政治・経済

日本電産は2020年のターゲットに売上高2兆円を掲げる。永守重信会長が抱く「30年に売上高10兆円」の成長シナリオからすれば、それも通過点の1つにすぎないのだろう。しかし、これから日本の製造業は、激しいグローバル競争にさらされる。それと同時に新しい技術革新による社会の構造変化が起こる。頑張る企業や個人にとっては逆にチャンスの時代がやってくると永守会長は自社の成長に自信を見せる。 文=本誌/村田晋一郎 写真=宇野良匠

企業も個人も勝ち組と負け組が分かれる

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(ながもり・しげのぶ)1944年生まれ、京都府出身。67年職業訓練大学校卒業。ティアック、山科精器を経て、73年日本電産を設立し、代表取締役社長に就任。2014年10月より代表取締役会長兼社長(CEO)。

 これからの戦い方は非常に厳しくなってくると思います。過去と全く違うのは、完全にグローバルの戦いになってきます。今までの相手は韓国や台湾でしたが、今度は中国。中国はエンジニアの人口も多く、優秀な人材も多い。そこと戦っていかなければなりません。

 当社は2015年3月期に売上高1兆円を達成しました。売り上げの伸びは、1973年に創業して100億円の壁を破るのに12~13年、次に100億円から1千億円までもほぼ同じぐらい、1兆円はリーマンショックもあって少し遅れましたが、だいたい同じ時間軸で来ています。ですから次の目標は30年に10兆円です。これは今のところ「ホラ」ですが、時代も変わってきて、不可能ではないと思っています。

 当社は単に会社を大きくしようとするのではなく、強い会社をつくるためにM&Aなどをやってきました。強い会社はある程度規模が大きくないといけません。売上高1兆円は日本としては十分戦える規模で、強い企業の条件の1つ目をクリアしたことになります。しかし1兆円は日本では大企業ですが、世界の大企業となるとまだ桁が違います。これからグローバルで戦っていかないといけませんし、ヨーロッパでもアメリカでもアジアでもオールマイティに戦って勝とうと思ったら10兆円の売り上げ規模が必要になります。

 次の10兆円の大台に行く道筋もあまり変わらないと思っています。過去の1千億円の時も最初の5年間で売り上げが倍になっています。ですから、まずは20年に売上高2兆円を目標にしています。

 今後は「経営力」が重要になります。今まで日本には「経営力」という言葉はありませんでした。経営者が指揮を執って、率先していく。アメリカのように、社長や会長ではなくCEOが先頭に立って会社を引っ張っていく。今の中国もそうです。そういうところと戦うわけですから、日本も経営者が先頭に立って指揮を執る時代が来たと思います。

 それから、強い会社、弱い会社がはっきり分かれてきます。それは個人でもそうです。例えばアメリカでは、最低賃金で働く人がたくさんいる一方で、10万ドル以上の収入を得る人がいる。M型と言いますか、真ん中の層があまりいない。給料が低い人か高い人かに二分される。これから日本もそうなっていきます。負け組と勝ち組が非常にはっきりしてくるということは、努力したぶんだけ結果が出る時代が来るので、それは良いことなんです。ですから、頑張る人はそれなりの収入が得られて、怠ける人は非常に低い賃金で働かなければいけない。

 20年は明るいかと言われると、非常に明るいと思うけれども、全部は明るくない。企業も個人も明暗が非常にはっきりしてくる。ということは頑張る企業や個人にとってはチャンスです。

良い意味での野心で国に活力を与える

 1つの懸念は、間違った楽しみというか、生活をエンジョイしたほうが良いという機運です。政府は「もっと休め」とかいろいろなことを言います。それ自体は非常に良いことで、確かにもはや時間で働く時代ではなくなってきているので、働く時間を短縮することにも全く異論はありません。ただし、生産性を上げずに働く時間を短縮すると国力が落ちます。これからグローバル競争が激化していく状況では、非常に危ないと思います。

 そうは言っても頑張る人は頑張ると思っています。しかし、最近の世論は、われわれのようにガツガツ働く会社は「駄目だ」みたいに言うわけです。一生懸命働いて、頑張って会社を大きくして、頑張った社員が昇進していくことは決して悪いトレンドではないと思います。頑張る人が認められない、報われない社会は駄目だと思います。

 国の活力は、良い意味での「野心」が必要です。どんどん会社をつくって、新規事業をやって、会社を大きくしようという気持ちがあるから国に活力があるわけです。今の中国がまさにそうですし、アメリカもどんどんニューベンチャーが出てきています。成功したら多くの富を得て、自分たちの生活が良くなることがはっきりしていて、周りからも成功者として尊敬されるのは良いことだと思います。

 一生懸命働いて、それで良い会社ができて、世界で何十万人も雇用を維持することは社会に十分貢献していると思います。そしてさらに大きくしていく、小さなベンチャーで終わるのではなく、やはり日本の基幹産業を支える企業がこれからも出てこないと駄目だと思います。

 最近は企業が投資しないと言われますが、われわれはそんなことはないです。借り入れをしてでも、研究所や開発拠点をつくっています。それも都市部だけでなく地方にも研究所を開設し、雇用創出という面でも貢献しています。

 また、少子化は日本の産業界にとっても問題です。やはり人材が枯渇していきます。ですから、当社は、グローバルの戦いにもっていこうとしています。現在でも8割以上は外国人です。しかし日本だけを見たときには、若年者が減っていくことは企業にとって大きな懸念です。

 若者に夢を与えるのが企業ですから、夢を与える相手が減ってくるのは問題です。そういった流れの一環で、モーター技術者を支援する「永守賞」を創設しました。世界的に見てもモーターの研究室が減り、技術者が少なくなっていますが、しかしモーターの需要は増えてきています。将来いったい誰がモーターを供給するんだという思いから、永守賞で、モーター技術者を表彰し、研究助成金を出します。これは決して日本電産のためではなく、社会全体のモーター産業のためにやっています。別に当社に入社してこなくても助成金を出します。

新たな技術革新でホラや夢が現実に

 社会への影響という意味では、モーターが完全に「産業の米」になりつつあります。当初は25年頃と見ていましたが、その動きはむしろ早まっています。自動車の電動化が進み、自動運転にまで広がっています。それから掃除機をはじめ電化製品のコードレス化が進んでいます。あらゆるものが電動化し、ものすごい勢いでモーター需要が増えています。これからどんどん新しい製品が出てくると思います。もちろんロボットもそうですし、ものすごい技術革新が起きています。そういうところでわれわれは社会貢献をしないといけないと思います。

 今は世界的にも原子力発電の問題で揺れていますが、これも電気をあまり消費しない効率の良いモーターが出てきたら解決します。世の中の電力量の53%はモーターが消費していますが、例えば、モーターの消費電力が半分以下に減ったら、原子力発電所が要らない時代が来ると思います。

 また、10年前には自動運転の自動車が出てくると信じる人は少なかったと思いますが、出てきたわけです。現にわれわれは自動運転に対応するモーターを供給しています。「それはホラや夢だ」と人はすぐ否定しますが、そのホラや夢が現実化してくる時代になってきました。だからこそ、経営や仕事をエンジョイする時代が来たと思います。

 過去に昭和40年代は、洗濯機やテレビが出てきて、世の中がものすごく変わっていきました。あの時の日本の社会は技術革新が起きて大きな構造変化を遂げたわけです。みんな早く金持ちになって、自動車を買いたい、冷蔵庫を買いたい、テレビを買いたいと思い、そのために一生懸命働きました。最近は何でも物が揃っていますが、新たな技術革新で構造変化の時代がもう一度やってくると思います。例えば脚の悪い人が装着型ロボットを付けて歩けるようになり、旅行にも行けるようになるわけです。そういう時代が来ると、もっと夢を持てますし、われわれはそういう時代がつくれるものを供給しないといけないと思っています。 (談)

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