんが、解党して野党みんなで新党をつくり安倍政権に対する受け皿をつくるというのは一般論的に正しいと思いますね。私は、岡田代表や民主党の決断を後押しするのはやはり株価次第だという側面があると思います。株価下落、参院選に勝ち目が見える、ならば解党・新党という流れになるでしょう。

山田 ところで野党と言えば「おおさか維新の会」が大阪府知事と市長のダブル選挙で勝ちましたが、大阪の動きが今後野党再編に影響を与えそうですね。

德川 なぜダブル選挙でおおさか維新が勝ったのか。私は橋下徹氏らが大阪が首都になると宣伝したことで大阪府民や市民が騙されたんじゃないかと。かつての天下の台所の大阪人の心に響いたのではと。

鈴木 いずれにしてもおおさか維新は勢いづいて16年の参院選の準備をするという。本人たちは是々非々の野党と言っているが、それではもはや与党、野党じゃない。政権に近い第三極になるでしょう。安倍官邸が、政権運営や憲法改正などで「維新カード」を手にしたことになります。

德川 私は本誌の15年のこの鼎談で「橋下は終わった」と言ったんですが、その橋下氏を官邸の菅官房長官が重用し続け引っ張り続けるというのが計算外でしたね。

(後編につづく)

德川家広(とくがわ・いえひろ) 政治経済評論家 1965年東京都生まれ。翻訳家。徳川宗家19代目にあたる(徳川記念財団・理事)。慶応義塾大学卒業後、米ミシガン大大学院で経済学修士号を取得。国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部、ベトナム・ハノイ支部に勤務後、米コロンビア大大学院で政治学修士号を取得。『自分を守る経済学』(筑摩書房刊)、『日本政治の大転換』(勁草書房刊)など著書、訳書多数。 鈴木哲夫(すずき・てつお) 政治ジャーナリスト 1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。20年以上にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『ブレる日本政治』(ベストセラーズ)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。 山田厚俊(やまだ・あつとし) ジャーナリスト 1961年生まれ。建設業界紙、タウン紙記者を経て95年、元大阪読売社会部長の黒田清氏が代表を務める「黒田ジャーナル」で阪神・淡路大震災の取材に参加。その後、テレビ制作に携わり、週刊誌で活動を始める。現在、フリージャーナリストとして主に週刊誌、ビジネス誌で執筆。

 

(写真、左から)

鈴木哲夫(すずき・てつお)
政治ジャーナリスト
1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。20年以上にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『ブレる日本政治』(ベストセラーズ)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。

德川家広(とくがわ・いえひろ)
政治経済評論家
1965年東京都生まれ。翻訳家。徳川宗家19代目にあたる(徳川記念財団・理事)。慶応義塾大学卒業後、米ミシガン大大学院で経済学修士号を取得。国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部、ベトナム・ハノイ支部に勤務後、米コロンビア大大学院で政治学修士号を取得。『自分を守る経済学』(筑摩書房刊)、『日本政治の大転換』(勁草書房刊)など著書、訳書多数。

山田厚俊(やまだ・あつとし)
ジャーナリスト
1961年生まれ。建設業界紙、タウン紙記者を経て95年、元大阪読売社会部長の黒田清氏が代表を務める「黒田ジャーナル」で阪神・淡路大震災の取材に参加。その後、テレビ制作に携わり、週刊誌で活動を始める。現在、フリージャーナリストとして主に週刊誌、ビジネス誌で執筆。

 

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