政治・経済

アベノミクスの新3本の矢の1番目の矢として、2020年にGDP600兆円の目標が掲げられた。この新3本の矢に先行する形で、経団連が15年1月に発表した「経団連ビジョン」でも600兆円の目標は定められている。実現可能性について、榊原定征・経団連会長は改革の必要性を強調する。改革を実行できれば、20年以降も日本経済は引き続き成長できるという。 聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=幸田 森

新3本の矢に通じる経団連ビジョン

(さかきばら・さだゆき)1943年生まれ。神奈川県出身。67年、名古屋大学大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了後、東洋レーヨン(現東レ)入社。94年経営企画室長、96年取締役、99年専務、2001年副社長、02年社長を経て、10年会長に就任。14年6月より経団連会長の職に就く。

(さかきばら・さだゆき)1943年生まれ。神奈川県出身。67年、名古屋大学大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了後、東洋レーヨン(現東レ)入社。94年経営企画室長、96年取締役、99年専務、2001年副社長、02年社長を経て、10年会長に就任。14年6月より経団連会長の職に就く。

―― 2020年をターゲットに政府は新3本の矢を発表しています。まず新3本の矢についてどう思われていますか。

榊原 「新3本の矢」の第1の矢は強い経済をつくろうとするもので、20年頃に名目GDPで600兆円を達成することを掲げています。大きな目標を立て、国の政策を集約させていくことは、われわれ経済界としても大いに歓迎していますし、協力していこうという立場です。

 もともと経団連では、15年1月に「経団連ビジョン」を発表しました。経団連ビジョンは30年を見越して日本のあるべき姿を描いたもので、それに向けて取り組むべき課題を挙げ、実現していく姿勢を表したものです。そして、いろんな改革を実行していけば、中間地点である20年にGDP600兆円を達成できるといった目標を示しています。経団連ビジョンで示した姿と今度の新3本の矢は、内容的には軌を一にしています。そういった意味でも経済界としては協力していこうという姿勢です。

 GDP600兆円は相当高い目標ではありますが、きちんとした課題設定をして、その課題を解決していけば、実現できる数字だと思っています。一部で「そんな高い目標は無理だ」と言う人もいますが、600兆円という旗を掲げて、国の総力を挙げて取り組んでいこうという姿勢が大事です。

―― 個々の課題を解決すれば600兆円を達成できるとのことですが、競争が激しくなり、企業の置かれている状況は厳しくなっています。

榊原 今、日本全体として経済のパイを大きくしていこうという話ですから、これはもうみんなが目指していかないといけません。今まで20年間デフレ経済を経験して非常に長い辛い閉塞感の時代を味わってきたわけですから、これを続けてはいけません。みんなで力を合わせて経済成長をやっていこうということだと思います。

 一方で、国に対しては、企業が成長戦略を推進できるような環境整備をしてほしいということをずっと言っています。私は「イコールフッティング」と言っていますが、外国との競争条件を同じにする。今はあまり言わなくなりましたが、企業をとりまく「6重苦」の問題があります。6重苦の中でも、為替は完全に解消し、法人税も下がってきている。それでもまだエネルギーの問題や、過度な環境対策の問題、規制改革、硬直的な労働慣行などが残っています。そういった6重苦をきちんと解消して、日本の企業が国内で事業を拡大しやすい環境をつくる。それから外国企業も日本に投資しやすいような環境をつくっていく。そうして日本の立地競争力を高めていけば、日本での成長機会はまだまだつくりだすことができると考えています。

最先端の研究を支援し実用化に結び付ける

―― 世界中で新しい技術が生まれ世の中が変わっていく中で、日本が国際標準などの動きで後れを取るケースが出てきています。新しい流れを日本がつくる、もしくは主導権を握るためには何が必要になるでしょうか。

榊原 日本の技術革新の力は、私は決して弱まっていないと思います。象徴的な事例としてノーベル賞の受賞者数をみても、自然科学の分野では21世紀以降、日本はアメリカに次いで2番目です。だから先端的な研究の力は決して日本は劣っていないと思います。しかし競争は熾烈になってきていますし、アメリカも中国も、それから諸外国も研究開発に国として力を入れていますから、そこはしっかりとやっていかないといけません。

 日本の技術革新力は相当あると思います。問題はそういった技術革新の種をいかに実用化につなげていくかが、これからの大きな課題です。大学や研究所などで新しい技術の種が出るわけですが、それをきちんと事業につなげていくことが大事です。そのシステムは、日本は必ずしも先端的でないので、大きな仕組みづくりをしなければいけません。国として最先端の研究開発を支援するような仕組みをきちんとつくることが大事で、そうすれば、日本は先端的な分野では絶対に負けないです。

―― 中国をはじめとする新興国の新興企業の動きが活発ですが、そこに日本企業は相対していかなければいけません。国際競争に勝つ上で大事なことは。

榊原 企業・業種によって違いますが、とにかく国際競争はますます熾烈になります。メーカーの立場で言いますと、世界のコンペティターに負けないだけの技術力を付けることです。圧倒的な技術格差を付ける。それで、新興国が真似できないような非常に強い製品をつくっていく。それに尽きます。コストも負けない、品質も負けない。そういうものをつくり続けていくことが、メーカーとしての使命だと思っています。それにプラスしてITやロボットなどを使って、単なるものづくりだけでなく、サービスと融合したような新しい事業形態をつくりだしていく。企業で言えば、事業の内容を変えて進化させていくことが大事でしょうね。

デフレマインドを脱却し積極経営へ転換

―― 過去の例からオリンピック後に経済が落ち込む国があり、20年は1つのターニングポイントとみられています。20年以降、日本経済が衰退しないためには何が必要でしょうか。

榊原 日本も20年を過ぎて、その先はポストオリンピックで落ち込まないようにしなければいけないし、そのために今から準備していかないといけません。そのひとつは、アベノミクス新3本の矢で達成するGDP600兆円を維持することです。経団連ビジョンは30年に向けてのビジョンで、20年時点のGDPは600兆円と言っていますが、30年には800兆円以上に増やすことができると見ています。

 それから日本の大きな課題は、国としての借金、長期債務残高です。それが今、GDPに比べて200%以上あります。改革を進めていけば、われわれの計算では、30年には140%まで減らし、GDPも800兆円超まで増やすことができます。しかし改革を怠ると、GDPも名目で1%強ぐらいの成長しかできない。それから長期債務残高も30年にはGDPの536%、5倍を超えて、非常にミゼラブルな世界になってしまう。改革を怠った場合は、日本経済は悪くなっていきます。でもきちんとした改革をすれば、30年に向けて、引き続き名目GDPで3%ぐらいの成長はできるし、長期債務残高も減らしていける。だから希望の国を実現できる芽はあるわけです。

―― 改革ということを強調されていますが、個々の企業の改革のために、経営者には何が必要になってきますか。

榊原 全体として言えるのは、長いデフレ経済が続いて、しかもリーマンショックを経験していますから、企業は非常に保守的な経営をせざるを得ない時代がずっと続いてきたわけです。その慎重な姿勢が経営者のマインドの中に染み込んでいる部分もあります。今は経済成長に向けて、前向きな経営、積極経営に転ずるべきだと思います。

 実際にそういう方向になってきていると思いますし、その証左に15年度は史上最高の業績を上げている企業がたくさんあります。また、企業の経常利益の合計が14年度は初めて60兆円を超えました。ですから、企業のマインドも変わってくると思います。ただし、実力的には為替に助けられた面もありますので、もっと企業の収益を上げていく、成長機会をつくっていく経営姿勢をとっていかなければいけません。一番大事なのはマインドで、経営者に求められるポイントは、デフレマインドから脱却し積極経営に転ずること。これがキーワードだと思います。

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