文化・ライフ

背番号が変わることを拒否した選手たちの思い

 トリプルスリー(打率3割以上、ホームラン30本以上、盗塁30個以上)を達成し、セ・リーグのMVPにも選ばれた東京ヤクルト・山田哲人の背番号が「23」から「1」に変わる。

 ヤクルトにおける「1」は“小さな大打者”と呼ばれた若松勉をはじめ、池山隆寛、岩村明憲、青木宣親ら球界を代表する名選手が背負ってきた栄えある番号。山田は「偉大な方が付けていた背番号で重圧はあるが、“1”に恥じないように頑張りたい」と語っていた。

 その一方で、1ケタの背番号への変更を拒否した選手もいる。山田のライバルで、セカンドで3年連続ゴールデングラブ賞に輝いた広島の菊池涼介だ。

 「僕は絶対に変えません。(33には)江藤(智・巨人打撃コーチ)さんのイメージがありますから……」

 菊池は東京都東大和市の出身。広島で2度のホームラン王に輝いた江藤は中学の先輩にあたる。

 かつて菊池は語っていた。

 「あれは江藤さんが広島からFAで巨人への移籍が決まったときのことです。江藤さんの実家まで行ってボールにサインをしてもらったんです。すると、ボールに“ジャイアンツ”と書いてあった。“あぁ、本当に巨人に来るんだなぁ”と実感しました。子どもの頃は巨人ファンだったので、うれしかったですね」

 江藤は広島の2年目から「33」を付け、移籍した巨人、西武でも、その番号で通した。

 それもあって、菊池は早くから「この背番号には愛着があります」と語っていた。

 日本のプロ野球には野手の主力の背番号は1ケタという不文律がある。

 巨人を例にとる。王貞治は「1」、長嶋茂雄は「3」、原辰徳は「8」だった。

 もちろん最初から1ケタの番号が与えられる選手はエリート中のエリートである。

 ドラフト1位指名のエリートでありながら、重い番号を背負った選手と言えば巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜が思い浮かぶ。

 しかし、松井の場合、特例中の特例。当時のNPBホームラン記録は王貞治の55本。背番号55には、これを超えてみろ、という意味合いが込められた。

 入団時の重い番号を出世してからも大事にした選手と言えばイチロー(マーリンズ)が代表格だろう。

 1992年にオリックスにドラフト4位で入団した時の背番号が「51」。3年目に210本のNPB年間最多安打記録(当時)をつくってもイチローは「51」を変えず、マリナーズに移籍してからも同じ番号を背負い続けた。

 そのイチローが2シーズンだけ「31」を背負ったことがある。移籍先のヤンキースにはバーニー・ウィリアムスという生え抜きのスターがおり、彼が「51」を付けていたのだ。

 それについてイチローは「51は僕にとって特別な番号ですけど、(往年の名選手ウィリアムスが付けていたので)付けることはできない。新しい番号を自分の番号にしたい」と語っていた。

背番号は悲喜を共にする分身。その数だけドラマが

 背番号はプロ野球選手にとって、自らのアイデンティティーそのものである。中には車のナンバーや携帯電話にも背番号と同じ数字を使っているものがいる。

 以前、こんなことがあった。ある有名選手と食事をした後、繁華街の一角にある駐車場までその選手を見送った。

 するとプロ野球ファンとおぼしき人たちが、その車を取り囲んでいるではないか。高級外車というだけなら、他にもあった。

 理由はどうやらその選手の2ケタの背番号と車のナンバーが同じというところにあったらしい。「○○××」。その選手は「なぜオレの車だと分かったんだろう」と言って頭をかきながらサインに応じていた。

 三冠王を3度獲得した落合博満も人一倍、背番号にこだわりを示した選手のひとりである。

 ロッテ、中日時代の背番号は「6」。ところがFA権を行使して移籍した巨人では篠塚利夫がこの番号をつけていた。

 さしもの落合も、巨人の生え抜きで首位打者を2度も獲得している篠塚に「6を譲ってくれ」とは言えない。

 そこで使用したのが「60」だった。翌シーズン、篠塚が引退すると、待ってましたとばかりに「6」に戻った。

 中日の監督時代は6を2つ重ねた「66」で通した。

 余談だが、落合は監督時代、6回の退場処分を受けている。まさか退場の回数にまでこだわったわけではあるまいが、偶然の一致にしては話ができすぎている。

 2月には、120人近い選手が真新しいプロ野球のユニホームに身を包む。背番号は悲喜をともにする、いわば分身である。そして背番号の数だけドラマがある。

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